地下での仮説(5)
「あんたたちは誰って聞いてんのよ……っ!!」
「……っ!」
ロウソクを持った赤髪のメイドにリュウたちは肝を冷やした。
しかし、リュウはすぐさま頭を切り替える。
この状況で一番起こってほしくないのは、騒ぎ立てられ仲間を呼ばれること。そしてリュウにはメイドが次にどのような行動をとるか大体予想がついていた。
大声をあげるもしくはこの場からの逃走だ。
相手の出方をゆっくりと見極める。
後方にいるナツミも同じようにしていた。
赤髪のメイドとじりじりにらみ合う。
「――――っ」
彼女の足くびが回転し、身体にひねりが加えられた。
「(逃走するつもりだな……っ!?)」
リュウが容易に赤髪メイドの行動を推測する。
ナツミに視線を飛ばすと彼女は軽快にコクリとうなづいた。
お得意の拘束技を発動するのだ。
成功を確信し、赤髪メイドのほうへと振り返った。
彼女は今まさに背を向けて第一歩を踏み出そうしている。
「……ナツミ……ッ!」
「オッケ~っ!」
両腕をひろげ手のひらに手錠を生成した。
赤髪メイドの逃走を阻止すべく手錠を飛ばそうとする――――その直前。
赤髪メイドは柔軟な足首で身体を翻し、
「やっぱり怖いぃぃぃいっ!! 助けてビイ、リンちゃぁぁぁぁぁあんんっ!!」
「……い……ッ!?」
「こっちに向かってきたよッ!?」
恐怖からくる彼女のものすごい形相にリュウたちが逆にびっくりさせられた。突進する赤髪メイドがリュウやナツミを吹き飛ばしてそのまま突っ走る。
「いたた……っ。早く追いかけないと……っ!」
「……だな……ッ!」
しりもちをついた二人は早急に体を起こして彼女の行方を追いかける。幸いにも赤髪メイドの持つロウソクのおかげでリュウたちが彼女を見失うことは無かった。
――それに。
「ここどこぉぉぉお……ッ!? うわぁぁぁぁぁあああんっ!!」
彼女の愉快な叫び声が、私はここだよと主張していた。
「…………騒がしいやつだな……」
「あ、あははっ……」
緊急事態にも関わらず苦笑いを浮かべる始末だ。
長く続く逃走劇の中。
「ねぇ、リュウ。この道順、もしかして『ある部屋』にたどり着くんじゃ……?」
「…………エ?」
並走しているリュウがアホの顔をしている。
どんな状況であれ彼は彼らしい。
数十段ある階段を下り終え、ついにライオネルの言っていた『ある部屋』の前までやって来た。
息を切らす赤髪メイドが、扉の前で首をかしげる。
「こ、この部屋ってなんだろう? ……って、悩んでる場合じゃなかったっ! 早く隠れないと……っ!!」
「あっ、中に入っちゃった……!」
「……俺たちも続くぞ、ナツミ!」
重々しい扉をくぐり抜け、リュウたちが隠れたメイドを探し出そうとするが。
彼女は隠れることなく部屋の中心で佇んでいた。
「……ようやっと追い詰めたぞ。さぁ、観念するん――――――あ……?」
その場の異様な雰囲気に気がつきリュウの息が止まりかける。
同様にしてナツミも絶句していた。
壁にこびりつく無数の血痕。
鼻につく生臭い異臭。
無造作に散らばるさび付いた金属工具。
そして、緑色の液体に満ちたカプセル状の設備に入っている、『人間』。
「……んだよ、これ………………?」
――そこはまるで、人体実験施設のようで。
リュウが恐る恐るカプセルに触っていると、唐突にナツミが声をかけてきた。
「リュウ……ッ!! こっちに来て…………ッ!!」
彼女の声色が激しいことに、リュウは嫌な予感を覚える。
呼びかけるナツミのもとに急いで駆けよった。
今度こそ、息が止まる。
「…………リコ……?」
リュウの瞳には、カプセル内に閉じ込められた彼らの仲間・リコが映っていた。