子犬の少女(1)
イヌの獣人となったヒナタちゃんを追いかけて、僕は夜の白い街を駆け抜ける。日中はあんなにもにぎわっていた商店街も真夜中になると人っ子一人もいない。
商店街を出て住宅街の公園らしき場所へと差しかかったとき。
「見つけたっ!」
公園の中心で夜空を見上げる、一匹の獣人がいた。
面影もない彼女は猛々しく咆哮する。
「アオオォォォォンッ!!」
「ヒナタちゃん!」
僕は敷地内に足を踏み入れ彼女に近づいた。
ヒナタちゃんがゆっくりと首をうごかし、こちらをにらみつけてくる。
本当に、見る影もなくなっていた。
可愛らしいボブヘアーは獣毛にかわっていて頭からは大きな耳が生えている。
犬の顔立ちになった彼女はのどを鳴らし低くうなった。
「…………っ」
さて、ここからどうするかが問題だ。
一般的に、獣人になった人間は自我を持っているはず。ライオネルたちがいい例だ。
だけど、母親を攻撃したヒナタちゃんには見受けられない。獣人になりたてだからかは分からないが、自我がないんだ。
コミュニケーションをとるのは不可能ということになる。
「ヒナタちゃんを治せるのは、イッちゃんだけ……」
イッちゃんに獣人という病を治せるのかは分からない。
けれど、症状をおさえることはできるはずだ。
これは体験談からいえる。
僕の肌割れをとめてくれているのもイッちゃんがくれたローションのおかげだから。それに獣人化した僕を人間の姿に戻してくれたのも、たぶんイッちゃん。
「……最終的な目標は、ヒナタちゃんをイッちゃんのもとに連れていくことだね」
毛の付け根から半分までが白髪になってしまった自分の髪をさわりながら今回の目標を定める。
ということは、いったんヒナタちゃんを眠らせる。
もしくは、身動きをとれなくするしかない。
「――――って、アレっ!? ヒナタちゃんがいないんですけど……っ!!?」
考え事をしている間に目の前からヒナタちゃんの姿が消えていた。
バッと辺りを見回すがどこにも見当たらない。
「やばい、やばいやばいやばい……っ!」
早く見つけないと何が起こるか分からない。
とはいっても、今すぐ見つける方法なんて……。
「あ……っ!」
彼女を見つける方法が一つだけあった。
しかし、僕にそれができるかどうかは不確かだ。
「…………」
もしかすると、とてもまずい事態になるかもしれないけど……。
……やるしかない。
僕は深呼吸して腹を決めた。
目を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。
パキ……っ
頬の肌がひび割れた。