いたずら小悪魔
「ひゃあっ!?」
宿の一室、突如少女の素っ頓狂な声が上がった。声の主は後ろから女性に抱きかかえられ、豊満な胸を押しつけられている。
「な、何するんですか、ルシフェニさん!」
少女――デュライアは抱きつかれたまま抗議する。だがルシフェニと呼ばれた女性は気にした風もなくさらに腕に力を込める。
「だ~って、デュライアが可愛いんだもの。いいじゃない、減るもんじゃないんだから」
悪魔に似た尻尾をご機嫌につり上げ、ルシフェニは楽しげに笑った。デュライアは腕に力を込め、あくまでも逃れようとする。そんな彼女を、ルシフェニは面白そうに見やる。そして――
「ひゃんっ!?」
一際高い声が上がった。デュライアは後ろにいる女性を睨み付ける。
「ど、どこ触ってるんですか!」
そう、ルシフェニは彼女の胸の膨らみを包み込むように手を回していたのだ。しかもその手は、やわやわと動かされている。デュライアは頬を紅潮させながらもキッと視線で訴えかけた。しかしルシフェニは楽しそうに笑うだけ。
「ふふっ、若いっていいわね」
言いながら、自分の吐息を丸く小さな耳にかける。びくりと跳ね上がる体を押さえつけ、舌を耳介にあてがった。
「ちょっ……やめてください…! …んっ」
顔を上気させながら、デュライアは身じろぎする。舌を這わせる度に体を強張らせ、言葉にならない声を上げる。その反応が全て愛らしい。ルシフェニは満足げに背中の小さな羽をパタパタと動かした。細長い尻尾でも彼女を捕らえ、もっと触れようとする。
ぺちっと手で張る音が響いた。驚いて相手が身を離した隙に、デュライアはルシフェニから距離を取る。彼女はルシフェニの手を引っぱたいたのだ。
「私はっ…! まじめに言っているんです!」
頬に赤みを残していたが、デュライアは深緑色の瞳に強い光を宿し、ルシフェニを睨み付ける。その剣幕に、ルシフェニも目を見開いた。二呼吸ほどの間。無言だが明らかな苛立ちに、ルシフェニは尻尾をしゅんとさげる。
「ご、ごめん、からかい過ぎちゃったかな?」
体を縮こまらせて答える彼女は、デュライアよりも小さく見える。デュライアはしばらく強い視線を飛ばし続けていたが、不意にため息交じりに苦笑した。
「…言ったところで性格は直らないだろうし……。でも、話の腰を折るのだけはしないでね」
彼女の言葉に、ルシフェニはぱあっと表情を明るくした。
「許してくれるの?」
腕を大きく広げ、ばっと飛びかかるようにハグしようとする。が、その動きはひょいと躱されてしまうのであった。