女の子の特権(1)
「……はぁ。女湯くらい覗かせてくれてもいいじゃん」
「女湯くらいって…………覗きは犯罪ですからね」
僕の隣で湯に浸かるギンが大きなため息をつく。身体を洗った直後、女湯を覗こうとした僕にあきれているんだ。でも仕方がないことだよね。だって男の子だもん。
手でお湯をすくってパシャッと顔を洗う。
天井の明かりを見上げしばらくボーっとしているとギンが何気なく話しかけてきた。
「それにしても……今日は大変でしたね」
「あ、あはは……」
ギンに言われ僕は苦笑いを浮かべながら今日の出来事を思い返す。
王宮へと向かったハナちゃんを追いかけようと出発したのが今朝。
ギンによると、泊まっていた宿屋から王宮まで半日で行けるとのことだった。
僕たちは予定通り、着々と進んでいたのだが。
事件は白い街にある商店街で起こった。
「まさか、女の子たちがあんなにもはしゃぐなんてね…………」
「あの勢いはまさに恐竜でしたよ……」
ちょっと前のことを思い出して僕とギンは青ざめた。
商店街は人々の暮らしを支える重要な役割を担っている。当然この白い街の商店街も栄えていた。
この街のほとんどの建物は白い石灰岩なんてものでできている。これは一般的に大理石と呼ばれているもので、外の世界でいう古代ギリシャやヨーロッパで使われていたらしい。
ちなみにこの知識は僕の兄であるユウから教えてもらったものだ。
「…………ユウ兄さん。今頃何してるのかな……」
僕は時々、生き別れた兄さんのことを思い出す。
同じように精米されて、誰かに食べられたのだろうか。だとしたら、その人の精神世界で今も元気にしてるのだろうか。真実を知ることはできないが、きっと自分の好きなように生きてるんだろう。
「……天才様はどうせ、世界の謎や神秘について研究してるに違いないや」
皮肉めいたセリフを吐いては、ふふっと笑みをこぼす。
そんな僕の様子を怪訝に思ってか青ざめるギンの顔にさらに小じわが増えた。
「独り言で笑うなんて気持ち悪いですよ、ウシオさん」
「え、あっ…………ウイッス……」
……なんか…………キザになってた自分が恥ずかしい。こういうことって、きっと誰にでもあるよね……ウン。
なんだかいたたまれない気持ちになった僕は誤魔化すように話題を戻した。
「で、でもさ、やっぱり昼間のイッちゃんたちはすごかったよね」
「あれが乙女の真の力というやつでしょうね……」
二人してため息をこぼす。
さっきの話の続きなんだけど。
白い建物が並んだ商店街にやってきた僕たちは休憩がてら各お店を覗いてみた。色とりどりのフルーツや、子供から大人まで楽しめる本が充実していて。へぇ、わぁ、すごいなぁ、なんて感想をもらした。
そうそう。いくつかのお店に、不思議なドリンクが色々置いてあったんだ。
ギンにこれは何って聞いたら、なんと『ヤキニク』味のドリンクらしい。外の世界の『焼肉』のことっぽい。他にも『オサシミ』味や『サラダ』味なんてものもあった。
想像するだけでも飲む気が失せてしまうが、この世界ではちょっと前から一般的な食事になっているそうだ。
王宮にいる私の友人が開発したんですと自慢するギンの笑顔が印象的だった。
それで、肝心の出来事なんだけど。
「そろそろ出発しようか」
「そうですね。今から向かえば、ちょうど日が沈むくらいに着くでしょうし」
ある程度見終えた僕らが再び王宮へと歩き出した時。
「…………ッ!! ねぇ、あれ見てイネ……ッ!!」
「うひゃあ……っ!!」
何かを見つけたアミちゃんとイッちゃんが突然そのお店に向かって走り出したんだ。