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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第4章 王宮の手触り
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おやすみ、アンダーワールド(3)



 ――――リュウ、死なないで!!


 かすんでいく視界の中、脳内に直接語りかけられたかのように、ナツミの声が聞こえた気がした。ゆっくりとした動作で目を動かしてはみてみるものの、彼女は声が届かないような遠い場所にいる。

 リュウの視覚や聴覚がおかしくなったわけではない。

 弱ってはいるが、まだこの世界を知覚するだけの意識はある。


(ついに幻聴まで聞くようになったのか……)


 リュウは力なく笑った。

 シャバーニが近づいてくる恐怖、死があの木の陰から見つめてくる恐怖。

 何が原因かわからない。

 ただリュウは、恐怖の念を抱いて想い人の幻をみたことに自嘲した。

 俺はまだまだ弱い。

 守らなくちゃいけない人に守られているようじゃ、生きる資格がない。

 そうやっていつしか、死を受け入れるようになっていた。


 ドスドスドス……っ。


 地響きを伴いながら、獣人のシャバーニがリュウの目前にまでやってきた。

 彼は、精気をなくした青年を見てため息をもらす。


「…………残念だ。お前にも期待していたんだがな」

「………………」


 大男を見上げるリュウの目に、もはや色彩は失せていた。シャバーニが、ゴリラと化した猛々しい右腕を天にかざす。

 月明かりに照らされたそれは逆光を帯び、リュウには真っ黒に見えた。

 死神が振りかざす鎌のように。


「…………さようならだ」



 ズォ――……っ!!



 シャバーニの右腕が風を切る。

 一撃必殺の拳が、リュウの首元を狙った。



 ――――リュウ……っ!!!



「……ハッ!!?」

「…………っ」


 ドガオオオアアアッ!!


 ……パラパラ……っ


 リュウの命を狙った拳が彼の後ろにある大木を粉砕する。


「……ハア、ハア……っ」

「…………避けた、だと?」


 木っ端の付着する右の拳を見つめながら、シャバーニがそう呟いた。


「……聞こえた。確かに聞こえた! 幻聴なんかじゃなかった……!」

「…………何を言っている?」


 シャバーニが顔をしかめるが、リュウはそれどころではなかった。

 バッと、ナツミの方へ首を向ける。

 しかし彼女は、こちらを見ていなかった。

 なにやらシオンの肩に手を置いて、目をつむっている。


 と、唐突に――



 ――――リュウ、キコエテルンデショ!! ムシシナイデヨ!!



「……うわッ!? いきなりなんだ!?」

「…………それはこちらのセリフだ……!」


 敵の奇行に、シャバーニは怪訝な瞳を向ける。

 リュウは、奇妙な現象に平静を失っていた。

 にもかかわらず、ナツミの声が一方的に流れ込んでくる。



 ――――私は今、リュウの心に直接語りかけるの。シオンの忍術でね。



「……それを先に言え……ッ!!」

「…………おいどんは何も言っていないでごわすよ!!?」


 ナツミの言葉に思わず声を出してツッコんでしまう。おかげでシャバーニが、イメージとはかけ離れた口調でびっくりしていた。

 けれど、ナツミは構わずに話し続ける。


 ――――この術は一方的に声を伝えるだけらしいの。だから変なことを口にして作戦をバラさないでね!


 作戦……?

 リュウはナツミの言葉を反芻した。

 突然何を言い出すのやらと考え込むが、ナツミはそれを待たない。



 ――――あのね、これはシオンくんが思いついた作戦なんだけど……。



 そうして、作戦の内容がナツミから伝えられる。



 ――――そういうわけだから。うまくやってよね!



 ブツリと、脳内につながっていた糸が切れる。

 作戦の内容を吟味していると、シャバーニのまとっている雰囲気が唐突に変化した。闘いを楽しんでいた戦士が、王の命令に忠実な傭兵に戻ったかのようだ。


「…………もういい、任務に戻るとしよう。貴様らを確保する」

「……チ……ッ!」


 襲い来るシャバーニに対して、リュウは炎の剣を握り直し、炎竜の鎧の力を発揮して切り裂いた。当然のように、シャバーニは攻撃をよける。


「…………ほぉ。少しは闘志が戻ったようだな」

「……ハァ。ハァ」


 立ち上がったはいいものの、思ったより身体には相当なダメージが蓄積されているらしい。ひざが、弱い自身を嘲るようにカクカクと笑う。

 だが、リュウの心には闘志という名の炎が燃え上っていた。



 ――――シオンの作戦ってやつを成功させて、王宮の内側から『革命軍』を潰してやる!!



「……覚悟しろよ、ゴリラ野郎……ッ!!」


 口元をゆがめて、リュウは再び走り出す。

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