ミズキくん?
光を追って教室を出たのはいいけど、何処に言ったのだろうか。昼休みの校内は生徒でごった返している。
自分が光なら何処に行くだろうか。僕ならああいう状況の後では一人になれる場所に行く。
光が一人になれる場所、思い当たる所は一箇所しか無かった。
学校の外れ、弓道場に併設するように作られたトタン板の古い建物、元は柔道場として使われていた。
今では柔道場は体育館に移転したため、総合格闘技部の練習場として使われている。
無論出入りする人間は少ない。僕もよく昼休みに惰眠をむさぼっている。多分光がいるとしたらここだ。息を潜めて柔道場に近づく。
人の気配がした。耳をすませて中の様子を伺う。話し声がした。誰かが電話をしているのだろうか?
「さくらさん、話し聞いてくれませんか?」
聞き覚えのある声、というか忘れたくても忘れられない声だ。その声の主は昨日出会った気弱で可愛い少年だ。
「ミズキくん?」
思わず疑問が口から漏れる。何でミズキくんがうちの学校にいるんだ。僕は壁越しで一体何が起こっているのか理解できずにいた。
「わかりました、じゃあ今日練習休みます」
今日練習を休む。中から聞こえてきた言葉を反芻する。光とミズキくん、まさか二人が同一人物だとも思えない。
状況証拠は揃っている。だけど確固たる証拠もない。もしここで踏み込んで光に直接話を聞けば疑問は解決するだろう。
だけど、そうなった場合、確実にわだかまりが残る。進むことも戻ることも出来ずに僕はその場に立ち尽くしていた。
引き戸が開く音で我に返る。目を向けると中から光が出てきていた。お互いに息を呑む。見合ったまま硬直していた
「その……心配で」
さっきまでの光と明らかに様子が異なっていた。顔面から血の気が引いている。震える声で僕に尋ねてくる。
「……聞いてないですよね。和睦さん」
和睦さん、光は僕のことをそう呼ばない。光は斉藤と苗字で僕を呼んでいる。光も自分のミスに気がついたみたいだ。僕の手を掴むとすぐに柔道場に引き込んだ。
「……どういう事?」
僕の問いにも光は答えようとしなかった。目は泳いでいる。どうしていいのか対処法を必死で探しているようだ。