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僕とミズキ、ときどき花蓮さん  作者: 佐和 潤
第一話 和睦はミズキと出会った
12/31

こっちのほうが素だと思います

 平日の午後九時過ぎ、駅前のコーヒーショップはお客さんも少ない。店内を見回すがさくらさんの姿は見えない。


和睦(かずちか)さん」

 背後から強張った声がした。振り返ると猫みたいな目でミズキくんが僕を凝視していた。


 ウィッグを付け、白いTシャツにストライプのシャツ、ジーンズと言う格好だった。


「ごめんなさい、急に呼び出して」


 さくらさんの姿はない。何が起こっているのか理解できずに、カバンの中から携帯を取り出すと、さくらさんに連絡を取ろうとした。


 ミズキくんは僕の手を握ると首を横に小さく降る。ダメという小さな声が聞こえた。


「あの……私が頼んだんです」


 反射的にミズキくんが手を離す。声からは緊張していることがはっきりと伝わってくる。


 昼間の(ひかる)のような強気で敵意をむき出しに相手に向かう雰囲気は全く感じられなかった。


「どういうこと?」


 この件に関しては昼間の話し合いで結論は出ている。お互いが秘密を守る。それで話は終わったはずだ。


「とりあえず座りましょう。そこで話します」


 硬い表情だった。ミズキくんの放つ雰囲気に気圧されるように僕は頷いた。


 窓際のカウンター席に並んで座る。アイスカフェオレを一口飲むと、窓に映るミズキくんを見た。伏し目がちで僕を見ようとしていない。


「昼間は言いすぎてごめんなさい。ひどいですよね」


 消え入りそうな声だ。言葉の端々から後悔の念が伝わってくる。昼間のそっけないというか、人を寄せ付けない刺のある光とは違う。


「その、和睦さんを傷つけたんじゃないかって思ったら、居ても立ってもいられなくって」


 言っていることは可愛い、声も仕草も女の子そのものだ。だけど光だ。何度も自分に言い聞かせる。


「怒ってますよね?」

 少し潤んだ目が僕に向けられる。普通に可愛い、だけどこいつは光だと、もう一度自分にしっかり言い聞かせる。


「昼も言ったけど、僕は怒ってないから」


 ミズキくんの表情から緊張の色が薄れたように見える。僕は自分の中の戸惑いを言葉にした。


「悪いけど、自分の中で整理できないけど。光だよね?」

「はい? そうですけど?」


 ミズキくんの表情に困惑の色が浮かぶ。少し首を傾げて僕を見つめた。正直、学校で見た光と、目の前にいる気弱そうな女装少年が同一人物だと思えない。


「普段と違いすぎるから……」


 納得したようにミズキくんは頷く。顔をあげると僕の方を見るめる。表情が崩れていた。だらしのない笑顔だけど不思議と愛嬌のある可愛い顔だ。 


「この格好すると素直になれるって言うか、余計な力が抜けるんです」

 光の時に感じた気負いというものが一切無い。普通の可愛い女子みたいだ。ミズキくんの顔に安堵の色が広がる。


「図々しいお願いですけど、学校では今までどおりに接してもらえませんか?」

「いいよ。っていうか、これだけのために?」

「この格好で言わないと、何だか」

「しかし昼も言ったけど雰囲気変わるね」

「こっちのほうが素だと思います。学校と家じゃちょっとキャラもありますから」


 少し寂しそうな笑みをミズキくんは浮かべた。ミズキくんもプライベートで苦労しているのだろう。

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