「喧嘩売ってるのか?」
教室に差し込む、春の日差しは穏やかだ。天気もよく青空が広がっていた。教室には話し声が響いている。
僕の気持ちとは程遠かった。一晩くらいではもやもやも解消されるはずもなく、後悔の念が僕の心に重く立ち込めている。
最低限の力で授業は受けられるが、休み時間ごとに机に突っ伏して時間が経つのを待っていた。人と話す気力もなければ、余計なことは何もしたくない。
「話あるんだけどさ」
頭上から声がしたので顔を上げる。光が不満気な目で僕を見下ろしていた。上半身を起こすと顔を向ける。ため息とともに言葉が漏れた。
「何?」
「昼休み、柔道場」
光は周囲を伺いながら周りに聞こえないように小声で呟く。昨日の今日だから光にも言いたいことがあるだろう。頷いた僕に力はない。
「あのさ、お前が悪いわけじゃないだろ?」
「いろいろあるんだよ」
フォローするような穏やかな声、光の怒りは僕ではなく花蓮さんに向けられていることは明らかだ。まあそこら辺も含めて後で話をしたい。
「松永、和睦くんに何か用か?」
背後から今一番聞きたくない人の声がした。ゆっくりと視線を向けると花蓮さんが立っていた。全身から不機嫌なオーラが漂っている。
目は鋭く、手負いの狼のような目だ。光は憮然とした表情で腕を組んていた。
「いえ、斉藤に用事があったんで、なにか問題でも」
明らかに喧嘩を売るような、挑発的な物言いだ。重い体を引きずるように僕は立ち上がる。花蓮さんは光を見据えている。
「俺が話したらいけないんですか?」
「喧嘩売ってるのか?」
「別に」
お互いが拳銃を構え、威嚇しているような会話だ。下手をすれば、口論に発展しかねない。僕が止めようとした時、チャイムの音が鳴り響いた。
小さく舌打ちをして光は席に戻る。光を睨みつけたままで花蓮さんは僕の側に来た。
「悪いけど、放課後付き合ってくれないか。甘いものでもおごるから」
黙って僕は頷いた。花蓮さんも気持ちの整理が出来ていないのだ。