「私は最低だな」
後悔と自責の念が僕の中を濁流のように流れまわっている。ベッドに体を横たえたまま動けないでいた。
成り行きとは言え、もっといい方法が取れなかったのか、何度も自分に問いかける。
不幸な事故、そう思えればいいが、もっと対処の仕方があったのではないか。
僕を問い詰めた花蓮さんの言葉が脳裏に蘇る。明らかに余裕がない口調だった。
このまま眠れればいい。そして朝になってほしい。時間が立てば花蓮さんとうまく話せるかもしれない。楽観的過ぎるがそう願わずにいられなかった。
「和睦くん……そのちょっといいか?」
声のした方に顔だけを向けると、俯いた花蓮さんが立っている。正直、僕も花蓮さんの顔を直視できない。
「悪かった」
普段の花蓮さんからは想像できないほど弱気な声だった。花蓮さんの顔を見たが、血が引いたように真っ青な顔だった。そのままふらつく足取りで僕のデスクチェアーに腰を下ろした。
「私は最低だな」
自嘲するように呟く。その言葉は僕に向けられたものではない。花蓮さん自身に向けられた言葉だ。
花蓮さんの顔をしっかりと見る。目に力がない、僕と同じで自責と後悔の念に苛まれているのだろう。
「すみません。隠し事しちゃって」
元はといえば変に隠し事をしたのが発端だ。もしさくらさんと友達と買い物に行く用事だと花蓮さんに連絡すればあんなことにはならなかった。
花蓮さんだけでなくミズキくんにも迷惑を掛けてしまった。そう思うと気持ちが底なし沼の中に沈んでいくように落ちていく。
「あの子、さくらさんの友達なんだろう?」
弱い声で花蓮さんが訪ねてきた。ミズキくんのことだろう。黙って僕は頷く。今は言葉を話す力がない。
「だったら和睦くんは悪くないよ。私が一人で暴走しただけだ」
そう言われるのが一番辛い。もし花蓮さんが怒っていたら自分の愚行を悔いることができる。笑ってくれたら、気にしてないとわかる。
だけど、こういうふうに謝られると僕の中の罪悪感はますます強まっていく。自分がした行動がとても非常識なように思えてくる。
「花蓮さんに言えばよかったんです。そうすれば」
僕の言葉を聞いた花蓮さんはベッドに座った。悲しさを含んだ潤んだ目で僕の顔を見つめていた。罪悪感に胸が締め付けられる。
「気にしなくていいよ。和睦くんのせいじゃない」
横になっている僕の頭に手を乗せて花蓮さんは穏やかな声で囁く。
「和睦くんにあんなことしたのが恥ずかしいんだ」
後悔の念に満ちた重い声だった。許しを請うように僕をじっと見つめていた。僕は言葉を発せなかった。
「馬鹿だよ、和睦くんが女の子といたくらいで平常心失うなんて」
花蓮さんは地面の一点を見つめると、後悔と自責の言葉を口にした。
「嫉妬なんてバカみたいだ。最低だよ」
体を起こしベッドに座る。花蓮さんと向かい合い、花蓮さんの言葉をしっかりと受け止める。
「もっと平静でいれたのに。和睦くん見たら急に冷静になれなくて」
「もういいですよ」
花蓮さんが後悔しているのは痛いほどわかる。これ以上僕が追求しても仕方ない。僕に出来ることは一つしか無かった。
「僕がはっきりしなかったのが悪かったんだかですら、花蓮さんも必要以上に気にしないで」
「だけど、あの子は?」
こうなった以上どうにかして解決方法を考えないといけない。だけど、今は花蓮さんを落ち着かせることだ。しっかりと花蓮さんを見据える。
「ミズキくんからは僕が話をしますから。花蓮さんは安心しててください」
「すまない」
僕の言葉を聞いた花蓮さんは笑みを浮かべた。いつもと違って弱々しく脆く崩れそうな笑顔だった。