「そういう性分、罪悪感で生きてるから」
「なるほどなあ」
間の抜けた声でさくらさんは呟く。アイスコーヒーを飲むと目を閉じた。解決策を考えてくれているのだろうか?
のんびりとした音楽がコーヒーショップの中に流れていた。午後七時前という中途半端な時間のためお客さんは少ない。
しかも席は店の隅で周りにお客さんはいないから話を聞かれる心配はない
なんでもいいからアドバイスを聞きたかった。
正確にはアドバイスより、さくらさんに洗いざらい話して楽になりたかったのかもしれない。事実、僕の気持ちは少し楽になってきていた。
「それは困ったなあ」
さくらさんと僕の口から共にため息が漏れた。さくらさんとしてもこんなことを相談されて迷惑なのはよく分かる。
大きめのベージュのパーカーにジーンズという格好だから部屋着のままで来てくれたんだろう。
「ゴメン、悪いね」
「落ち込んどるなあ」
思わず天井を見上げた。自分が置かれた状況はよくわかっているが、次にどう行動すべきか検討もつかない。
向き直ってさくらさんの顔を見る。穏やかな笑みを浮かべていた。
「和睦はどうしたいん?」
「なにもしないほうがいいと思う」
時間が解決してくれる。しばらく居心地の悪さに耐えていれば花蓮さんの機嫌も戻るし冷静さを取り戻す。光も僕も冷静になるだろう。そうすれば多分元通りになるはずだ。
「本当にそれでいいん?」
「わからない」
本当にそれでいいのかと聞かれるとわからなくなる。その場しのぎで、解決を先送りにしているからだ。ベストな方法ではないかもしれない。
「私の考えやけど、和睦は気にしすぎてると思う」
たしかに気にしすぎなのかもしれない。花蓮さんが落ち込んでいたのは勝手に先走ったからで、僕らに責任が無いとも考えられる。
だけどあの時、上手く対処できていたらという思いが消えない。対処方法を間違えたせいで、みんなの気分が悪くなった。これは揺るぎない事実だ。
「そういう性分、罪悪感で生きてるから」
そう、僕は他人の機嫌を損ねたり、怒らせたり、悲しませた記憶が消えないのだ。結果として人を傷つけたことに罪悪感を覚え必要以上に気を使う。
「疲れる生き方やな」
「わかってるよ、わかってる」
そんな生き方しかできないけど、他人を傷つけてまで平気でいられるほど僕の神経は太くはない。
「イベントどうするん?」
「パスしていい? 参加できそうもない」
「それでいいけど、ミズキくん楽しみにしてたで」
「わかってるけど」
参加しなかったらミズキくんは残念がるはずだ。わかってはいるがこんな気持ちで参加しても楽しむことは出来ない。
だったら参加しないほうがいいかもしれない。地面を見つめる。気が重くなる。
「そうそう、和睦と話したい人がいるから」
さくらさんは予想外の言葉を発した。顔を上げるとさくらさんは手を上げていた。
その姿を確認した瞬間、ミズキくんだ。鼓動が早くなっていく。話さなくてはいけないけど話したくはない相手だ。
ミズキくんはアイスコーヒーの乗ったトレイを持って僕らの席にキタ。さくらさんが席を譲る。
ミズキくんは真剣な目で僕を見つめていた。今から本音をぶつけてくるのだろう。僕は奥歯をくいしばった。




