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ラグナロク  作者: 木の棒
序章 キャラメイク的な!
3/27

第2話 稽古しよう!

―― 聖樹王暦2000年 1月 1日 14時 ――


 ミカ様と共にデイリー依頼を終えると、14時になっていた。

 お昼も食べずに依頼を消化したので、そろそろお腹が空いてきたな。

 そういえば、ちゃんとお腹空くのか。ここらへんはゲームの要素なしと。

 何か食べにいこうかと思っていたのだが……。


「武器屋に行きましょう!」


 無事に依頼を終えて興奮気味のミカ様。

 どうやら武器を買いたいらしい。


 ミカ様いわく、剣が1本あればどんな敵でも倒してみせるとか。

 さすが大天使様……でも、そこらへんどうなんだろうな。

 天界でのミカ様の強さは神力に依存していたはず。

 剣を振るといった技術は違うとしても、強さがそのままってことはないだろう。

 それでも神力ではなく、身体が覚えている技能の強さはそのままなのだろうか?


 とにかく武器屋です。


「いらっしゃいませ!」


 髭もじゃドワーフが出迎える。


「片手剣を見せてもらえるかしら?」


「へい! こちらでございます」


 ずらりと並べられた片手剣。

 長さ、太さ、刃の形状と様々な片手剣をミカ様は真剣に選んでいる。


 そういえば、僕も何か武器買った方がいいのか。

 この木の棒で戦える……のか?

 レアアイテムなんだから、何か効果があるはずなんだけどな。


「これはいくら?」


「280,000Gとなります」


「……こっちのは?」


「250,000Gとなります」


「…………こっちのは?」


「170,000Gとなります」


「………………こ、これは?」


「140,000Gとなります」


 ミカ様がここに来るまで何もお金を使っていないのなら、手持ちは130,000Gのはずだ。

 130,000Gで買える片手剣ってないのか。

 140,000Gの片手剣は短剣といえばいいのか、刀の長さがかなり短いし幅も狭い。


 280,000Gのは、それなりに立派だな。サーベルみたいな片手剣だ。

 250,000Gのでも、長さと幅もそれなりにある。柄や鍔にデザイン性なんてないけど、両刃でブロードソード? というのかな。

 武器の名称って僕にとってはゲーム知識からなので、正確じゃないんだよね。


 ミカ様が落胆の表情を浮かべている。

 欲しかった片手剣が買えないからか……でもデイリー依頼で1日30,000Gってことは、10日もすれば280,000Gのだって買える。

 いや、他にも依頼をこなせば……。


 しかしミカ様は、欲しい玩具を前に両親にダメと言われ絶望に落とされた子供のように落胆している。

 欲しがっているのは玩具じゃなくて剣なんだけどね。

 剣さえあれば、魔物討伐系の依頼をこなせると思っているのだろう。


 僕の手持ちは……120,500G。

 初期100,000G - 革の靴10,000G + 布の靴売り500G + デイリー依頼30,000G = 120,500Gである。


 ミカ様と合わせると250,500Gか。

 ブロードソードが買えるな……残金500Gになるけど。


 いくべきか? ここはミカ様の好感度を上げるためにいくべきか!

 いくべきだろう! ここでいかず、いついくというのだ! いくのを我慢していい時ではない! いく時はいくのだ! 思いっきりいくのだ!


 僕は絶望しているミカ様の横を通り過ぎると、250,000Gの片手剣を持つ。


「これください」


「え?!」


「足りない分は僕が出しますから」


 目を丸くして僕のことを見ているミカ様の前で、僕はお店の水晶にカードをかざす。

 ドワーフはニコニコしながら、その様を見ていた。


「い、いいの?」


「はい。ミカ様のためなら」


 ミカ様は困ったような、それでいて嬉しいような表情で、


「ありがとう……」


 よし! これきた! 好感度アップきたよこれ! ぐんぐん上がるよ!


 ミカ様も水晶にカードをかざす。

 支払い完了!


 ミカ様は片手剣を手に入れた。

 鞘は革製の鞘だったけど、ドワーフのおっちゃんがちょっとおまけしてくれて、丈夫な鞘をつけてくれた。


 そして僕は気付いた。

 僕から先に水晶にカードをかざしたので、残金500Gはミカ様のカードにあることを。



「す、すみません」


「ルシラ君が謝る必要なんてないわ。ルシラ君のお金を使ったのは私なんだし」


 お腹が空いた僕達は、残金500Gで、1個150Gのパンを2個買い、1個ずつ食べている。

 お店の好意で、水を木のコップに注いでもらい飲んでいる。

 これはいろいろ生活用品も買う必要があるな。

 アイテムボックスがあるから、いくらでも持ち運べるし。


「日が暮れる前に、魔物討伐の依頼をこなしてお金を得ましょう!」


 ミカ様は意気揚々と剣の柄を握る。

 剣を買えたことが本当に嬉しいのか、何度も握っている。

 が、しかし……問題があるのだ。


「ミカ様……魔物討伐には行けません」


「え? どうして?!」


「ここはルーン王国の王都テラです。魔物が出るのは「聖壁」の外ですから、歩いて聖壁の外まで行こうとしたら、とんでもない時間がかかるでしょう。下手したら10日以上かかりますよ」


「え……みんなはどうやってオーク退治に行ったの?」


「おそらく、転移球を使ったのでしょう」


「転移球?」


「ワープ装置の一種です。いっきに聖壁の門前まで転移できるのですが……有料なんですよ。確か、聖壁の門前までは、1人2,000Gだったと思います」


「……ルシラ君」


「はい」


「聖壁って何?」


 ぬお~! まったく分かっていらっしゃらない!

 ミカ様のデイリー依頼を終えた後、ギルドの2階に一緒に行って、いろいろ新しい説明を受けた。

 デイリー依頼をこなす中で、様々な情報を得ることができて、それによって2階で受けられる新しい説明があったのだ。

 ミカ様も説明を受けたはずなんだけどな……いろんな情報を頭の中で整理できなかったのか?


 NPCから説明を受けた内容を、1つ1つ丁寧にミカ様に説明していった。


 ルーン王国は「聖壁」によって守られている。

 この聖壁には聖なる加護が与えられており、悪魔や魔物は近づけない。

 そのため、ルーン王国はミズガルズで最も繁栄しているのだ。

 王国内は安全なのだから。


「そして最も重要なのが、「神石」です」


 神石とは、その名の通り神の力を宿した石のことである。

 石といっても、見た目は透明な水晶やクリスタルのようなもの。

 お風呂についていたあの玉にも、この神石が使われている。


 ルーン王国はこの神石からエネルギーを抽出して栄えているのだ。

 神石は聖壁の外でしか手に入らない。

 最も簡単に手に入る神石は、聖壁の外にある「聖樹の木」の地面などを掘って採掘するらしい。

 1度掘った場所でも、時間を置けばまた神石ができている。


 聖樹の木を説明する前に、聖樹王の説明からしよう。


 聖樹王とは、ユグドラシルそのもの、つまり世界樹とか宇宙樹といわれる、この世界を支えている巨大な樹のことだ。

 聖樹王の木の根が全ての大地を支えている。


 そして聖樹王の木の根から、さらに樹が生えて立っている。

 これが聖樹の木である。聖樹王の子供みたいなもんだ。


 聖樹の木の地面を掘る以外で神石を手に入れるには、聖樹王の穴に入って採掘する。

 聖樹王の穴とは、聖樹王の木の根に巨大な穴が開いていて、その先がダンジョンのようになっているのだ。

 その穴の中には悪魔や魔物がうじゃうじゃいるらしい。

 リスクは高いけど、価値の高い神石をゲットできるチャンスもあるわけだ。


 それ以外では、森などに生息している妖精や魔物が神石を集めていたりするので、襲って奪うとかになる。


 ミカ様にこの世界のことを話しながら、ギルドに戻っていった。


 ギルドに戻りながらふと思ったのが、ミカ様のお仲間プレイヤー達は本当に転移球を使ったのか?

 デイリー依頼をこなさないと、新たな情報は得られないはずだ。

 もしかして……徒歩で向かった?

 それとも何か他の移動手段とか?


 ギルドに戻ると、壁紙を見る。

 短時間で稼げる依頼はないか、下級壁紙を見ていたらこんな依頼があった。


―― 稽古の相手求む。1時間で1,000G ――


 これは剣術の稽古だったのだが……よく見ると他にも同じ内容の依頼がある。


 槍術、棒術、弓術、鈍器術、盾術、さらには魔法関連もだ。


 ぴこ~ん! ネットゲーマーの勘がいっている! これはゲームの要素だと!


「ミカ様、これ見てください」


 ミカ様と共に稽古依頼を見る。

 間違いないと思う。これは稽古の相手を求めているのではなく、僕達が学ぶために用意されたゲームの要素だ。


 ミカ様は剣術の稽古の依頼を受けた。

 僕はどうしようか。そもそもどんな戦闘スタイルなのか決めていなかったし。


「ルシラ君はどうするの?」


「え、えっと……実はどうしようかと悩んでいて。天使になったばかりで、特に天界にいたころに得意としていた戦闘スタイルとかないので……でもやっぱり魔法かな」


 悪魔や魔物に近づいて剣を振るとか、ちょっとできそうにないし。

 槍ならまでいけるかな? リーチ長いから。


「そう……ごめんなさい。私のせいで武器がないのよね……その棒は武器なの?」


「え? あ~これは特典でもらったやつなんですよ。短すぎて武器にはならないかなって」


「特典……そういえば、私も何かもらっていたわね。部屋に置いてあったの?」


「いえ、アイテムボックスの中にありますよ」


「アイテムボックス?」


 またか……そういえばデイリー依頼をこなす時も、全部手で持っていたな。

 その時に気付くべきだった。


 ミカ様にアイテムボックスの使い方を教えた。


「こ、こんな素晴らしい機能があるなんて……」


 レアアイテムの「白花」を取り出す。

 すると、花柄から花びらが1枚だけある白い花がでてきた。

 なんだこれ?


「アイテムボックスの画面で白花にタッチすると説明文でませんか?」


 レアアイテムがどんな効果なのか聞くなんて、本当はいけないし、答えるのもダメだけど、今の流れなら聞ける! と思い聞いてみた。


「えっと……白花の花びらに名を与えましょう。名は花びらごとに与えられます」


「そ、それだけ?」


「こ、これだけよ」


 どうもレアアイテムの説明は不親切だな。

 全部こんな感じなのか?

 ま~自分で使いこなせってことなのだろうけど。


 さてと、僕はどの稽古か……この先、ミカ様と一緒に戦えるならやっぱり回復系?!


 そう思って回復魔法を探してみたのだが、回復魔法の稽古はなかった。

 あれ? ないの? 回復魔法。

 受付の怖い禿頭のお兄さんに聞いてみた。


「すみません、あの……あそこの壁紙にある稽古を求むという依頼なんですけど、回復魔法の稽古相手募集ってないですか?」


「回復魔法? そりゃ~どんな魔法だ?」


「え? えっと……傷とかが一瞬で治るような魔法ですけど」


「お前それは……聖魔法のことか?」


「聖魔法?」


「失われた魔法だよ。聖樹の祝福を受けていた頃には、聖魔法を使える魔法士もいたそうだが、今となっては誰もいないぞ。ギリシア王国では聖魔法を使える者がいるのか?」


「あ、いえ……そうではないです……すみません、ちょっと聞いてみただけなので」


 変に思われる前にミカ様のもとに戻る。

 聖魔法……失われた魔法……2階に行って聞いてみた。


【アースガルズの神々は、ミズガルズに暮らす人間に聖樹の祝福を与えました。しかし、1千年前に起きた神々の最終戦争ラグナロクにより、ほとんどの神々は死にました。神々を失ったことで、人間は聖樹の祝福を失い、聖魔法を失いました】


 聖樹の祝福とは?


【詳しくは説明できません。聖魔法は聖樹の祝福の中の1つです】


 う~む……まだまだ分からないことが多いな。

 でも、肝となるキーワードを拾えれば、説明を受けることができるのか

 漠然とした疑問ではなく、この世界の謎を解くキーワードを集める必要があるな。


 しかし、1千年前にラグナロクがすでに起きているのか? 神々はいない?


【ほとんどの神々は死にました】


 チッ、詳しくは教えてくれないか。


 とにかく回復魔法はない。あっても特別な聖魔法になってしまうと。


 いや、待て。

 キャラメイクの時に得た情報以外の説明があるんじゃないか?

 闘気、魔力、技能、カード、装備、レアアイテムに関して、何か説明ないのか?


【説明いたします】


 最初の説明に入っていないのが、いやらしい。

 聞かないと説明なしかよ。


 新たに得られた情報は 少なかった。


 剣術、槍術、棒術といった武器系の技能は、どれか1つだけ取得できるようだ。

 体術と盾術は別で取得できる。


 魔法は火、水、風、土の中から1種類だけ取得できる。

 さらに、光と闇のどちから1種類取得できる。

 魔法で選ぶ属性はかなり重要なので、よく選ぶように。


 それだけだった。


 なんて不親切な説明!


 これはどうする……。

 定番だと火魔法だよな。

 でも、レアアイテムの伝説の木の棒と相性が良さそうなのは土なんだよね。

 だって木だし、土に関連しそうだもんな。いや、関係ないかもしれないけど。


 1種類だけ……迷っているとミカ様が声をかけてきた。


「私は火と光にするわ」


 ミカ様は火が得意なのか。そしてミカ様は光ですよね! 輝いていますから!

 なら定番の火はなしだな。

 となると、やっぱり土か! そして闇いくか!


「僕は土と闇にしますね」


「え……闇魔法とるの?」


「こういうのは、属性を分けておいた方がいいんですよ」


「そ、そっか」


 気分はすっかりミカ様の相棒である。

 ミカ様とずっと行動を共にできると決まったわけじゃないのに!


 土魔法の稽古依頼を受けてギルドを出た。


 向かう場所は同じだった。ギルドから歩いて5分。

 かなり大きい建物の中に入ると、中は円形の空間が広がっていた。

 そして、いくつものドアがある。

 ゲームの要素だ。確信した。


 ミカ様は剣術の部屋に、僕は土魔法の部屋に入ろうとした。


 そこで気付いた、技能取得してない!


♦♦♦


名前:ルシラ  性別:男  年齢:18歳  神力:1  レベル:3

種族:人間

闘気:3

魔力:3

技能:3

カード:

装備:布の服 革の靴

レアアイテム:伝説の木の棒


♦♦♦


 レベル3になっている。


「ミカ様、ステータス画面を見てください。レベルが上がっていると思います」


「え?」


 ミカ様もステータス画面を確認する。

 レベルは3になっていた。


 まったく同じデイリー依頼をこなしたんだ。上がるレベルも同じだろう。

 表示されないけど、経験値なんて要素があるのかな?


 闘気と魔力は3だ。レベルと同じだけ上がるのか。

 

 剣術と土魔法はポイント1で取得できた。


 土魔法:1となった。レベル制か。剣術も同じようだった。


 ミカ様に剣術1の技能取得だけで、残りのポイントは保留にするように伝えた。

 ミカ様は僕のアドバイス通りにしてくれた。

 信頼されているようだ。

 このまま信頼と好感度アップを狙っていこう!



 さて、ドアを開けて中に入ると、ローブとフードをかぶった老人が立っている。


「ギルドから依頼でやってきました」


「ようこそ……1時間の間よろしく頼む」


「どんな風に稽古するのですか?」


「わしが土魔法でお主に攻撃する。避けるか、相殺して防ぐのだ。そしてわしに向かって同じ土魔法で攻撃するのだ」


「わかりました」


 見本を見せて、同じことをやれと。

 しかし、魔法を避けられるのか? 100%命中ではないのか。ゲームの要素でどうなっているんだ?


「いくぞ」


 いきなり老人の手から土球が飛んできた。一直線に。

 スピードは遅い。これなら余裕でかわせるけど、自動追尾してこないよね?


 1歩右に移動してかわす。

 土球は真っ直ぐ通り過ぎて、壁に当たると消え散った。


 しかし詠唱というか、魔法名を唱えてなかったぞ?


「詠唱とか魔法名とかないのですか?」


「詠唱を必要とする魔法となれば、神の技となろう。魔法名はお主がそれを唱えることで、魔法を出しやすいなら、魔法名を与えるといい」


「どうやって、土球を出すのですか?」


「魔力を感じ、魔力の性質を変化させよ」


 神力と似ているな。無料研修で習ったことと同じかよ。


 右手に木の棒を持って杖の代わりにする。こういうのって雰囲気が大事じゃん。

 魔力を右手に集中させる。そして土を創り出すイメージと共に、土を球の形状へと。

 そして一気に放つ!


 右手から放たれた土球は、ものすごいスピードで老人に飛んでいった。

 や、やば!


 ドォォォン!


 老人に当たったと思われた土球は、老人の後ろの壁に当たって消え散った。

 老人は僕の土球をかわしていた。


「いくぞ」


 老人はさっきとまったく同じスピードの土球を飛ばしてきた。

 あれ? 何の変化もないのか?

 ……違う。老人と同じ土魔法でなかったからか。

 スピードもちゃんと制御しろってことね。


 土球を今度はかわすのではなく、同じく土球を飛ばして相殺した。

 そして、老人と同じぐらいの土球を、同じぐらいのスピードで老人に向けて放った。

 老人は土球をかわす。


「次、いくぞ」


 次の言葉が入った。さっきとは違うな。

 これでステップアップしていくわけね。よ~し、やってやろうじゃないか!



――1時間後――



「いくぞ」


 くそっ! 順調にステップアップしていったのに、どうしてもこのステージがクリアできない!


 老人の手から、3つの土球が浮かぶ。

 威力、スピード共に、最初の頃とは比べものにならない。

 しかもそれぞれの土球が“2回動きを変化”させてくる。


 ちなみに、避けられなくても土球は僕に当たる直前に消え散るのだ。

 本当にダメージを受けることはない。


 3つの土球が飛んでくる。

 僕も同じく3つの土球を出して、相殺しようとする。


 2回動きが変化する……相殺しようと飛ばした土球から逃れるように方向を変えると、再び僕に向かって飛んでくる。

 その動きが早すぎて、僕の土球が追い付けない。魔力操作の差か!


 ドォォォン!


 土球が僕に直撃……する直前で消え散る。

 すでに僕の動きで避けられるスピードではないので、土球で相殺するしかない。


「いくぞ」


 老人の土球を避けるか、相殺しなくてはいけない。

 直撃になると、老人の攻撃ターンが続くのだ。


 ずっと、わしのターン! の状態である。


 結局、このステージをクリアできないまま時間となった。


「稽古終了じゃ。カードをここへ」


 老人にカードを渡すと、懐から水晶を出してかざした。

 これで1,000Gか。


 稽古できて、お金も稼げるんだから、これも毎日こなす必要があるな。

 稽古フィールドの仕様なのか、どんなに魔力使っても魔力切れにならなかった。

 外では違うのだろうか。

 そうなると、魔法を使う感覚は外で養わないと、あっという間に魔力切れとかになりかねない。


 ドアを開けると、ミカ様が待っていた。

 あれ? なんだか表情が暗いぞ?


「お疲れ様です」


「お疲れ様……ずいぶん長い時間稽古できたのね」


「え?」


「魔力切れにならなかったの?」


「え? 稽古の特別仕様で魔力切れにならないんじゃ?」


「……私は闘気切れになって、30分持たずに打ち切りよ。報酬は1,000Gもらえたけど」


「闘気切れ? あ~闘気か……」


 魔法に魔力切れがあるように、どうやら近接タイプにも闘気切れが存在するらしい。


「闘気ってどんな力なんですか?」


「肉体強化、身体能力上昇。それに剣に闘気を流して強化するといった感じね」


「闘気と魔力は、神力を分けた感じですね。物理系と魔法系に。使い方は同じですもんね」


「ええ、力の使い方は神力と同じだわ……でも、だからこそ、自分がいかに未熟か思い知ることになったわ……」


「え?」


「高い神力を持ってしまったせいで、私は神力の細かいコントロールなんて気にしないようになっていたの。少ない闘気を上手く使うことができなかった。闘気の総量、それに闘気の強さも、この世界では制限されているわ。レベルによって」


 それで暗い表情をされていたのか。


「この剣を振るうことすらままならない。天界ではどんな聖剣も羽のように軽く感じていたのに、少ない闘気を上手く操作できず、この剣が鉛のように重たく感じたの。もしかすると、ゼウス様は私達の驕りを正すために、ラグナロクをお創りになったのかもしれない」


 う~ん、どうなんだろう。

 クロノス様から聞いているゼウス様の性格からすると、単に遊んでいるだけのような。

 いや、それはゼウス様から最高神の座を奪おうとしているクロノス様情報だから、そう感じるだけなのかもしれない。


 それにしても、僕はどうして魔力切れにならなかったんだ?

 ミカ様と条件は同じはずなのに。


 稽古フィールドの特殊仕様かと思っていたのに……なぜだ。


 う~ん、分からない。闘気と魔力で仕様が違う? 魔力はなかなか魔力切れにならない?

 何か違う気がするな……。


 レベルで制限された世界か……レベルって僕達プレイヤーだけなのかな?

 この世界の人達にもレベルって概念があるのか?

 

 そういえば稽古でレベル上がったかな?

 ステータス画面を表示してみた。


♦♦♦


名前:ルシラ  性別:男  年齢:18歳  神力:1  レベル:5

種族:人間

闘気:5

魔力:5

技能:4 

 魔法:土魔法1

カード:

装備:布の服 革の靴

レアアイテム:伝説の木の棒


♦♦♦


 レベル5に上がってるな。


「ミカ様、ステータス画面を見てください。レベルが上がっていると思います」


「そうね。レベル4になっているわ」


「え?」


 あれ? 僕と1つ違う。

 どうしてだ? あ、稽古していた時間の差か。


 時刻は16時になろうとしていた。

 1度ギルドに戻ってみるか。

 稽古の依頼は1日に何回も受けられるか確認したいしな。


 暗い表情のミカ様を連れてギルドに戻る。

 稽古の依頼は1日1回だけだった。


 土魔法に決めたからか、火、水、風の稽古は受けられなくなった。

 魔力を火、水、風に変化させることもできない。


 武器系の稽古依頼は受けられる。

 武器系の技能は何にしようか……。


 武器系の稽古を受けてみたいけど、気落ちしているミカ様と稽古に行くのもな……。


「ミカ様、喫茶店に行きましょう!」


 こういう時は気分転換だ。女性は喫茶店好き……なはずである。


 隠居神の天使になる前の人間だった頃……僕には彼女なんて伝説の生き物は存在しなかった。

 どうやって気落ちしている女性を励ましたらいいかなんて分からない!


 マップに喫茶店と念じて案内された先は「軽食屋」と書かれていた。


 お店の内装は洒落た感じで良い。

 ミカ様に奢りますから! と男気を見せたのだが、ミカ様は遠慮してか1番安い100Gのホットミルクを注文されてしまった。

 ホットミルク好きだから、なんて笑顔で言ってくれたけど本当かな。


 合わせて僕もホットミルクにしておいた。


 店内に客は他にいなかった。

 1番奥のテーブルに向い合せで座っている。


 しかし話題がない。

 稽古の話題はいまタブーだろう。振ってはいけない。

 それ以外で、ミカ様の興味を引くような話題は……えっと……う~~~ん。


「そういえば、ルシラ君の特典のその木の棒は、どんな説明なの?」


 悩んでいると、ミカ様から話題を振ってくれた。

 しかも、この木の棒のことか。他意はないのだろう。僕もミカ様の白花のこと聞いちゃったし。


「意味の分からない説明なんですけどね。かつて神界を創造した「原初神」が持っていたとされる木の棒らしいです」


「原初神……ガイア様? エロース様? タルタロス様? それともカオス様かしら」


「原初神ってそんなにいるんですか……」


「神界を創造したとなれば……カオス様の可能性が高いわね。いずれにしても、すごい木の棒かもしれないわよ」


「そ、そうですか……そういえば、ミカ様の白花もどんな効果があるんでしょうね」


「そうだったわ」


 アイテムボックスから白花を取り出す。

 1枚だけ花びらがある。

 花びらに名を与えるんだっけ。


「何か花びらに名を与えてみてはいかがですか?」


「そうね……どんな名がいいかしら。何か花の名前がいいわよね」


「白い花……う~ん、ミカ様に似合いそうなのは「ユリ」か「サクラ」ですかね」


「ユリとサクラ……どちらも素敵な花ね。花びらは増えていくのかしら」


「説明からすると、きっと増えると思いますよ」


「そっか……それなら、最初の花びらは「ユリ」にするわ」


 ミカ様がそう言った瞬間、花びらが光った。そして花びらが、ユリの花びらになったのだろう。この流れからして、ユリの花びらになったとしか思えない。


 でも、それで終わり?

 ユリの花びらになって終わり?

 それだけの効果?


 ミカ様は嬉しそうに、ユリの花びらを見つめていた。


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