おやすみ、アンダーワールド(1)
夕日が沈み、夜が訪れようとする頃合い。
大男のシャバーニは、空から降る月明りと轟轟と燃え盛る炎に照らされた。彼の姿は一変してゴリラの姿になっている。黒い体毛に異常なまでの筋肉。
しかしながら、ところどころシャバーニの元の姿の特徴が残っていた。
短い髪に、片目にできた大きな傷痕。
それはさながら、ゴリラと人間が融合したかのような見た目だ。
「…………闘いをはじめようか」
獣人と化したシャバーニが低い声で、しかしどこかワクワクとした子供のように声を風に乗せた。
ドンッッ!!!!!
爆発が生じたのかと疑ってしまうほどの激しい轟音が鳴り響く。
ただシャバーニが駆けだした音なのだと気づいたのは、一呼吸置いた後の事だった。
「…………一発、お見舞いしてやる」
「くる……ッ!!」
瞬間移動といっても過言ではないほどのスピードで、一気に距離を詰めたシャバーニの拳がシオンに襲いかかる。
驚きはしたものの、シオンはその冷静さを発揮し、例のごとく影を操って盾を作った。
ドゴオオオオアアアアアアッッ!!!!
拳と盾の衝撃が、周囲数十メートルの大気を震わせる。
歯を食いしばりながら重い一撃に耐えるシオン。
野生の動物のように本能をむき出しにして、シャバーニは獰猛な笑みを浮かべた。
そして――――。
ピキっ……
「ヤバ――――――」
「…………もらったぞ!!」
パキィィィィッ!!
「グアアアッ!!?」
「シオン君が負けた!?」
信じられない事態に、ナツミは思わず目を見開いた。砕けた影が、割られたガラスの破片のように散らばっていく。
同様にして、余分な衝撃がシオンの身体を空中に放り投げた。
「…………まずは一人か」
「……くそッ!!」
炎の鎧に身を包んでいるリュウでさえ、背筋が凍った気分だ。
シオンの影は、リュウたちにとって絶対のシンボルだった。彼の影は何をされたって傷つかないし破壊されることもない。
この漢はそれを破った。
見事だと賞賛の拍手を送ってしまうほどに圧倒的だった。
「…………」
「「ゴクリ……」」
シャバーニの視線がこちらに飛んでくる。
リュウとナツミは生唾を飲み込んだ。まるで、おもちゃを壊した子供が新しのを買ってよとせがむような表情。
シャバーニはつぶやく。
「…………次はお前だ」