「得意なんです。空気読むの」
休憩用に設置されたベンチに座って、僕は気まずさと戦っていた。隣には古着屋の袋を持ったミズキくんが座っていた。
「さくらさん暫くかかるそうです」
「そう」
気まずい空気が流れている。ミズキくんの買い物を済ませ、自分の服を買っているさくらさんをミズキくんと二人で待つだ。
なんとも言えない居心地の悪さ、花蓮さんとテレビを見ていた時に、下ネタを見た時のような。茶の間が氷つくような、あの気まずい空気だだ。
終わったことはもういいとさくらさんは気楽に言う。だけど当事者にしてみれば、そんなに簡単に割り切れるものでもない。
「やっぱり、気まずいですよね」
「気にしなくていいって」
困ったような笑顔で僕を見つめていた。ミズキくんもどうしていいのかわからず、とりあえず笑っているのだろうか?
フォローの言葉を聞いたミズキくんは僕の顔をじっと見つめている。
「和睦さんって、些細なこと気にするタイプなんですね?」
「はい?」
突拍子もない言葉に思わず疑問形で返事をした。
「なんか、和睦さんって普段、気にしなさそうだから」
「それは、花蓮さんと風花さんの影響」
学校での僕のことを言っているのだろう。姉御肌の花蓮さんと楽天的な風花さんこの二人の間でいれば、その影響から細かいことは気にしなさそうと受け取られても仕方ない。
「あの二人といると気を使わないと大変だからね」
「そう思います」
こういう人の間には調整役がいないとうまく話が進まない。もしいないと収拾の付かない状態になることは間違いない。ミズキくんは納得した顔で大きく頷いていた。
「よく見てるね」
「得意なんです。空気読むの」
「……それでか」
空気を読んだり様子を窺うのが得意だから、今朝のさくらさんの電話も気がついた。そう考えると納得がいく。
「さくらさんの場合、無防備過ぎますけどね」
「わかるよ」
どちらともなく、口から笑いが漏れてきた。さっきまであった気まずい空気が薄らいでいく。その瞬間僕の携帯から、着信音が響く。
手に取り、ディスプレイに目を向けると花蓮さんの名前が表示されていた。悪いことをしているわけでは無いのに、心臓が大きく脈を打つ。
人差し指を口に当ててミズキくんに声を出さないように頼む。状況を察しのかミズキくんも頷いた。
「花蓮さん?」
「ああ、何してる?」
「さくらさんと買い物ですけど?」
「そうか」
ミズキくんは立ち上がって周囲の様子を伺っていた。ショッピングモール内にくまなく視線を動かしている。
落ち着けと自分に言い聞かせ平静を装いながら言葉を続ける。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか甘いものでも買おうと思って、欲しいものあるか?」
「チーズケーキで」
「わかった、買ってやる。私のおごりだぞ」
電話の向こうで得意げな花蓮さんの声が聞こえ、電話が切れた。思わず息を吐く。ミズキくんの方を見る。
「大丈夫でした?」
「ビビる必要ないから」
「そうなんですけどね」