「コミュニケーション能力が低いと大変だぞ」
生温かい春の夜だ。ベッドに寝転がり外を見ると、夜空には雲ひとつ無い明日は晴れそうだ。日曜日だから絶好の行楽日和になりそうだ。
背後では花蓮さんが僕のPCで動画を見ていた。僕は横になり漫画を読んでいる。
妙に心地いい空気が流れていた。落ち着くというか、気が緩む。
それから数日、僕は言われたとおり、学校では光に普通に接していた。
最初はギクシャクしたらどうするかと思っていたが、光の方もミズキくんの時とは違い普段通りだった。キャラだと言っていたけど慣れているものだと思う。
「なあ和睦くん、明日、空いてるか?」
「特に予定ないですし、家でネットでも」
背中越しに花蓮さんの声がする。明日は誰とも約束していない。だから一日ゆっくり出来る。
日曜日くらい家でゆっくりと眠っていたい。そしてネットで格闘技やアニメを見て、漫画を読んで休みたかった。
目の前に影ができた。顔を上げると花蓮さんが僕を覗きこんでいた。
「買い物に付き合ってくれないか?」
「面倒くさいです。寝てたいですよ」
「まったく不健康だな」
呆れたように笑うと花蓮さんは僕を見下ろしていた。だが高校生とは言え、一週間を頑張るといろいろ疲れる。だから日曜くらいは二次元の世界に逃避して癒されたかった。
「で、買い物の相手はどうするんです」
「まあ見てて」
そう言うと花蓮さんは携帯をいじり出す。暫く画面を見つめていると満足気に小さく頷いた。満足そうな声が僕の耳にも届く。
「相手見つかったんですか?」
「買い物行きたいけど暇な人いるって書いたら二人ほどね」
「女子にモテるんですね」
花蓮さんは得意げな笑みを浮かべて僕を見ていた。確かにスポーツも出来て、勉強も出来、芯が強く、リーダーシップもある。
さっぱりした性格だからか、男女問わずに好かれる要素はある。
「羨ましいかい?」
しかし一歩、プライベートな空間に入るとこの有り様である。まあ僕が相手だからふざけているのはわかっている。
「和睦くんも他人と付き合え、コミュニケーション能力が低いと大変だぞ」
茶化すように軽い口調だ。花蓮さん以外の人、特に両親なんかに同じ事を言えば、大きなお世話だと言い返す。
けど花蓮さんの場合、僕を心配していってくれているのがわかるから腹も立たない。何だかんだ言いつつも、僕は花蓮さんが好きなのだ。