「……部外者じゃないです」
「……和睦くん」
花蓮さんは立ちすくみ、目を大きく見開いて僕を見つめている。声は震えていた。怒りの声ではない。
怒りや悲しみのような激しい感情より、隠し切れない動揺が伝わってくる声だ。
「大切なことってこういう事?」
なにか答えなければいけない。僕もパニックを起こしかけていたが、頭を必死に働かせる。
どうすればいい? 考えれば考える程思考がまとまらない。空回りしているみたいだ。
「和睦さん」
「恋人かい?」
何か言おうとしたミズキくんを制するように言葉を続ける。もしここで対応を誤れば何が起こるか。
想像したくもないが一瞬で想像できる。冷静さを失った花蓮さんなら、僕に突っかかってくるはずだ。
「……あの」
「君は黙ってて」
抜身の刃のような鋭く不気味な光を放つ目でミズキくんを睨む。花蓮さんは両拳をしっかり握りしめている。拳が少し震えていた。
「あの、花蓮さん」
落ち着かせるように、ゆっくりと声をかけた。胸に突き刺さるような強い視線を花蓮さんは僕に向ける。その空気を打ち破るようにミズキくんが言葉を発した。
「あの、私はさくらさんの友達です。それに和睦さんとも」
「何で言ってくれなかったの?」
花蓮さんの声からは悔しさが溢れていた。ミズキくんのことを黙っていた怒りだというのが伝わってくる。
変に隠してしまった僕のミスだ。後の祭りというけど、自分の判断の愚かさで胸が締め付けられる。
横目でミズキくんを見ると花蓮さんをしっかり見据えていた。
「和睦さんだって、プライベート全部話す必要ないと思います」
ミズキくんは僕をかばってくれているのだろう。だけどこの状況では逆効果にしかならない。花蓮さんの冷たい視線が再びミズキくんをとらえた。
「部外者は黙っててくれる。お願い」
ミズキくんに気を使って幾分か柔らかい口調で言っているが、口を出すなという明確な意思表示だ。ミズキくんは胸の前で祈るように両手を握りしめる。
「……部外者じゃないです」
硬い声ではっきりと口にした。花蓮さんの表情が強張る。ミズキくんを見つめる眼の力がますます強まっていく。
「私は和睦さんの友達ですから。友達のフォローしただけです」
花蓮さんが言葉を発しようとした瞬間、場違いにも程があるほどのんびりした声が聞こえた。
「あれ、花蓮ちゃん?」
気の抜けた呑気な声がした。強ばっていた空気が緩まっていく。花蓮さんは我に返ったように、さくらさんの顔を見つめている。
今置かれている状況を把握したのか、黙って視線を落とす。
「……その……すまない」
僕らに頭を深々と下げると、同時に遠くから花蓮さんを呼ぶ声がした。さっきまでと違う焦った様子で、声のした方と僕たちを交互に見た。
「大丈夫だから。後で」
僕の言葉に小さく頷くと花蓮さんは背を向けた。僕の全身から一気に力が抜けた。