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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第6章 白い街で子犬を拾う
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白い街の夜(2)


『この街から出ていけ』『俺たちまで感染するだろ』『近寄るなよ』『バケモノ』『獣人め!』


 呪いのおふだのような紙が何枚も何枚も、一軒の家に貼りつけられているのを見つけた。


「な、なんなんだよ……これ」


 書きなぐられた文字から書き手の恐怖が感じ取れる。だけどそれはどこか悲しみも入り混じっていて。いくつかの紙には涙の濡れたようなあとが残っていた。

 僕はもう一度家の中を覗いてみた。


「……やっぱり、誰もいない」


 家の中は二つの大部屋に分かれていた。玄関に近い部屋は食卓用のテーブルとイスが置かれていて食器棚などがある。二階へとつづく階段もそこに設置されていた。もう一方の部屋には丈の低いちゃぶ台のようなものがある。

 見るからに少し前まで生活していた痕跡が残っていた。

 どういうことだろう……?

 今は夜空の頂点で月が輝いている真夜中だ。

 イッちゃんたちが眠っているように街の人たちも夢を見ているはずの時間帯。

 それなのになぜ誰もいないのか。


「二階かな……?」


 シュタっ


 軽くジャンプして二階の様子をうかがってみた。

 が、布団が敷いてあるだけで、やはりそこには誰もいない。


 トンっ


 綺麗に着地して再び考え始める。


「誰もいないのに、最近まで生活していた形跡はある。……何かの理由で家を出ているのかな?」


 無数に貼りつけられた紙といい不可解なことばかりだ。


 ……いや、もう答えは出ている。


 紙に書かれていた内容や状況から察するに。


「――――この家の人はきっと獣人になって追い出されてしまったんだ」


 獣人になってしまったから周りの人々に拒絶され追い出された。

 獣人とは一種の感染病みたいなものだとライオネルたちから聞いた。それを語る彼らの表情はとてもつらそうで。

 この家の人もきっと今は絶望の中にいるに違いない。

 今まではごくごく普通のありふれた日常の中にいたのに。

 当然のように思っていた未来が崩れ去っていって。

 いつも挨拶を交わしていたご近所さんから非難をあびて。

 人里離れた森や山の中できっと身を潜めて暮らしていて。

 もしかすると、もう…………。

 そんなふうに思ったとき――――隣の家から子供の泣き声らしき音が耳に入ってきた。

 不思議に思い、そっと隣の家の中を覗いてみる。


「おかあさん!! わたしイヤだよ!! 離れたくないよ!!!」

「うぐ……っ、お母さんだって嫌よっ! でもこのままじゃっ! このままじゃ…………ッ!!!」


 大声をあげて泣き叫ぶ娘を母親らしき女性がキツく抱きしめていた。彼女の瞳からも涙がボロボロと零れ落ちている。

 僕は一瞬、この親子がどうしてこんなにも泣いているのか理解できなかった。

 だけど娘の腕の状態を瞳に映して、さぁっと顔から血の気が引く。



 ――――人とは思えない、犬のような毛が腕を覆うほどに生えていたのだ。



 つまり。


「この子も、獣人に……感染してる…………?」


 手元の紙に視線を下ろして想像する。


 ――――この小さな女の子も、行方不明の人みたいな残酷な目に遭うの…………?

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