「サーチ・アンド・デストロイ! ぶっ潰す!」
「サーチ・アンド・デストロイ! ぶっ潰す!」
低い声で花蓮さんはネットで覚えた物騒な言葉を呟いている。鋭い目を唸りながらガンシューティングゲームに熱中していた。傍から見て凄い闘気を放っている。
完全に危ない人にしか見えないが、運がいいことに周囲に人が少ない。おまけに電子音が響き渡っているため、花蓮さんの声はすぐ近くにいる僕以外には聞こえない。
夕方近くのゲームセンターは中高生で賑わっていた。ほとんどがメダルゲームや、対戦格闘ゲーム、プリクラに熱中していた。
花蓮さんは見事クリアしたようで満足気にコントローラーの銃をしまう。横顔を見ると得意げな笑みを浮かべていた。機嫌は良さそうだ
「花蓮さん、今日練習は?」
「休む。他人に怪我をさせるからな」
練習に付き合わされるのかと思ったら行き先はゲームセンターだった。今の状態の花蓮さんが道場にいけば、スパーリングで相手を怪我をさせかねない。賢明な判断だ。
「和睦くんはしないのか?」
「見てるほうが好きなんで」
「じゃあもうちょっと遊んでくるから」
僕が頷くと、見てろと言い花蓮さんは音楽ゲームのコーナーに向かった。今日、教室で感じた不機嫌な感情は消えていた。
「おや、和睦くん奇遇だねえ」
聞き覚えのある声がした。声のした方を向くと風花さんが穏やかな笑みを浮かべて手を振っている。
独特の言い回しに癖のある声、気を抜くとこの口調になっちまうそうだ。落語好きの祖父さんの影響だと風花さんは言っていた。身内の趣味というものが人に与える影響は大きい。
「委員長を誘ったんだよ。でも大変だねえ、お嬢の機嫌を損ねると」
「何でお嬢なんですか?」
風花さんは花蓮さんのことをお嬢と呼ぶことがある。何でそんな言い方をするのか? そんな疑問を風花さんに聞いたみた。
「昔の祖父ちゃんが見てた映画でさ。着物着たキレイな女の人が出てたんだ。凛々しくてね、委員長似合いそうだろ」
確かに言われてみれば任侠物に出てきそうなヤクザの組長の娘みたいな雰囲気だ。着物を着いてドスを持った姿を想像したが絵になる。
座ろうと言われ、僕と風花さんは音楽ゲームの後ろに設置されていたベンチに座る。優しげな目で花蓮さんの背中を見つめていた。
「まあ自己嫌悪かね。お嬢はああ見えて脆いから」
「僕にも責任があるんですけど」
「和睦くんは気にし過ぎだよ。そこがいいところだけど」
風花さんが漏らしたつぶやきに思わず反応した。僕の顔をじっと見つめて優しい声で囁いた。僕の中の縛りが緩くなって行く。自分の心の底にあることを言ってしまいそうな気がした。
「僕って花蓮さんに甘えてるんですか?」
光に言われてずっと気になっていた言葉、僕は花蓮さんに甘えているのか、考えたが答えは出ない。風花さん少し眉をひそめ小首を傾げていた。
「甘えてるって言うより……気を使いすぎかな」
「気を使いすぎ?」
「だって甘えてるんならもっとベタベタする感じだからね。何ていうか和睦くんは花蓮さんに遠慮してるっていうか、傷つけないようにしてるっていうか、なんか言いにくいねえ」
風花さんは自分が考えたこと全部を言葉にしていた。僕は花蓮さんには甘えていない。
じゃあ僕と花蓮さんはどういう関係でどう対処すればいいのか。悩みの泥沼にはまっていくようだ。
「まあ他人の意見をたくさん聞くこといいさ。情報は多いほど正確な判断ができるからね」
風花さんは穏やかに声を掛ける。他人の意見、意見を求められる他人、顔を伏せたままで考えを巡らす。不意に相談相手に最適な人が脳裏に浮かぶ。
「わかった?」
僕の顔を見た風花さんは笑っていた。あの人しかいない、僕は携帯を取り出すと、その人に電話をかけた。