表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とミズキ、ときどき花蓮さん  作者: 佐和 潤
第一話 和睦はミズキと出会った
3/31

私の目に狂いはなかった

「ただいまー」

 玄関の方からのんびりした声が聞こえた。部屋の主で今回の騒動の元凶の帰還である。苛立ちを抑えつつ僕は玄関にいるさくらさんに声を掛けた。


「ちょっと来て」


 怒りを表に出さないようにしたはずだが、抑えきれない怒りが少しにじみ出てくる。


「あれ、和睦(かずちか)、来てたん」


 丸い垂れ目でショートヘアーを茶色に染め、身長も高くモデルさんみたいな体にパーカーとジーンズという格好、外見だけは相当可愛い。


 コンビニの買い物袋をエコバックの隣に置くとゆっくりと腰を下ろす。僕とミズキくんが一緒にいるのを見てもさくらさんは慌てた様子は微塵もない。


 肝が座っているのか、天然なのか、どちらにしてもさくらさんにはこの状況を説明してもらいたい。


「何を言いたいか解るよね?」


 皆まで言わすな察しろという意志をこめた言葉を投げかけた。僕とミズキくんの顔を交互に見つめたさくらさんは納得したように頷いた。


「ごめん、伝えるん忘れとった」


 のんびりした声だ。僕の心のなかで渦巻いていた苛立ちが急速に萎えていく。この人に怒っているのがバカバカしくなってきた。

 

 ミズキくんは伏し目がちに僕らの話を聞いている。


「ミズキくんはコスプレ仲間、可愛いやろ、実はな」

「知ってるよ」


 したり顔で僕を驚かそうとしたさくらさんに冷静に返答する。真顔に戻ると僕らの間で視線を動かす。

 何か納得したのかイヤラシそうな笑みを浮かべていた。


「見たん?」


 思わずため息が漏れた。気持ちを察してくれているだろうと少しでも思った僕がバカだった。

 全身から力が抜けきっていたが、答えないわけにはいかないので言葉を紡ぐ。


「不幸な事故だよ」

「構わんやん。男同士なんやし」


 男同士だから問題がない確かに一理はある。だけど、お互いが気まずくなることぐらいはわかって欲しい。


「とりあえず、ミズキくんとはどういう関係?」

「どういう関係って、イベントで知り合ったけどお互い意気投合してな」


 どんなイベントか、聞かなくてもわかる。恐らくコスプレのイベントで間違いない。


「で、ミズキくんもコスプレしたいって言うから」

「ちょっと待って」


 話を遮った。どうしても確認しなければいけない点があるからだ。男でコスプレしたいと言えば男キャラのはずだ。

 

 しかしさくらさんはミズキくんに女装させている。理由がまったくわからない。


「何故女なの?」


 目を宙に移し、考え込んだ後でさくらさんははっきりと答えた。


「雰囲気? 線細いし、声も中性的やし、絶対女の子の方がいいと直感で、和睦もそう思えへん?」

「まあ、そう思う」

「よっしゃ、私の目に狂いはなかった」


 自信にみなぎる声でさくらさんは断言した。言いようのない倦怠感が僕の全身を覆っている。


 初対面の時、僕が感じたあの雰囲気をさくらさんは女装していないミズキくんから感じた。その点でさくらさんの人を見る目は確かだ。

 

 しかし方向性は明かに間違っている。しかし思うのと行動に移すのは話が別だ思わず頭を抱え込みそうになった。


「あの……いいですか?」


 僕たちの様子を瑞希くんが不安気に見つめている。


「何で和睦さん会わせたんですか」

「本題忘れてた」


 ミズキくんの一言でさくらさんは思い出したように僕に顔を向ける。


「一緒にイベント行こうか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ