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羊の番兵さんは狼との3人暮らし

作者: ゆいらしい

もこもこもこもこ


「本当にトマは暖かいわね」


そう言って、少女セラはトマと呼ばれる羊を抱き締める。


羊…そう、ここは町外れの牧草地帯。セラはここで羊のお世話をするのがお仕事なのだ。


セラは元来お世話好きな性格であるから故に全然お仕事を苦にはしてない。優しいセラのことを羊達は皆好きだ。だから、セラも羊達の相手をするのが好きなのだ。


トマは、たくさんいる羊の中でも特にセラに懐いている羊だ。だからか、最近ではトマをギューとする時間が多い。周りの羊達はそれを羨ましそうには見るが、トマは羊達のリーダーの様な存在であるのもあり、誰も文句は言わない。


セラもトマが群れのリーダーであることを察しているからか抱き締めながら近状報告をしてみる。


「そういえば、最近ここらへんにも狼が出現するようになったらしいの。なんだか、物騒ね。パパもママもまだまだ町の方にいるみたいだし…でも、大丈夫よ!何かあったら私が皆を守るんだから!安心してね。……なーんて、羊に言ってもわからないか。いやいや、むしろわからない方が不安にならないで済むから良いわよね。何言ってるんだ、私は…」


そう言って、抱き締めていたトマを放してセラはご飯の準備に去って行った。







夜になると、なんとなく自分で言ったことで余計に不安になったセラは寝つけずに部屋の窓から羊達の小屋を見ていた。


すると、どうだろう「ワオーン」と狼の鳴き声が聞こえてくるではないか。「大変だわ!」セラはパジャマのまま外の小屋へと走った。



「ハァ、ハァ…皆大丈夫!?」と小屋に入って皆が怯えてないかを確認する。ホッとしたのも束の間、来たは良いが自分がこれからどうすれば良いのかも正直わからなかった。


「この子達を皆お家に入れるには数が多すぎるし…」考えてある間にも狼の鳴き声は近付いてくる。セラはもう殆ど半泣きになっていた。


………が、


いっこうに狼が小屋を襲う気配が無い。ずっと緊張してた糸が解れたのか「もう大丈夫かしら?」と少し安心してそっと様子を見る為に外へ出る。


外を見回すと、狼、ではなく1人の青年がいた。どうやら、青年は怪我をしている様でなんだか酷く慌てている。セラは青年の元に駆け寄って「大丈夫ですか?」と問う。


突然現れたセラに驚いたのか青年は警戒した。近付いてみると青年の怪我は酷くすぐにでも応急措置をしなければ、と思ったセラは「私はセラ。その怪我はすぐに手当てしなきゃいけないわ。近くに私の家があるの…来て!」と青年を連れてった。


青年は暴れるが、そこは羊の番兵をしてるセラ。動物を扱うかの様に慣れた手付きで青年を家まで運び手当てをした。実際、青年の動きには犬の様な特徴があったのだ。それを感じとったセラは青年の次の動きを予測したりだとかをして手当てを完了させた。


青年はぐったりとしながら「何故手当てをした?お前は羊の番兵だろ。」と言った。


「まぁ、羊の番兵なのと怪我人を助けるのは関係無いわ。」


青年はその言葉に少し考える様な動作をした。青年は睨むことを一度止めたわけたが、そこでセラは青年ののとをじっくりと観察した。


青年は黒い少し長めの髪をしている。おそらく、切るのを面倒くさがって放置しているのだろう。だが、その髪が風に凪ぐ姿に…悪い言い方をすればボサッとした髪に、嫌悪感は抱か無い。一本一本の髪が美しいのもあるのか、青年のカッコいいと言われるであろう顔立ちに丁度合わさる。


「俺は狼だ。」


ぼんやりと青年を見ていたセラに青年は短く言葉を紡ぐ。


「え?」


「俺は今は人間の姿をしているが、元々狼なんだ。狼の方が人間よりも治癒力が高い。だから、お前が助ける必要なんて元から無かったんだ。それに、狼は羊の天敵だぜ?だから、お前は敵を助けたことになる。」


「とりあえず、今日はもう夜中ですからここに泊まっていって下さいね?早く寝た方が良いです。」


セラは青年の言葉を軽く流すことにした。


「……〜っ、お前なぁ、だから、朝起きたら俺は狼に戻るって言ってんだよ!普通に嫌だろ、朝起きたら家に狼がいたら!」


……、何言ってるんだかさっぱりなことを聞かされる時ってこういう気持ちなのね。羊達に明日謝っておいた方が良いかしら?と思いながらも一応セラは青年の話を聞くことにした。


「あなたが狼と言うのだったら、どうして今人間の姿をしているの?」


セラが青年の話に耳を傾けたことに安堵したのか饒舌に語り始める。


「外を見てみろ!今日は満月だ。…だから、俺は今人間の姿をしているんだ。」


「では、あなたは狼男さんなのね。狼は群れで生きるものでしょう?他の狼も皆満月の夜には人間になるの?」


「いーや、人間になれるのは俺だけだ。俺は群れのリーダーだからな。狼は先代のリーダーから《石玉せきぎょく》を渡されるんだ。ちょうど俺の瞳みたいに真っ赤な石。それには満月の日に人間に変化させる力があるんだぜ。で、満月の夜が終わると…なんていうかスーッとだな俺の中に入っていくというか…まぁ、なんかして、また人間から狼に戻るんだ。」


青年の瞳はとても美しい赤い瞳だった。だから、その様な石ならさぞ美しかろうと思い「その石を見てみたいわ!」と青年にねだった。


「本当なら人間に見せるものじゃないが、仕方ねーな。」と青年は「コレだ」と言いながら自らの首元に指を指す。が、



「えーと、何も無いけど…?」


「ハッ!?」


自分の首元をなんどもさする青年に手鏡を渡してやった。鏡を見て呆然とする青年に「ネックレスにしてたの?」と聞くとゆっくりと首を縦に振った。


「もと、に、戻れない……?」


正気も何もかも失って呆然としてる青年には悪いのだが、セラには一つ心当たりがあった。


「あの、もしかしたらだけど……さっきあなたを家に連れてくる時に落としたのでは……」


あの時、青年はかなり暴れていた。だから、もしかしたらその時に……



私の言葉に青年はハッとした。やはり……


どうしよう…私もあの時には青年がそんな大切な物を持っているなんて知らなかった。


怒ってる、だろうか?

いや、怒ってるだろう。怖くて目をギュッと閉じる。


その時、バンッ!とドアが開けられた。誰だろう?パパとママはまだ町にいるはずだし…


「セラ!大丈夫!?狼に何かされて無い?」


少年が突然家に入って来て私の心配をしてくれた。だが…あなた誰?


「僕はトマだよ!セラ、心配したよ。だって、君が狼を家に招いているんだから。」


……トマ、と自称する少年を見る。だが、私の知ってるトマは羊だ。この様な可愛らしい人間では無い。


しばらくは、少年の登場に私と同様に動きが止まっていた青年だが再度ハッとしたように


「お前、あの羊か……!?何でお前も人間になってるんだ?」


「黙れ、狼!」


喧嘩腰の少年に少し慌てたが、それよりも「あの羊、ですって?じゃあ、あなた本当にトマなの?」


少年…トマが私の方に目を向けると同時に先程とは打って変わって可愛い笑顔で「そうだよ、セラ。あのね、セラが走って外へ行っちゃうから心配になって探したの。そしたら、赤い石が落ちててね、それにセラの匂いがしたからそれを口で咥えてここまで向かったの。なんか、凄く綺麗な石だったからセラの物じゃ無かったら無かったでセラにあげようと思ったんだ!」


「あら!トマが赤い石を持って来てくれたのね。良かったわね、狼さん。


でもトマ?気持ちは嬉しいけど…それが私のじゃ無かったら、きっと探してる人がいるんだからその人に届けてあげないと駄目よ。」



青年の石が見つかったことに安堵したけど、やはり言わなくてはならないことは言わなくては!でも、トマが私の為に、ってやってくれたことが凄く嬉しいな。なんて思って、トマを撫でていると…


「で、その石はどうしたんだよ?あと、お前が人間の姿でいる理由も説明されてねーぞ。」


「あぁ、そういえばそうね。どうしたの?」


話をしようと思って撫でている手を止めると、チッ。と一つ舌打ちをして青年を一睨みしたトマだったが、私の方を向く時は少し悲しそうな表情で「それね、口に咥えている時に間違えて飲み込んじゃったの…せっかく、セラにあげるともりだったのに……」


その言葉を聞くや否や


青年はトマを掴み大きく振る。

「ふざけんな!吐け、今すぐ吐け…!」


「うげ、やめろ、狼!うぷ、気持ち悪い…助けて、セラ…」


助けを求めるトマだったが、セラはセラでそれどころでは無かった。


「大変だわ!どうしましょう!?トマ、体調は?…あぁ、なんてこと!そんな得体の知れない石を飲み込んじゃうなんて体にどんな害が出るか……!」


怒りに狂う青年に慌てふためく少女、そうして夜はふけていった。











「じゃあ、本当に人間の姿になっただけで気分が悪い訳では無いのね?」


「うん、もう大丈夫だよ!」


「で、狼さんは…やっぱり狼の姿に戻るには赤い石が必要なのね…」


「あぁ、現にもう朝だが、元には戻って無いことを考えると…」


日の光を浴びながら、とりあえず落ち着いた3人は正座をして今後について話し合うことになった。


「とりあえず、狼さんは元に戻るまでうちにいて下さいね?」


「えぇ!?狼が家にいるなんて嫌だよ!僕、セラと2人だけでいたい!」


「駄目よ。石の件は…まぁ、トマも知らなかったのだからトマのせいじゃないとしても…狼さんは今群れに戻れないのだから。あぁ、でも群れの方は大丈夫かしら?」



「…まぁ、あいつらはあいつらで俺がいなくても上手くやっていくだろ。……俺の名前は、ヘル。しばらく世話になる。」


「よろしくね、ヘル?一応もう一度自己紹介するね、私はセラ。で、この子は羊のトマ。……ほら、トマ?自己紹介の時はきちんと相手の方を見なくてはいけないわよ。あなただって、人間の姿になったからにはヘルに色々教えて貰わなくてはならないことも沢山あるはずよ。…早くトマも元の姿に戻ると良いけど…」


トマはヘルから隠れる様にして私に抱きつき「別にこのままでも良いもん」と呟いた。適応力のある子だわ、と少し感心してしまった。


「ごめんなさいね、ヘル。この子、まだ仔羊なのよ。だから、きっとあなたに怯えてるんだわ。」



「いや、怯えてるなら可愛げがあって良いと思うぞ?……舌出して挑発するのヤメレ。」


「挑発なんてしてないもーん。」


「トマは良い子だからそんな事しないわ。良かったね、トマ。ヘレもトマのこと可愛げがあるって褒めてくれたわよ。」


「エヘ、じゃあ、セラ撫でてー!」


「うん、もちろん!」


もこもこもこもこ





 こうして、私達の新しい生活が始まった。早くこの2人をパパとママにも見せたいです。早く、帰ってくると良いなぁ!……それまでには、元羊と狼も仲良くしてくれると嬉しいんだけどなぁ〜…。













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