第3話 さらに稽古しよう!
―― 聖樹王暦2000年 1月 1日 17時 ――
ユリの花びらを見つめるミカ様。
嬉しそうに見つめているけど、特典のレアアイテムが鑑賞用の花びらってことはないだろ。
何かあるはずだ。絶対あるはずだ。
「ミカ様。ユリの花びらから何か力を感じたりしません? もしくは何か説明が追加されているとか」
「え?……う~ん」
ミカ様がユリの花びらから、何かを感じ取ろうと集中していく。
「あっ……」
お? なにかあったの?! あっちゃったの?!
ミカ様が再び集中していく。
すると、ユリの花びらが輝き始めた。
おお~! なんかきたよ!
花柄からユリの花びらがとれた……そして……ええ?!
「……」
「……」
僕はそっとミカ様から視線を外した。
見てはいけないと思ったからだ。
白いユリの花びらは、その姿をあるものに変えた。
推測するに、本当は服だったのだろう。
どうしてこうなった。
まだミカ様がこの白花を使いこなせてないのか。
それとも、稽古で闘気を使い切って弱っていたから?
分からないが、とにかく視線を外しておいた。
白いユリの花びらは、ミカ様の布の服の上に張り付く破れたブラジャーのようになっていたのだ。
「ご、ごめんなさい」
「い、いえ! ぼ、僕は何も見ていませんので」
「ユリの花びらからね……声が聞こえたの」
「声?」
「うん。私の力になってくれるって。想いを込めて欲しいって。自然と頭の中でユリの花びらが私の鎧になってくれるという想いが湧いてきたの。その想いを込めてみたら……そ、その、まだ上手くできなかったんだと思う。あんな形になっちゃって……」
う~ん、恥ずかしがるミカ様も可愛くて綺麗で素敵で愛おしい。
それにしても白花は、ミカ様の鎧? になってくれるのか。
いや、それだけとは限らない。
きっともっといろんな力があるはずだ。
「すごいですよ! きっとこの白花はミカ様と共に成長していくんですよ! 花びらだって増えるはずですし。使い方を特訓していけば、きっともっとすごい力になりますよ!」
「そ、そうかな。そうだといいね……うん、白花の力を上手く使えるように特訓してみるね。部屋で特訓しようかな……ちょっと早いけど、ここでご飯食べていこうと思うの。ルシラ君はどうする?」
ミカ様に元気が戻った! よかったよかった。
そうだな……僕も一緒に食べちゃうか。
「僕も一緒にここで食べようと思います」
ホットミルクで200G使っているので、残金800Gだ。
500Gの一番安い軽食セットをお願いした。
ミカ様も同じ500Gの軽食セットだった。
元気になったミカ様と、白花の力について話し合いながら食べるご飯は、とても楽しかった。
僕はこの後、情報収集するつもりだったけど、プレイヤーの宿までミカ様を送った。
ミカ様は1人で帰れるわよ、と言ったけど、送ったら嬉しそうだった。
「ごめんね。送ってもらって……今日は本当にいろいろありがとう。ルシラ君のおかげでいろんなことが分かって助かったわ」
「少しでもお役に立てたら嬉しいです」
「そ、その……明日はどうするの?」
「まずはデイリー依頼ですね」
「そ、そうよね……私も一緒にいいかしら?」
「もちろん! 一緒にやりましょう!」
「うん♪」
む? そういえば、フレンド登録みたいな機能あるのか?
いや、待てよ。パーティ機能とかもあるのかもしれない。
ステータス画面を見たけど、そんな機能はなかった。
くそっ! フレンド登録して囁きチャット機能とかあれば、ミカ様と内緒のお話とかできたのに!
「それでは明日の朝9時に、ここで……いや、ギルドで会いましょう」
「そうね……ギルドで会いましょう」
ここはまずいな。他のプレイヤーに見られる可能性がある。
ミカ様と行動を共にしていることは、いずればれるかもしれないけど、できるだけ隠しておこう。
「では僕は情報収集してきます」
「頑張ってね」
「はい、行ってきます」
僕が見えなくなるまで、ミカ様は手を振って見送って下さった。
さて、ギルドに到着。
情報収集もするけど、まずはこれだ。
闇魔法の稽古の依頼を受ける。
技能の闇魔法も取得する。
稽古場に行き、闇魔法の稽古を受けた。
―― 1時間後 ――
稽古は土魔法と同じだった。
魔力を闇に変化させて、闇球での稽古だ。
そのうち応用技とか教えてもらえるのかな?
それは自分で考えろなのかもしれない。
土魔法稽古の時にクリアできなかったステージまですぐに到達。
そこから、苦戦しながらも次第に魔力操作に慣れてくる。
同じようなフードを被った老人が、闇球を3つ飛ばしてくる。
変化する回数は3回だ。
このステージをクリアすることはできなかったけど、1歩前に進んだぞ。
そして稽古の間、僕の魔力が切れることはなかった。
やはりこれはおかしい。
ギルドに戻ると、2階のNPCだけではなく、受付の禿げ頭の兄さんにもいろいろ聞いてみた。
Q:魔法の稽古で、1時間魔力切れすることなく稽古できるものなのか?
A:どれだけの熟練者かにもよるけど、最初のうちは10分もたないだろう
Q:冒険者達のレベルってどのくらいですか?
A:レベル? どのくらい強いかってことか? そりゃ~人によって様々だろう
Q:魔法は技能ポイントで取得するのですか?
A:なんだそれ? 魔法は魔法学校に通ったり、魔法士の弟子になって覚えるんだろ。
Q:ステータス画面って知ってます?
A:なんだそれ?
Q:アイテムボックスって知ってます?
A:魔道具だろ? 冒険者なら憧れの魔道具だよな。高すぎてなかなか手が出せないだろうが。
他にもいろいろ聞いたけど、禿げ頭の兄さんは親切に何でも答えてくれた。
見た目で人を判断してはいけません。
さて、どうして僕が魔力切れにならないか。
薄々そうではないか? と思っていることがあるんだけど、確かめるために、もう1つ稽古を受けてみることにした。
魔法ではなく、武器系の稽古だ。
闘気を使う方である。
ま~いろんな武器の種類があるんだけど、魔物や悪魔に近づきたくない。
弓か! とも思った。
ネットゲームの知識からすると、遠距離職最強論がある。
弓はいつだって強い。
しかし、既に魔法で遠距離攻撃は得ているのだ。
そこに弓でさらに遠距離攻撃手段を増やしてどうするのかと。
敵に近づかれてしまった時を考えるのだから、弓以外だろう。
この木の棒を持っているんだ。ここは棒術か。
でも槍術もいいんだよな。
槍の中でもハルバードね。
僕がやっていたPVPが売りのMMORPGでは、ハルバードが強かった。
仕様変更でいろいろあったけど、それでもやっぱりハルバードは強かった。
ま~ここはそのゲームの世界じゃない。
ハルバードは強い武器だと思うけど、そもそもハルバードなんて持ってない。
持っているのは木の棒なんだし、これに期待して棒術にしよう!
棒術を取得する。
稽古場に行くと、部屋の中には鎧を着た老人戦士が持っていた。
「ギルドから依頼でやってきました」
「ようこそ……1時間の間よろしく頼む」
戦士の手に鉄の棒が現れる。長いな。
僕は伝説の木の棒を持つと構える。
「どんな風に稽古するのですか?」
「わしが棒でお主を攻撃する。避けるか、棒で防ぐのだ。そしてわしに向かって同じように棒で攻撃してこい」
「わかりました」
魔法と同じだな。
老人戦士の身体と鉄の棒に闘気が宿る。
僕も身体と木の棒に闘気を宿そうとした。
その時だ。
「え?」
木の棒に闘気が流れると、闘気が形を創っていく……闘気の棒か。
これは予想を超えていたな。
まさか、ミカ様が持てば闘気で剣になるのか?
面白い。この伝説の木の棒は面白い!
―― 聖樹王暦2000年 1月 1日 23時 ――
♦♦♦
名前:ルシラ 性別:男 年齢:18歳 神力:1 レベル:10
種族:人間
闘気:10
魔力:10
技能:5
武器:棒術1 体術1 盾術1
魔法:土魔法1 闇魔法1
カード:
装備:布の服 革の靴
レアアイテム:伝説の木の棒
♦♦♦
予想以上の成果を得られて大満足だ。
棒術の後に取得できる体術と盾術の稽古も受けたのだ。
闘気と魔力はレベルが上がるにつれて、使える力の最大量と強さが上がっていく感じだ。
レベルが上がったから、闘気操作や魔力操作がいきなり上達することはなかった。
つまり、レベルだけガンガン上げても、使い方が未熟だと本当の強さは引き出せない。
すぐに闘気切れ、魔力切れになってしまうだろう。
最大量があがるのは重要だ。
僕が闘気切れ、魔力切れすることなく無限に使えたとしても。
なぜ僕が無限に闘気、魔力を使えるのか。
答えは僕のレアアイテム「伝説の木の棒」にある。
この木の棒から、おそらく僕に闘気と魔力が供給されている。
それによって闘気切れ、魔力切れになることがない。
いや、本当に無限であると確定するのはまだ早いか。
僕の最大量はまだ低いだろうから、1度に供給する量は少ないはずだ。
僕の最大量が上がっていき、1度に供給する量が増えてきた時、もしかしたら木の棒の供給量も有限と分かる時が来るかもしれない。
使い捨て……じゃないよな。
あ、ちょっと怖くなってきた。
木の棒が供給してくれる力が有限だとすると、いずれ力を失う?
いやいや、そんな残念仕様だとは思いたくないな。
たとえ有限だったとしても、一晩経てば戻るとかそんなのだろう。
きっとそうだ……そう思いたい。
仮に力を使い果たしてしまったら、それはそれで仕方ない。
考えても分からないのだから。
ケチっていつまでも使わないなんてダメだ。
国民的RPGで、最高の回復薬を勿体ないと思い、ラスボス戦まで貯めておくと、結局使わないでクリアしてしまうのと同じ現象になってしまう!
とにかく使えるだけ使って、自分の力を高めるべきだ。
一瞬で使いこなす力の最大量を上げる。
これは伝説の木の棒を持つ僕だけにできる戦法ではないか。
ミカ様の闘気最大量が100とする。
ミカ様はいかに闘気量1を上手く強く使えるかを鍛えることになるだろう。
それは僕も同じだけど。
ミカ様が闘気量を一瞬で100使ったら、闘気切れになってしまう。
最大量を一瞬で使いこなすことが現実的には難しいけど、例えるならだ。
でも僕は違う。一瞬で使いこなすことができるフルパワーで常に戦っても、伝説の木の棒から闘気、魔力が供給されるので問題ない。
だからこそ、一瞬で使いこなす力を鍛えることもするべきだ。
1の力を鍛え、さらには一瞬で使える力の量も鍛える。
もし木の棒の力がなくなっても、それまでに鍛えたことは無駄にならない。
力を一瞬で爆発させる技術だって、あって悪いわけじゃないしね。
時刻はもう23時を回っている。
帰ってお風呂に入って寝よう。
ちなみに、装備品の服とか下着は、常に清潔を保っているので洗濯不要だった。
良い仕様だな。
部屋に戻り、お風呂に入り、歯を磨いてベッドの中に入ると、一瞬で眠りに落ちた。
――♦♦♦――
ミカはルシラと別れて部屋に戻ると、まずお風呂をゆっくりと楽しんだ。
ルシラがお風呂の使い方を教えてくれて本当に助かった、とミカは喜んだ。
石鹸やシャンプー、リンスなどは使っても減らないと分かった。
お風呂から上がり、タオルで身体を拭くと、タオルはすぐに乾いて清潔でふわふわのタオルに戻った。
ゲームの要素なのだろうと理解した。
歯を磨いて、髪を乾かしながら椅子に座る。
そして、今日1日の出来事を思い出していく。
仲間の天使達が、キャラメイクで何も取得してこなかった自分を心の中で嘲笑っていると、すぐに分かった。
ラグナロクで神力を得て自分よりも高い階級になると意気込んでいるのだろう、ミカはそう理解した。
女神ヘラに仕える天使だけではなく、その他の天使達も、ミカがキャラメイクで何も取得しなかったことをチャンスだと思っている。
大天使ミカエルを出し抜くチャンスだと。
その思いが間違っているわけではない。
キャラメイクで高いアドバンテージを得た者達は、魔物討伐へと向かっているのだから。
しかし彼らのほとんどは、ここが本当の世界であると同時にゲームの要素が混ざり、自分達は天使のような絶対的な存在でないと理解できていない。
ゲームの要素と、本当の世界。この2つが混じり合った世界をどのように生き抜くか。
その点をルシラはよく分かっているようにミカには思えた。
天界で図書館の帰りに、からかわれていた天使。
あの頼りない天使に、今日自分は助けられた。
いや、導かれた。
いろんな機能のこと、依頼のこと、この世界のこと。
そしてテーブルに置かれている剣。
これも彼によって自分に与えられた力である。
感謝しよう。彼は自分の恩人である。
そして彼のために自分ができることはしてあげよう。
ラグナロクが終わり天界に戻ったら、彼に神力の使い方や天界のことをいろいろ教えてあげよう。
そんなことを考えるのが、とても楽しかった。
ミカはふと白花のことを思い出す。
この力に気付けたのも、彼のおかげだ。
軽食屋では、情けない姿を見せてしまった。
あんな破れたブラジャーのような形になってしまい、彼に落胆されなかったかちょっと心配だった。
それにこのユリの花びらにも可哀相なことをしてしまった。
自分がちゃんと力を使いこなせなかったから、彼の前で恥をかかせてしまった。
ミカはユリの花びらの前で精神を集中していく。
髪はまだ乾ききっていない。
身体に巻いていたバスタオルを脱ぎ捨てた。
一糸まとわぬ姿のまま、ユリの花びらに想いを伝える。
こうした方が、想いが強く伝わると思ったから。
ユリの花言葉……威厳、純潔、無垢
この花言葉に負けない心を自分が持たなければいけないと感じた。
白ユリの花びらは強く光り輝き、ミカの想いに応えていった。
睡魔に負けるまで、ミカは白花の力を使いこなそうと特訓を続けた。
♦♦♦
名前:ルシラ 性別:男 年齢:18歳 神力:1 レベル:10
種族:人間
闘気:10
魔力:10
技能:5
武器:棒術1 体術1 盾術1
魔法:土魔法1 闇魔法1
カード:
装備:布の服 革の靴
レアアイテム:伝説の木の棒
所持金:3,300G
♦♦♦
名前:ミカ 性別:女 年齢:20歳 神力:20万 レベル:4
種族:人間
闘気:4
魔力:4
技能 P:3
武器:剣術1
カード:
装備:片手剣 布の服 布の靴
レアアイテム:白花
所持金:700G
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