第4話 さらにもっと稽古しよう!
―― 聖樹王暦2000年 1月 2日 8時 ――
目覚まし機能があったので、8時に起こしてもらった。
ぐっすり寝て、昨日の疲れもない。
朝ご飯は、昨日の軽食屋でいっか。
ギルドにも近いし。
技能取得を考察しながら、朝ご飯を食べることにした。
外に出ると、二人組の男。
こっちを鋭い視線で観察している。
プレイヤーか。
構わず軽食屋に向かったが、後ろから突き刺さるような視線は消えなかった。
軽食屋に入ると、客は誰もいなかった。
この店大丈夫か? 人気ないのか?
昨日、ミカ様と一緒に座った、一番奥のテーブルに座る。
300Gの朝食セットを頼んだ。
さて、技能だな。
剣術、槍術、各種魔法といった戦闘系の技能以外にも、補助系の技能がある。
分類すると3つだな。
闘気系、魔力系、その他。
いろいろあるけど、有能な補助技能をピックアップしてみた。
闘気系
闘気強化、闘気量上昇、闘気消費減、闘気回復上昇
魔力系
魔力強化、魔力量上昇、魔力消費減、魔力回復上昇
その他
生活系技能など(料理、掃除、洗濯など)
闘気系と魔力系は、それが闘気か魔力の差だ。
獲得経験値アップや、レベルアップ時のポイント獲得アップ系はなかった。
さて、まずは魔法だ。
土魔法1を土魔法2にするには1ポイント必要だ。
レベルを上げるのに、ポイントが増えていくことはないのか?
土魔法を2にしてみた。
試しに土球を作ってみる。
ふむ……こういうことか。
土球に込められる魔力の量が上がっている。
レベルで制限していたのか。
土魔法1では、どんなに魔力操作が上達しても込められる魔力量には限界があるんだな。
レベルを上げていくことで、込められる魔力量を解放していってるんだ。
これは僕にとって、とても都合が良い仕様だ。
通常なら、低レベルの時に魔法のレベルだけを上げていくのは意味がない。
込められる魔力量が増えても、魔力の最大量は限られている。
すぐに魔力切れになってしまうだろう。
でも僕には伝説の木の棒がある。
昨日考えていた、一瞬で力を爆発させるが僕にはできるのだ。
しかし、いま現在の僕には一瞬で最大量の魔力を込める技術はない。
それに込められる魔力の最大量はやはりレベルに依存しているのだ。
あまり急いで高レベルにするのはダメだろう。
土魔法3にするにも1ポイントだった。やはり1ポイントで上がるのか。
補助技能はどうだろうか。
魔力強化を取得してみた。
技能の欄に「魔力強化:1」とでた。
魔力で土球を作る。
込めた魔力量は変わらないのに、土球の威力が上がっているように感じられる。
ゲームの要素として、勝手に上乗せされる力ってわけか。
ものすごい効果があるわけじゃないな。
ほんの少し体感できる程度だ。レベルが上がれば違うのかもしれないが。
魔力操作上昇がないのは、勝手に操作することができないからだな。
魔力強化2にするためには、1ポイント必要だった。
そもそもレベルの上限ってあるのか?
ポイントの最大値はいくつだ?
昨日だけでレベルは10になった。
だんだん上がり難くなると考えるべきだろう。
戦闘系の技能は鍛錬して磨く必要がある。
ゲームの要素によって制限された力を、本当の鍛錬で磨き使いこなす必要がある。
戦闘系技能にも実は追加があった。
棒術を取った時に「土棒技」という技能が発生したのだ。
棒に土属性を付与した技なんだろうな。
優先すべきは戦闘系技能だ。
必要とするものを取る。
その上で、余ったポイントで補助系技能を取る。
その他の生活系技能は別にいらないだろう。
自炊とかしない限りは。
戦闘系技能で取得するのは、
棒術、体術、盾術、土棒技、土魔法、闇魔法の6個。
補助系技能の闘気4個に魔力4個。
合計で14個ある。
レベル10単位、ポイント10で考えると4個取れない。
僕は補助系の闘気魔力それぞれ消費減と回復上昇を切ればいい。
問題はミカ様だ。
戦闘系を同じと考えると、補助系の何を切るか。
それはこの伝説の木の棒次第だな。
ミカ様がこの木の棒に触れることで、闘気と魔力を補充できるなら、僕と同じがいいだろう。
残りの技能ポイントを使った結果こうなった。
技能:0
武器:棒術1 体術1 盾術1 土棒技1
魔法:土魔法2 闇魔法1
補助:闘気強化1 魔力強化1 魔力量上昇1
難しい顔をしてステータス画面とにらめっこをしていた時だ。
「くすくす」
ん? 笑い声?
顔を上げると、ミカ様が座っていた。
ぬお! 全然気が付かなかった!
あれ、白いマント? 買ったのかな。
「お、おはようございます! すみません、気が付かなくて」
「いいのよ。ステータス画面見ていたんでしょ? すごい真剣な顔だったわ」
他人のステータス画面を見ることはできない。
つまり、僕はミカ様からしたら、何もない空間を真剣に見つめていたことになる。
ステータス画面を見ていたって分かってくれるだろうけど。
時間は午前8時40分になっていた。
「ミカ様、朝食は食べられました?」
「まだだけど、お金あまりないし」
「あ、僕が奢ります!」
「ルシラ君もお金ないでしょ?」
「え、えっと後で説明しますけど、お金あるんです!」
僕は500Gの朝食セットを頼んで持ってきた。
「ありがとう。食べさせて頂くわね」
「どうぞ。遠慮なく食べて下さい」
朝食を食べるミカ様に、考察していた技能に関して伝えていった。
重要な情報だけど、ミカ様に隠すなんてこと今さらしない。
僕はミカ様の好感度を上げまくると決めたのだ!
「ルシラ君の考察すごいわ。すごく役に立つ情報ね。……そんな情報を私に教えてよかったの?」
「え? あ、いや……ミカ様には隠す必要ないかなって……あ、いや、その他の人に僕から聞いたとか、僕のことを秘密にして頂ければいいかな~ぐらいでして」
「くすくす。ルシラ君って本当に優しいのね。ありがとう……。昨日も、そして今もルシラ君の好意に甘えておいて、今さらなんだけど、このラグナロクの間、一緒に行動しない?」
「え……は、はい! 喜んで! ミカ様と一緒に行動します!」
おお! きたこれ! この展開! 間違いなく好感度は、昨日と今でかなり上がっているぞ!
「それで、そのミカ様って呼び方なんだけど……確かに天使としての階級は私が上だけど、ここでは同じ……ううん、ルシラ君の方が逆に上だわ。私のことはミカって呼び捨てでいいわよ。私がルシラ様って呼ぼうかな」
ぬおおおおお! なんだこの展開は! こんな展開あったっけ? いやどこにも書いてないけどさ!
ミカ様めっちゃ笑ってるし! その小悪魔的な笑顔にKOですよ!
ルシラ様……くぅぅぅぅ! それはそれで萌える!
が、しかし! ミカ様という、お姉様的な呼び名で呼べるのも萌える!
どっちだ……どっちが正解なんだ?
ミカ様と呼ばせて下さい → 女王様プレイへのフラグ?!
ルシラ様と呼べ → 奴隷プレイへのフラグ?!
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ミカ様を奴隷?! 奴隷にしちゃうの?!
―― 妄想タイム ――
「ミカ。すまんが、ちょっと背中を流してくれるか」
「はい、ルシラ様。喜んで♥」
背中を洗う感触は、柔らかい何か……それはきっと素晴らしい星であろう。
「ルシラ様♥ 気持ちいいですか?」
「ああ、とってもな。背中だけでは満足できないようだ。すまんが前もお願いできるかな?」
「はい、喜んで♥」
今日も僕はミカに天国に連れていってもらうのであった。
―― 妄想タイム終了 ――
いや冷静になれよ。天界に戻ったら大天使様だぞ。
ここで変なことしたら、戻った時にとんでもないことになる。
危ない。これはトラップだ。ミカ様が自然に設置してしまったトラップだ!
「い、いえ……ミカ様はミカ様なので、ミカ様と呼ばせてください。僕のことはルシラ様なんて呼ばないで、ルシラ君とか、ルシラとか呼び捨てでお願いします」
奴隷プレイのフラグを捨てて、真剣な顔で答えた。
ミカ様は笑いながら僕の言葉を聞いていた。
「くすくす。分かったわルシラ君。強制はしないから、好きなように呼んでね」
きっとからかわれたのだろう。
ミカ様にからかわれるなんて……興奮しちゃいます。
ミカ様の技能ポイントは保留にしてもらった。
実験が必要だったからだ。
僕はミカ様の好感度を上げると決めた!
つまり、ミカ様のためにやれることはやる!
この木の棒の力を、ミカ様に伝えるのだ!
「このマントね。実はユリの花びらなのよ」
突然の言葉。
え? それがユリの花びら?
「うふふ。昨日部屋に戻ってから、ずっとユリの花びらの使い方を特訓したの。鎧の形にすることはできなかったわ。ワンピースぐらいにはなったけど。それで、マントにしたの。いずれは力を使いこなして、鎧になってくれるといいけど」
「そうだったんですか……一晩でそこまでの形にできるなんてすごいですよ」
「ありがとう。それでね、ユリのマントから私に力が流れてくるの」
あ、あれ? もしかして伝説の木の棒だけじゃなくて、他の特典レアアイテム全部そうなのか? 闘気魔力の無限供給って他もそうなのか?
「力って闘気や魔力ですか?」
「うん、私の力を底上げしてくれるのよ」
底上げ。微妙な表現だ。それって闘気使いたい放題ってこと?
「えっと……闘気をどんなに使っても闘気切れしないということですか?」
「う~ん、闘気や魔力の強さを底上げしてくれる感じかな。闘気を使えば闘気切れはすると思うよ」
「そ、そうですか」
これはさらに実験することが増えたな。
「ミカ様、実験したいことがあります。ギルドに行って最初に稽古の依頼を受けましょう」
「わかったわ。ルシラ様の言う通りに♪」
「ぐはっ!」
思わず変な声を出してしまった。
嬉しそうに笑うミカ様と共にギルドに向かう。
20個のデイリー依頼と、ミカ様は剣術稽古、僕は受けられるだけの稽古依頼を全て受ける。
そして稽古場に向かった。
「ミカ様。この木の棒を持っていってください」
「え? でもこれはルシラ君の……」
周りに誰もいないのに、わざと周りを警戒して、ミカ様の耳近くに口を近づけて小声で話す。
すると、ミカ様も顔を近づけてくれた。
う~ん、ミカ様の髪から良い香りが……くんくん……ぐっ、癖になりそう。
「昨日の間に分かったこの木の棒の能力は2つです。1つは闘気と魔力を無限供給してくれます」
「え?! あ、ごめん……」
驚きの大声を出したことで、ミカ様は手で口を塞いでさらに顔を近づけてくれた。
「昨日、僕が魔力切れになることなく、稽古を最後までできたのは、この木の棒から魔力が供給されていたからでした。闘気も供給されます。この木の棒を使えば、稽古の1時間を最大限有効に使えるはずです」
「そ、そうだったの……素晴らしい能力だわ」
「それともう1つ。この木の棒は武器化します。闘気を流すことで念じた武器に形状が変わってくれます。木の棒を片手剣に武器化させて稽古してもいいですし、闘気切れになりそうになったら、木の棒を持って闘気の供給を受ける形でも、どちらでもいいと思います」
「武器化……すごい木の棒だわ。でも自分の剣で稽古した方がいいわね。木の棒はルシラ君のものなんだし」
「それがいいかと思います。木の棒を持ってみてください。それで闘気を木の棒にちょっと流してみてもらえますか? 貴重な闘気を使うことになりますが、木の棒がミカ様にも闘気や魔力を供給できるかわからないので」
「うん。やってみるわ」
ミカ様は僕から木の棒を受け取ると、木の棒に闘気を流してみる。
すると、木の棒は闘気で片手剣の形状へと武器化した。
「武器化はなりましたね。どうですか? 闘気が流れてくる感じします?」
「ええ……流れてきているわ。間違いなく私に闘気を与えてくれているわ」
ミカ様の目がキラキラと光っていらっしゃる。眩しい!
「よかった……では、木の棒を持って剣術稽古を」
「でもルシラ君はどうするの?」
「僕はこの間にデイリー依頼を消化してきます。1時間後に戻ってきますので」
「なるほど……わかったわ。ありがとう。本当にありがとう♪」
ミカ様は笑顔で稽古部屋に入っていった。
そして僕はデイリー依頼の消化へと走った。
―― 1時間後 ――
はぁはぁ……1時間で全部は無理だったな。
もうちょっとルートの研究をすれば、いけると思うんだけど。
息を切らせて稽古場に戻ってきた。
木の棒を持っていなかったので、闘気で肉体強化して走り回ったら、途中で闘気切れして、かなり大変だった。
闘気補充して~~~~。
剣術稽古部屋のドアが開く。
中からミカ様が出て来られた。
「お疲れ様です。ミカ様」
「うふふ、ありがとう。この木の棒すごいわ。おかげで本当に有意義な稽古ができたの。もう本当にルシラ君には感謝しても感謝しきれないわ」
きたこれ! 好感度アップきたよね!
「レベルはどうなりました?」
「レベル6に上がっているわ」
「ということは、技能ポイント5ありますね?」
「5ポイントあるわ」
「では火魔法を取得してください。武器系の技能に「火剣技」という技能が追加されると思います」
「うん……火魔法を取ったら、火剣技が出てきたわ。」
「体術、盾術、火剣技、光魔法の4つを取得して下さい。多くの稽古依頼をこなして、闘気魔力などの鍛錬とレベルを上げます。そしてお金も稼げます」
「なるほど……合理的だわ」
「ではその稽古依頼を受けましょう。休憩を兼ねて交互に稽古依頼を消化しましょうか」
「それがいいわね。今度は私がデイリー依頼ね。ルシラ君はこのまま稽古に入ってね。私はギルドに戻りながら、デイリー依頼をこなしていくわ」
「はい、ではまた1時間後に」
こうして、僕とミカ様は稽古とデイリー依頼をこなしていった。
デイリー依頼がなくなった後は、軽食屋で休憩するか、王都テラを探索したりして情報収集することにした。
お昼ご飯を一緒に食べて、晩御飯も一緒に食べた。
稽古の休憩側が1人で食べることも考えたけど、ミカ様が一緒に食べようと誘って下さったので、楽しく一緒に食べることにした。
全部、軽食屋だったけど。
そしてお客が1人もいない。
この店大丈夫か! マジで人気ないのか?!
―― 聖樹王暦2000年 1月 2日 23時 ――
「疲れましたね……」
「さすがに疲れたわ。でも本当に充実した1日だった」
夜の11時。僕達は軽食屋にいる。
1日中、稽古をしていた。
僕の稽古依頼数は6個、棒術、体術、盾術、土棒技、土魔法、闇魔法
ミカ様も同じく6個だ。
木の棒を持って稽古するために交互でこなすので、全部やろうとするとこれだけで12時間かかってしまう。
お昼と晩御飯は一緒に食べたので、その時間も必要とすれば、これはもう1日掛りである。
しかもミカ様はこの後、部屋に戻って白花の力を使う特訓をするそうだ。
大天使様はタフである。
稽古の日々をミカ様と一緒に繰り返していったのであった。
―― 聖樹王暦2000年 1月 10日 23時 ――
いつもの軽食屋で、自分達のステータスを確認する。
♦♦♦
名前:ルシラ 性別:男 年齢:18歳 神力:1 レベル:20
種族:人間
闘気:20
魔力:20
技能:0
武器:棒術2 体術2 盾術2 土棒技2
魔法:土魔法2 闇魔法2
補助:闘気強化2 闘気量上昇2 魔力強化2 魔力量上昇2
カード:
装備:革の上着 布の服 革の靴
レアアイテム:伝説の木の棒
所持金:265,250G
♦♦♦
名前:ミカ 性別:女 年齢:20歳 神力:20万 レベル:20
種族:人間
闘気:20
魔力:20
技能:0
武器:剣術2 体術2 盾術2 火剣技2
魔法:火魔法2 光魔法2
補助:闘気強化2 闘気量上昇2 魔力強化2 魔力量上昇2
カード:
装備:片手剣 革の上着 布の服 革の靴
レアアイテム:白花
所持金:225,350G
♦♦♦
かなり強くなれたと思う。
ちょいちょい装備や生活用品を買っているけど、お金も貯まってきた。
僕は伝説の木の棒があるので、武器はいらない。防具だけ買う必要がある。
ミカ様は白花が防具になるので、逆に武器がいる。
貯めたお金でミカ様の武器をグレードアップするか。
そしていよいよ稽古から実戦に移る!
明日は転移球を使って、聖壁の外に出てみることにしたのだ。
下級壁紙にある依頼で、聖壁の外に出る討伐系に「ゴブリン退治」がある。
明日はこれをミカ様と一緒に受けることにした。
ミカ様の白花の力もすごいことになっているし、楽勝間違いなしだな!