獣に抗う者たち(2)
ブシュアアアアアアアッッ!!
「ぐあぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッ!!」
僕の右手は深く切り刻まれ、大量の液体が噴出する。
傷口を必死に押さえながら、懸命に頭を働かせる。
ヒナタちゃんと繋がる砂鉄の糸が振動したと思った瞬間、手が深くにまで切れた。
「ヒナタちゃんの仕業か……ッ」
激しい痛みに耐えつつ、そう推測する。
沼を振動させて水分を飛ばすなど、ヒナタちゃんには『物体を振動させる能力』があるらしい。
うかつだった。
だが土の棺桶だけでなく、電流でも彼女の動きを奪っていたはず。
「……そうか! 土の棺桶が電流を絶縁していたんだ!」
土は電気を通さない。僕から流れ出す電流はヒナタちゃんの前でシャットダウンされてたってことか。
『水』と『氷』、『風』と『炎』など相性がいい忍術がある。反対に、自身の忍術を打ち消す組み合わせだって存在するのだ。
「くそ…………ッ!!」
自分の不甲斐なさに思わず悪態をつく。
ズキズキズキズキ……ッ
痛みがさらに増し、エネルギーが零れ落ちていく。まるで傷口にばい菌が入り、グチュグチュに侵食されるように。
――――ボクを出しちまえよ。
「あがぅ……ぁッ!?」
脳みそをスプーンでかき混ぜるように頭の中で声が反響する。
「ハアハア……ッ!」
呼吸がしだいに荒くなる。視界がかすみ始め、音が鈍くなっていく。
だが、追い打ちをかけるようにして出来事は運ばれた。
術の力が弱まり、土の棺桶が破壊されてしまったのだ。
「アオオォォォォォオオオオオンンッ!!」
自由を取り戻したヒナタちゃんが月に向かって咆哮した。
ううっと低くうなり、こちらを睨みつける。
「まずい……っ。このままじゃ……このままじゃ…………ッッ!!」
僕の意識がなくなって――――
――――ヒナタちゃんを救えない。
――――母親との約束も守ることが出来ない。
――――獣人の僕にしか、できないのに……ッ!!
「バウッ!!」
足のバネの力を最大限に引き出しヒナタちゃんが飛んでくる。
ギラリと黒く鋭い爪が光った。
「くそぉぉォォォォオオオォォォォッ!!」
自身の弱さを痛感し天に向かって叫ぶ。
握る拳から血があふれるほどに。
最後まで目をそらさなかった。
頭の割れるような頭痛にも負けなかった。
――――死ぬのは、僕だけで良い。
「大丈夫だよっ、コーくんっ」
耳元で、天使のささやきが聞こえた。