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ラグナロク  作者: 木の棒
序章 キャラメイク的な!
6/27

第5話 再会?

―― 聖樹王暦2000年 1月 11日 9時 ――


 ゴブリン退治の日。


 まずは武器屋に行くことにした。

 ミカ様は今の剣でいいって仰ったけど、見るだけ見ましょうと押し切った。


 2人合わせると490,000Gある。


「いらっしゃいませ!」


 髭もじゃドワーフは今日も元気だ。


「片手剣で400,000Gぐらいのを見せて欲しい」


「こちらなんていかがですか?」


 ドワーフが見せてきたのは、サーベル状の片手剣だ。

 以前見たのより立派だな。

 刃の輝きが違う。


「鉄を魔法で強化した鋼を使った片手剣です。さらに僅かではございますが、神石も溶かして混ぜております」


 ふむ……安い買い物ではない。買換えを間違えるのは痛いな。


「この店で一番高い片手剣はいくらになる?」


「いま置いてあるのですと、2,000,000Gの物ですね。これ以上の剣をご希望されるなら、オーダーメイドで作ることになります。材料持ち込みなら技術料だけで作りますよ」


「材料って何が必要なの?」


「一番はやはり神石ですかね~。純度の高い神石を混ぜると強化されますから。後は鉄の鉱石を採ってきて頂くか、お知り合いの錬金術師に鉄を鋼にしてもらうか……」


「神石だけで剣を作ることは可能?」


「できますが、うちでは無理です。そのレベルの剣となると、宮廷鍛冶師に依頼となります。また神石だけで作るよりも鉱石を混ぜた方が良いでしょう。神石だけだと強度に問題が残ります」


「ふむ……」


 ミカ様は僕とドワーフのやり取りを静かに見守っている。


 どうする、400,000Gのサーベルを買うか?

 討伐系の依頼や、神石採集をすれば、もっとお金を稼ぐこともできるだろう。


 一気に上等な剣を目指すべきか。


 迷う……迷う。


「ありがとう。今日のところはやめておくよ」


「またのお越しをお待ちしております」


 結局買わずに店を出た。


「ミカ様すみません。余計な時間を」


「いいのよ。貴重な情報は得られたのでしょ? なら有意義な時間だったわ。それにルシラ君が私のために真剣に考えてくれていて、とっても嬉しいわ」


 くぅぅぅぅぅ! その笑顔! 可愛すぎます!


「それに、この片手剣気に入っているの。ルシラ君が買ってくれた剣って思うと、すごく愛着が湧くんだ」


 ぬぉぉぉぉぉ! そ、それって告白ですか?! その気になっちゃっていいですか?!


 どうにか鼻血を堪えて、ギルドに向かう。

 下級壁紙の依頼から「ゴブリン退治」を受ける。


 ギルドから出て転移球がある建物に向かう。


 建物の中には大きな丸い水晶? クリスタル? があった。

 これで転移するのか。


「ゴブリン退治のために、聖壁に近い場所まで行きたいのですが」


「トール街ですね。何番地区にしますか?」


「すみません。ギリシア王国からきた冒険者でして、何番地区とは?」


「トール街とは聖壁を守る街全ての総称となっています。1番地区から12番地区まであり、どの地区にも外に出るための門はございます。ゴブリン退治ですと、1番地区がよいかと思います。ゴブリン以外の魔物も弱い魔物ばかりの場所ですので」


「では1番地区でお願いします」


「お一人2,000Gとなります」


 大きな丸い水晶の前に立つ。


「トール街1番地区へ!」


 光りに飲み込まれる。

 ラグナロク玉の時と同じだな。


 光りが納まると、似たような建物の中。

 しかし外の雰囲気が違う。


「トール街1番地区へようこそ」


 建物を出ると、王都テラとは違う風景が広がる。


 高さ30mほどの壁がどこまでも続いている。

 これが聖壁か。


 この聖壁は大きな円形となっており、その中に人々は住んでいる。

 聖壁の外にもルーン王国の領土はあるが、安全ではない。


 トール街は12番地区まであると言っていたけど、たぶん時計と同じだ。

 円形なのだから、時計の1~12までの数字のように分けたのだろう。


 ミズガルズの大地もほぼ円形らしい。

 それをぐるりと囲っている壁がまたある。

 それは50m以上の高さの壁だ。

「ユミルの壁」と呼ばれている。

 この世界の原初神のユミルのまつ毛から創られたそうだ。


 神界の歴史に関してはミカ様の得意分野だ。

 先生口調で優しく教えてもらった。

 ユリの花で白いブラウスを着てもらいたかった。


 この世界のユグドラシルが、ミカ様の知っているユグドラシルと完全一致するわけではないだろうが、NPCの説明や、人々から聞いた話から推測するに、大きく違っていない。



 世界には、ギンヌガップと呼ばれる裂け目が1つだけあった。

 裂け目の中で氷と炎がぶつかった。

 その氷から雫が滴り落ち、雫に生命が宿った。

 やがて生命は巨大な人間のような形となっていった。


 これが原初神ユミルである。


 同じく氷の雫から、牝牛アウズフムラが生まれた。

 アウズフムラの大きな乳房からは、白い乳が4つの川となって流れでた。

 ユミルはその乳を飲んで成長した。


 ある日、ユミルが汗をかくと、わきの下から男性と女性が1人ずつ生れた。

 足を交差させると男性が生まれた。


 生まれた子供達から、さらに多くの子孫が生まれ、巨人の世界となった。


 牝牛アウズフムラが氷を舐めていると、その氷の中から1人の男性が生まれた。

 男の名をブーリという。


 ブーリは、ボルという息子を産んだ。

 ボルは巨人の娘ベストラと結婚し、3人の男の子が生まれた。


 長男オーディン

 次男ヴィリ

 三男ヴェー


 長男オーディンは後に、この世界を司るアース神族の王となる。


 3兄弟は成長すると、巨人の原初神ユミルを殺害した。


 3兄弟は巨大なユミルの死体を使って、世界を創りだした。


 肉で、大地を創った。

 血で、海や川を創った。

 骨で、山と岩を創った。

 歯とあごで、石を創った。

 髪の毛で、木や草を創った。

 まつ毛で、柵を創った。

 頭蓋骨で、天を創った。

 脳みそで、雲を創った。


 大地の4隅を4人の小人に支えさせた。


 世界は整ったが、世界は暗闇のままだった。


 炎の国ムスペルスヘイムから火花を取ってきて、空に撒くと、太陽と月と星ができた。

 太陽と月は大地の周りを回らせることにした。


 こうして世界は創られた。



 ユミル可哀想~!


 ま~それはいいや。

 聖壁の他には、建物が建っているが、王都テラと比べると雑な作りだ。

 聖壁と門に近いせいか、倉庫がやたらと多い。

 ここに物資や、外で獲れた物を保管しているのだろう。


 僕達はアイテムボックスを持っているけど、この世界では貴重品だ。

 しかも、僕達のアイテムボックスは重量無制限である。

 この世界にある魔道具のアイテムボックスには、重量の制限があるのだ。


 トール街の観光に来たわけじゃない。

 聖壁の外に出るために門に向かう。


 門番の兵士にカードを見せて外にでる。


 さぁ! 初めての魔物との戦闘へ!


 っと思っていたら、門の外はなんとも、のどかな風景だった。

 あ、あれ? 魔物は?


 道がいくつか分かれて整備されている。

 他のトール地区の門に向かう道。

 それに聖樹王に向かう道。

 

 ゴブリンが出る森は、聖樹王に向かう道の先で森の中に入ると聞いている。


 道なりに歩いていくと、なんとも可愛らしい動物? のような生き物がいた。


「はわわわ♡」


 ミカ様の目がやばい。

 目がハートになっている。

 やっぱり女の子なんですね、可愛いの大好きなんですね。

 小さい頃はお人形さん遊びとかしていたタイプだな!


 20分ほど歩いた。

 すると、冒険者と思われる3人組が前からやってきた。


 笑顔で話しながら、歩いている。

 特に緊張感は感じられない。

 プレイヤーか? この世界の人間か?


「やぁ、こんにちは。ゴブリン退治ですか?」


 向こうから話しかけてきた。


「はい。そちらもゴブリン退治ですか?」


「ええ、ちょうどいま終わったところなんですよ。このすぐ先の森にいますよ」


「ありがとうございます。それにしても、門からこんなに近いところにゴブリンっているんですね」


「そうですね~。そう言われると、どうしてゴブリンはこんなところに巣を作るんでしょうね」


「人間を襲うためじゃないんですか?」


「え? ゴブリンは人間を襲いませんよ?」


「え? 襲わないんですか?」


「ええ、中には凶暴なゴブリンもいますけど、ほとんどのゴブリンは人間を襲ったりしませんよ」


「あ、依頼ってその凶暴なゴブリンを退治するってことですか」


「え? 違いますよ。ゴブリンなら何でもいいですよ」


「え? 無害なゴブリンを倒すんですか?」


「はい。それが依頼ですから」


「……どうして、そんな依頼が出ているのですか?」


 ミカ様が質問された。


「さぁ……どうして依頼が出ているなんて考えたことないですから。ただ、依頼をこなせばお金が手に入りますし。ゴブリンはどんなに殺しても、すぐに繁殖して数を戻しますからね。あ~放っておくと、さらに数が増えて危ないんじゃないですかね」


 ゲームの要素か。そのためだけに存在しているのか?


「それでは、お気をつけて」


 3人は門に向かって歩いていった。

 プレイヤーではない。この世界の人間だ。


「ゴブリンを魔物に分類する人もいるけど、妖精なのよ。悪戯好きな妖精なの」


 ミカ様がちょっと悲しそうな顔で言った。

 ゴブリンは悪魔や魔物ではないのか。


 森の中に入っていく。

 それほど奥に入らずとも、ゴブリンの姿を見ることはできた。


 こちらをまったく気にせずに、呑気に寝ていたり、木の実や果物を取って食べている。


 こ、このゴブリンを殺すのか?


「ルシラ君、ちょっと待って」


 ミカ様が立ち止まる。


 ミカ様が手を伸ばす。そして果物を食べているゴブリンの頭に触れる。


「ゴブッ?」


 ゴブリンは振り向いたけど、ミカ様に攻撃してくることはない。

 それどころか、手に持っていた果物をミカ様に差し出した。


「くれるの?」


 ミカ様が手を伸ばして、果物を取ろうとしたら、ゴブリンはさっと果物を自分の口の中に入れて食べてしまう。


「ゴブッ♪」


 楽しそうに笑うゴブリン。

 悪戯好きな妖精か。

 悪戯ともいえないな、じゃれているだけだ。


 これはちょっと……ゲームの要素とはいえ、殺すのは忍びないな。


「この子達……生きているわ。ちゃんと魂を持っている」


 ミカ様が呟く。

 魂を持っている。


 ギルドの2階にいるNPCや、デイリー依頼のNPCとは違う。

 魂を持った生き物なのか。


 確かラグナロクの一番最初の説明で、ゴブリンをどんなに倒しても、同じ数だけ生成されるっていっていたはずだ。


 あれを聞いて魂を持っていない雑魚魔物と感じたのは、ゲームに慣れてしまったせいか。


 僕も1匹のゴブリンを見てみる。

 そのゴブリンはまだ子供で、木の上にあるバナナを取ろうと、必死でジャンプしていた。

 なんだか可愛らしい。


 手伝ってあげようかと思って、ゴブリンの身体を掴んで持ち上げてあげた。


「ゴブブッ!」


 ゴブリンの子供は、身体をじたばたとさせて、僕の手から離れようとする。

 降ろしてあげると、僕のことを見てゴブゴブ言ってきた。


 何言ってるのか分からないよ。


 ゴブリンは魔力が使えないのだろう。

 いや、ゴブリンが使えないとは限らないか。

 この子供がまだ使えないだけかもしれない。


 ゴブリンの子供は、僕が持っている木の棒を見ると、指さしてきた。


 ん? なになに? これを貸して欲しいのか?

 大事な木の棒なんだけどな……万が一取られたら……でもすぐに追いつけるか。


 木の棒なしでも、闘気魔力は使えるのだ。

 ゴブリンに後れを取ることはないだろう。


 ゴブリンの子供に木の棒を貸してあげた。

 嬉しそうに木の棒を持つゴブリンの子供。


 木の棒を使って、枝から生えているバナナを落そうとする。

 何度もジャンプしてバナナを叩くと、バナナがドバッと落ちてきた。


「ゴブッ♪」


 落ちてきたバナナに、ゴブリン達が群がる。


 ゴブリンの子供はバナナを1本取ると、笑顔で僕に木の棒を返してくれた。


 ふむ、このゴブリンを「ゴブルン」と名付けよう!

 なんとなく、そう想った。


「ゴブッ!」


 ゴブルンが返事したように思えて面白かった。


 ゴブルンは僕を手招きすると、森の中に入っていく。


 ん? なになに? ついてこいってこと?


 ゴブルンの後を追うように、ミカ様と一緒に奥に進んでみる。


 森の奥に進めば進むほど、ゴブリンの数は増えていった。

 僕達のことを見ても、大して気にせず暮らしている。

 中には木の上から驚かそうと、悪戯をしてくるゴブリンもいたけど。


 やがて大きな洞窟が見えてきた。

 洞窟……いや、木の根の穴か?


 ゴブルンが中に入っていく。

 後をついていった。


 穴の中の奥に奥にと、ゴブルンは歩いていく。

 外の光りが届かなくなり、暗闇の中を歩いていく。

 目に魔力を宿せば夜目となり、暗闇の中でも見ることができるが、完全に見えるわけではない。


 ミカ様が光魔法で灯りの玉を出してくれた。


 どこまで奥に進むのだろか。

 やがて広い空間に出た。


 奥にゴブルンと、年老いた巨体のゴブリンがいる。


 近づいていき、ちょうど真ん中あたりまで来た時だ。


「よくぞ……来て下さりました……聖樹様」


 年老いたゴブリンが喋った。理解できる。魔力を使えるのか。

 聖樹様とはなんだ?


「1000年の時を経て、こうしてまた聖樹様とお会いできるとは。そして我が息子に聖樹の祝福を与えて下さり……これで私もようやく役目を終えることができます」


 聖樹の祝福? いったい何の話だ?


「ルシラ君、どういうことかしら?」


「わ、わかりません。僕達を何かと勘違いしているのかも」


「勘違いなどしておりません。我が息子は確かに聖樹の祝福を受けました」


「聖樹の祝福とは何ですか?」


「……貴方様の持つその木の棒。それは聖樹王から創られし木の棒でございましょう。そして運命の者が持つ時、聖樹の祝福を授ける力に目覚めるのです」


「え?! この木の棒が?」


 伝説の木の棒には、まだ隠された能力があるのか?


「ほっほっほ。まだ聖樹の木の棒を使いこなしておられないのか。それならば、聖樹様のために老体最後の役目と参りましょう」


 年老いたゴブリンが前に出てくる。

 すごい威圧感だ。

 ミカ様も思わず剣を握っている。


「我が名はゴブルン。聖樹様より授かりし力! お見せしましょうぞ! ゴブウォォォォォォォォォォォォ!」


 穴の中に響くゴブリンの咆哮!

 年老いたゴブリンの肉体が一瞬で鋼のような屈強な肉体へ変わっていく。


 な、なんだ……なんなんだ!

 すんげ~力だ! 身体から闘気が溢れてやがる!


 それに名がゴブルン? こいつもゴブルンなのか?


「参りますぞ!」


 ゴブルンが一気に間合いを詰めてくる!

 速い!


「はぁ!」


 ミカ様が反応して、ゴブルンを迎え撃つ。

 剣に火を宿して、突っ込んでくるゴブルンを上から斬り捨てる!


「ゴブッ!」


 ガキィン!


 げ! 素手でミカ様の剣を止めた!


 ゴブルンはそのまま、もう片方の拳でミカ様に殴りかかる!


「土壁!」


 ゴブルンの拳の軌道上に土の壁を創りだす!


 ゴォォン!


 一撃で粉砕されちゃったよ!


「はぁぁ!」


 ミカ様がすかさず、ゴブルンの脚を狙う。

 低い体勢へ、重心を思いっきり足に乗せて、力いっぱいゴブルンの脚をぶった斬る!


 ガキィィン!


 またか! 金属音がぶつかり合う音だろそれは!


 ゴブルンの身体は本当に金属のように硬くなっているのか?


 今度はそのままミカ様に蹴りを喰らわそうと、脚を振りあげる。


「闇霧!」


 ゴブルンを闇の霧が包み込む。

 魔力による夜目も無効化して、視界を奪う。

 抵抗力が低いものなら、前後左右や上下の感覚まで奪えるのだが。


「ゴブォォォ!」


 効果は一瞬か。

 一瞬で闇霧が散らされてしまう。


 それでもミカ様が後ろに飛んでかわす時間は稼げた。


「くっ、強いわね。身体がまるで金剛みたいに硬いの」


 金剛。金属で最も硬いんだっけ?


「私も本気でいくわ!」


 ぬお! でるな! 白花か!


 ユリの花びらを出すと、心を込める。

 ユリの花びらが花柄から取れて、宙を舞う。

 ミカ様の心に応えて、ユリの花びらは、一輪のユリの花へと成長する。

 ユリの花は瞬く間に大きく白く輝き、ミカ様を包み込む!


 輝きが納まると、そこには白ユリの鎧を着たミカ様!


 そう、ついにユリは鎧になったのだ!

 ただし、完全な鎧ではない。

 

 なんていうか……露出度満点です!

 

 上はベアトップみたいになってるし、下はミニスカートだ。

 鎧といえるのか微妙ではあるが、ミカ様は鎧だと言い張ったし、見る分には目の保養になるので、鎧ですね! と僕も納得しておいた。


 白くて可愛らしいデザインだ。

 胸元にあるユリの花の模様が素敵です!


 ユリの花に包まれている間に、他の服はアイテムボックスに入れているらしい。

 下着はちゃんと着けているとのこと。


 そういえば、ミカ様は下着を何着か買ったんだよな。

 やっぱり……黒なんですね。


 ベアトップだから、ブラジャーの肩紐見えているんです。

 黒なんです。

 ミカ様は黒好きなんです!


 白ユリの鎧からミカ様に力が流れていく。

 ミカ様の力を底上げしてくれるのだ。


 さてと、僕も本気でいくか。

 木の棒に闘気を流す。全力だ。

 このゴブルン相手だと両手持ちの棒の長さがいいな。


 稽古で培った僕だけができる戦闘技法。

 一瞬で最大闘気と魔力を爆発させる!


「私が相手の攻撃を弾くわ。その後はお願い!」


「はい!」


 ゴブルンは僕に狙いをつけて突っ込んできた。


「ゴブウォォォォォォォ!」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


 横からミカ様がゴブルンの巨体に一撃入れる。


 ガキィィィィン!


 やはり金属音の衝撃音が響く。

 しかしミカ様が押し込んだ? ゴブルンの体勢が崩れた。

 

 体勢を崩したように見えたゴブルンだったが、そのまま強引に拳を振り上げる。

 そして、その拳はミカ様の横っ腹に……。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 両手で持った全力闘気の木の棒を、思いっきりゴブルンの顔面にぶち込む。

 ゴブルンの顔面に当たる部分を金剛より硬く! 魔力を全力で爆発させて土属性を創り出す!


 ドゴォォォン!


 くっ! 手応えあり!


 が、しかし! 同時にミカ様がふっ飛んだ!

 横っ腹にゴブルンの拳が入ったか!


「ミカ様!」


 壁際までふっ飛んだミカ様のもとにすぐに駆け寄る。


「うう……ごほっ!」


 血を吐き出した?!

 内臓をやられたか!


 まずい……この世界に回復魔法はない。

 回復薬もない。

 一瞬で傷が癒えるようなアイテムはないのだ。

 あっても、傷口に塗る薬や消毒液のようなものしかない。


 ゴブルンがゆっくりと近づいてくる。

 まずい……ミカ様がこんな状態では。


「良い一撃でした。これなら聖樹の木の棒の力も使えるでしょう」


 今はそれどころじゃないんだよ!

 すぐにトール街に連れていかないと。

 いや、動かすのは危険か?


「聖樹様。聖樹の木の棒の力を感じるのです。その力は聖なる力となり、聖樹様の新たな力となりましょう」


 ど、ど、どうすればいいんだ。

 まずいぞ……ミカ様が死んだりしたら!


「ルシラ君……ごほっ! ……ゴブリンの言葉を聞いて」


 え? ゴブリンの言葉?


「さぁ、聖樹の木の棒の力を感じるのです。そして愛しい人の傷を癒すのです」


 傷を癒す? この木の棒で? 木の棒の力……聖なる力?


 聖魔法?


 僕は木の棒を握りしめる。

 お願いだ、力をくれ

 ミカ様を助けるために……聖なる力を! 僕にくれ!


 木の棒から流れてくる闘気と魔力。

 その両方が輝き始めたような感覚だった。

 闘気と魔力が混ざり合う。

 それが1つになった時……これは……神力?

 神力だ……天界で使っていた神力そのものだ。


 その奇跡の力をミカ様に流す。

 ミカ様の傷が癒えるように想いを込めながら。


 輝く力がミカ様に流れていく。


「ごほっ!……こ、これは!」


 血を吐き出していたミカ様の顔色が良くなる。

 肌についた傷も消えている。


 身体の中も癒えたのだろう。


「治癒神力だわ……」


 ミカ様が呟いた。

 この世界に存在するはずのない、治癒神力。

 これが失われた聖魔法なのか。


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