こんばんは、メイドさん(4)
ハナは自身の身に起こった出来事を包み隠さず話した。
ユーリという獣人の死体を操る敵からイネを取り返したということを。
仲間を増やすためにもといた王宮に足を運んだということを。
そして、ウシオが完全な獣人となり果ててしまったことを。
「……チッ。ついに恐れていたことが現実になっちまったのか」
「ウシオくん、大丈夫かな…………」
リュウやナツミの反応は意外にも落ち着いていた。本来なら天地がひっくり返ったような衝撃を受けるはずである。
しかし、彼らは知っていたのだ。
ウシオが獣人に感染していたことを。
「一度は暴走したものの、最後には人間へと戻ったので大丈夫ですわ」
「なら、心配いらないね~」
「……今頃もどっかでバカしてるんだろな」
本人が聞いたら号泣しそうな会話だが、正直なところ、彼らは心の奥底で一抹の不安を抱いていた。
だからといって心配してるだけでは何にもならない。
リュウはハナに、詳しい話をさらに求めた。
「……それで、その後のウシオたちはどうしてるんだ?」
「どうなのでしょうか。暴走したコーさまを抑えた後、すぐにこの王宮へとやって参りましたので……」
「……そうか」
散らばった仲間たちのことが気になる彼ら。
ここにいるのはリュウ、ナツミ、ハナ、それに眠っているリコ。
シオンはこの王宮のどこかに閉じ込められていて。
ウシオとイネは何をしているのか分からない。
こうしている一方で、『革命軍』の作戦は進行している。早く止めなければ、シオンが処刑されてしまうかもしれない。
とはいっても仲間がいなければ立ち向かう事すらできない。
『革命軍』には強者ばかりがそろっている。
強靭無敵の大男、ゴリラの獣人となるシャバーニ。
魑魅魍魎を司る包帯少女、獣人の死体を操るユーリ。
そして、黒装束を身に纏った正体不明の男・クロ。
この世界に変革をもたらそうとする組織。
他にもたくさんのメンバーがいるはずだ。
当然、生半可な戦力では勝てるはずもない。
多くの仲間が必要になってくる。
「……なぁ、ハナ。ウシオたちはお前がここにいるってのを知ってるのか?」
「えぇ、イネには伝えておきましたよ」
彼女の言葉を聞いてリュウは少しだけ安心した。ハナが王宮にいるのを知っていれば、ウシオたちがここへとやってくるだろうから。
ハナの話を聞いた限りではウシオたちがそろそろ来るはずだ。
「……早く来いよな、あのノロマめ」
天井を見上げ、リュウがポツリと呟く。
結局、話はそこで終わった。
何もできない今、ウシオたちが来るのを待つしかない。
ただ、リュウは待つということがどうにも我慢できなかった。
シャバーニと戦った記憶が身体をうずかせる。
「……そんじゃこれで解散だな。俺は誰もいない王宮の裏手で修行してくるぜ」
「何言ってんの、リュウ。もう夜だよ?」
「……は?」
ナツミに言われリュウは慌てて窓際まで寄った。
空は藍色に染まり月が雲に隠れている。半透明な雲からは光が透け通っていた。
「…………マジか」
「そうですわ。わたくしたちも明日に備えて早く寝ましょう」
ベッドで眠るリコの隣に寝そべったハナがそう諭す。
リコを見つめる彼女はどこか儚げで。
「…………コーさま、イネ。無事でいてください」
小さな声で呟くハナは夢見るリコの前髪を整えた。
――――――同時刻。とある宿屋にて。
「…………ごくり……っ」
目の前に立ちはだかる壁面を見上げ、一人の男が生唾を飲み込む。
壁の向こうでは、
「前に会ったときもイネちゃんのおっぱい触ったけど、なんか大きくなってる…………ッ!!」
「もう、アミってばくすぐったいよーっ!」
女の子たちが黄色い声をあげて盛り上がっていた。
ピンク一色な思考回路で、その男は覚悟を決める。
「乗るっきゃない、このビッグウエーブに……ッ!!!」
「やめんか」
女湯を覗こうとしたウシオは仲間のギンにツッコミを入れられていた。