おやすみ、アンダーワールド(4)
シャバーニはどういうわけか、リュウたちを殺すつもりがないらしい。彼らを圧倒するだけの力を誇りながら、さきほどからなぜか致命傷は負わせない。
それに、シャバーニは任務を遂行するとばかり繰り返している。
つまり。
シャバーニの目的は、リュウたちを確保すること。
シオンはそう考えたわけだ。
「…………もういい、任務に戻るとしよう。貴様らを確保する」
シャバーニの口からも、そのことが確認できた。
リュウの首を狙ったじゃないか。
シオンを殺す勢いで殴ったじゃないか。
いくつかの疑問が生まれるが、重要なのはそこではない。
――――確保。
シオンはここに狙いをつけた。
「……覚悟しろよ、ゴリラ野郎……ッ!!」
「…………ふんぬッ!」
バギイイイィィィィイッ!!
渦巻く紅蓮の剣と鋼鉄のごとき拳が交わり合う。
二人を中心として波動が生じる。
まわりの草木が揺れ、森がざわめく。
「…………どうした。力が弱っているぞ」
「……グゥ……ッ!」
均衡し合っていた力が崩れ、リュウの剣が圧され始める。
リュウは、顔をゆがめ歯を食いしばる――――フリをした。
「…………もらったぞッ!!」
「……グアアッ!!?」
シャバーニが一気に力をこめると、押し負けたリュウが吹き飛ばされる。砂煙をあげながら、彼はそのまま地面を転がった。
「…………手ごたえが……ない?」
シャバーニは違和感を覚え、自らの拳を眺めて、リュウに視線を移す。
しかし、当の敵はぐったりして動く気配を見せない。
「…………途中で力尽きたか」
そう結論に至り、再び視線を動かす。
「…………次は、あの女か」
シャバーニから離れたところで銀髪の仲間を揺さぶっている少女を捉える。
ザッと土を蹴り、少女のもとへと近づく。
シャバーニはこの少女に期待の念を抱いていた。
だが、さきほどとは様子が打って変わっている。
「うぐっ、ひぐっ。シオンくん……」
倒れている銀髪の青年の肩をゆすっては、涙を流しているのだ。
「…………心配はいらない。気絶しているだけだ」
「ひぐっ。えぐ……っ」
泣き止む様子のない彼女に、シャバーニは少しばかり困惑した。戦士として、このような女性に手を出すわけにはいかないのだ。
けれど、彼女も一人の戦士である。
『任務』と『戦士』との間で心が揺さぶられる。
すると、ぽつりと声がこぼれた。
「――――降参する」
「…………なに?」
「降参するわっ! 二人の命を見逃してくれるんだったら、私たちをどこへでも連れて行って!!」
「………………っ」
*
「……ってなわけで、俺たちはここに運ばれてきたわけよ」
「うむぅ……」
王宮の地下室で監禁されているリュウが話を終えた。
話を聴いていたライオネルがうーむと顎をしゃくる。
「聞きたいことはいろいろあるけどよ。お前たちがここにいるのは、つまり……」
「……あぁ」
「――――……この牢屋を脱出して、王宮内から『革命軍』を潰してやるんだ」
リュウはライオネルに作戦内容を打ち明けた。