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僕とミズキ、ときどき花蓮さん  作者: 佐和 潤
第一話 和睦はミズキと出会った
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「……部外者じゃないです」

「……和睦(かずちか)くん」

 

 花蓮(かれん)さんは立ちすくみ、目を大きく見開いて僕を見つめている。声は震えていた。怒りの声ではない。

 怒りや悲しみのような激しい感情より、隠し切れない動揺が伝わってくる声だ。


「大切なことってこういう事?」


 なにか答えなければいけない。僕もパニックを起こしかけていたが、頭を必死に働かせる。

 

 どうすればいい? 考えれば考える程思考がまとまらない。空回りしているみたいだ。


「和睦さん」

「恋人かい?」


 何か言おうとしたミズキくんを制するように言葉を続ける。もしここで対応を誤れば何が起こるか。

 

 想像したくもないが一瞬で想像できる。冷静さを失った花蓮さんなら、僕に突っかかってくるはずだ。


「……あの」

「君は黙ってて」

 

 抜身の刃のような鋭く不気味な光を放つ目でミズキくんを睨む。花蓮さんは両拳をしっかり握りしめている。拳が少し震えていた。


「あの、花蓮さん」


 落ち着かせるように、ゆっくりと声をかけた。胸に突き刺さるような強い視線を花蓮さんは僕に向ける。その空気を打ち破るようにミズキくんが言葉を発した。


「あの、私はさくらさんの友達です。それに和睦さんとも」

「何で言ってくれなかったの?」

 

 花蓮さんの声からは悔しさが溢れていた。ミズキくんのことを黙っていた怒りだというのが伝わってくる。

 

 変に隠してしまった僕のミスだ。後の祭りというけど、自分の判断の愚かさで胸が締め付けられる。 

 

 横目でミズキくんを見ると花蓮さんをしっかり見据えていた。


「和睦さんだって、プライベート全部話す必要ないと思います」


 ミズキくんは僕をかばってくれているのだろう。だけどこの状況では逆効果にしかならない。花蓮さんの冷たい視線が再びミズキくんをとらえた。


「部外者は黙っててくれる。お願い」


 ミズキくんに気を使って幾分か柔らかい口調で言っているが、口を出すなという明確な意思表示だ。ミズキくんは胸の前で祈るように両手を握りしめる。


「……部外者じゃないです」


 硬い声ではっきりと口にした。花蓮さんの表情が強張る。ミズキくんを見つめる眼の力がますます強まっていく。


「私は和睦さんの友達ですから。友達のフォローしただけです」


 花蓮さんが言葉を発しようとした瞬間、場違いにも程があるほどのんびりした声が聞こえた。


「あれ、花蓮ちゃん?」


  気の抜けた呑気な声がした。強ばっていた空気が緩まっていく。花蓮さんは我に返ったように、さくらさんの顔を見つめている。

 

 今置かれている状況を把握したのか、黙って視線を落とす。


「……その……すまない」


 僕らに頭を深々と下げると、同時に遠くから花蓮さんを呼ぶ声がした。さっきまでと違う焦った様子で、声のした方と僕たちを交互に見た。


「大丈夫だから。後で」


 僕の言葉に小さく頷くと花蓮さんは背を向けた。僕の全身から一気に力が抜けた。

 

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