地下での仮説(4)
ライオネルのちょっかいからややあって、リュウとナツミが話し始めた。
「……とりあえず俺たちが目指す場所は、ライオネルの言ってた『ある部屋』だな」
「同じフロアにあるとはいえ、誰かに見つからないようにしないとね」
「……今思い返せば俺たち、敵の根城で騒ぎすぎだよな…………」
「今更感…………」
はあっと、二人して肩を落とす。これからのことを考えると荷が重かった。
こんな調子で大丈夫か、と。
さっそく誰かに見つかってしまうんじゃないか、と。
「……やめようやめようこんなマイナス思考」
「そうだね~。考えるだけ無駄だもん。さっさとライオネルさんの言ってたところに行こう?」
「……あぁ」
下がる肩に力を入れなおし、背筋を伸ばして歩み始める。
牢屋の続く道を直進すると、突き当りに出た。
左・右と、道が二手に分かれている。
「……ライオネルが言ってたのは……」
「右だね~」
「……だな」
そんなことをつぶやきながら――――リュウは左へと曲がった。
「ちょっ、リュウ!? 右に曲がってって言ったじゃん!」
「……わ、わりぃ。ついつい左に曲がっちまった…………引き返すか」
「も~。しっかりしてよ~」
ぷっくり頬をふくらませるナツミに頭をさげながら、華麗なるターンを決めようとする。
――――が。
「……おっ、階段じゃねえか! あそこに違いねえっ!」
「えっ!? リュウ!!?」
ナツミが引き返そうとしたところで、リュウは唐突に走り出した。
彼女は急いで、リュウのあとを追う。
階段を登りきったところで、今度は右・まっすぐ・左の三つの道が開かれた。右手の道は坂のようになっていて、上階につながっているらしい。
「……ラッキー! どんどん上のほうに続いていくぜ!!」
「ちょっ!? バカなんじゃないのっ!?」
再び走り出すリュウに、ナツミは大きく目を見開いた。普段は冷静で頭のキれる男なのに『道』のことになるとバカになる。
「はぁっ、はぁっ! リュ、リュウっ! 待ってって……っ!」
猛スピードで進んでいくバカとはぐれないように肩を激しく揺らしながら走る。長かった階段を登り切ったところでやっとのことでリュウに追いついた。
胸に手をあてて呼吸を整える。
そんなナツミにリュウはキラキラと瞳を輝かせて声をかけた。
「……おい見ろよナツミ! ボロッちい地下とは違うめちゃくちゃ王宮っぽい内部まで――(ガツンッッ!)――うべぇッッ!!?」
目をふさぎたくなるようなキツイ一撃がリュウの脳天を直撃する。
煙のあがる拳を冷ますようにナツミは荒い調子でふぅっと息をかけた。
「もう……っ! リュウのせいで変なところに来ちゃったじゃないっ!」
「……いやいやっ! 一気に王宮の内側にやってこれたんだぜ? 喜ぶべきだろ……?」
「バカっ! ほんっっとバカッッ!! 私たちはどこを目指してたのさっ!?」
「……どこって…………」
プリプリ怒るナツミに委縮しながらリュウは前髪をいじる。
そうして、当初の目的を思い出した。
「……いっけね。ライオネルの言ってた『ある部屋』に行かなくちゃいけねぇんだった……」
「でしょっ!!? ここどこよっ!? まったく違うところじゃないっ!!」
「……うっ。い、いやでもライオネルが勧めてるだけで絶対に行かなくちゃいけないってことも…………」
「言い訳しないの……ッ!!」
「……はい、すみません…………」
まるで新婚夫婦の痴話喧嘩のようなやりとりが繰り広げられる。適切に表現すれば奥さんが旦那さんに説教しているだけなのだが。
――――それが間違いだった。
「誰……な、の?」
暗闇の中から放たれた声。真っ黒なキャンバスに赤い炎が彩られる。ポォっとした明かりが、その持ち主の姿を浮かび上がらせた。
腰まである長い赤髪をツインテールにまとめた髪型。
お世辞にも豊かとはいえない薄い胸。
メイドらしきその女性は涙を浮かべながらも、キッと睨みつけるようにしてこう問い直した。
「あんたたちは誰って聞いてんのよ……っ!!」
「――――――――っ」
リュウとナツミの顔から血の気がひく。
――――見つかった。