第六話
「ふむ、面白いな」
ナシーフの呟きで目が覚めた。声がした方を見ると、ナシーフが骸骨さん(メイスver.)をしげしげと見ている。
「目を覚ましたか。このスケルトンだが――」
「この子たちは悪い骸骨じゃありません!」
「そ、そうか。それはいいが、これはお前が生み出したのか?」
“これ”とは酷い。この世界にはアンデッドの人権はないのか。
「いや、元々この遺跡にいた。」
「お前はここを根城にしているようだが、この遺跡で産まれたのか?」
「そう……だと思う。気がついたらここにいた。」
「ふむ」
ナシーフは何かが引っかかっているようだ。
「まあいい。外に出ろ。食事にするぞ。」
ナシーフは玄室を出て行った。ナシーフもアロンザも“俺”という存在に対して何か思うところがあるようだ。
―――
遺跡から出て、ナシーフたちの所まで行くとアロンザがスープを作っていた。
スープは浅黄色をしており、何かの肉がいくらか入っている。皿は3人分あった。
「おはよー。アンデッドも寝るのねぇ、はじめて知ったわ。」
俺に気づいたアロンザが楽しそうに言う。
「おはようございます。眠ることもできる、ってだけで眠らなくてもいいみたいだけど。」
「とても安らかな寝顔だったぞ。まるで死んでいるようだった」
ナシーフが嘲笑的とも取れる冗談を口にする。うーむ、この二人に対してどう接すればいいのか、距離感がわからない。出会っていきなり刺されたことが、まだ俺の中で整理できていない。
「んー、今のは微妙ねー」
「そうだったか、すまん」
俺は簡単に謝罪するナシーフに苦笑した。
「はい、これは貴方のぶん」
アロンザがスープと硬そうなパンを俺に差し出す。
受け取りながら疑問が沸く。
「ありがとうございます。でも俺って食事とかできるのかな……」
若干自嘲気味になってしまう。
「イケルんじゃない? グールとかよく死肉をあさるって言うし」
さらっととんでもない例を出すアロンザ。「リッチとグールを同列に語るなど失礼ではないか?」と釘を刺すナシーフ。違う、そうじゃない。
「ま、何にせよ食べてみたらわかるでしょ。味は保障しないけどね」
言いながらアロンザはスープに手をつける。ナシーフは既に食べ始めている。
「いただきます」
俺も食べ始める。この世界での始めての食事は暖かくて、やさしくて、少し焦げ臭かった。
―――
「なぜスープを煮るだけなのに焦げるのか」
ナシーフが先ほどのスープに文句をつける。この人は単に失礼な人なのか、それともアロンザとの付き合いの長さから気安く接しているのか。
「文句を言うなら自分で作れ! この蜥蜴っ!」
「よろしい、ならば我が一族に伝わる料理を振舞おう」
言いながらつけていた皮製の防具をはずしていくナシーフ。
「ならなぜ脱ぐ!?」
思わず突っ込む俺。
「待っていろ。最高の料理を作ってやる。」
とうとうフンドシ一丁になったナシーフの顔は、出会ってから一番男前であった。どうやらナシーフはあまり人の話を聞かない人らしい。
あ、こっちでもフンドシってあるんだ。
得物を携え、ナシーフは川の方へ向かっていった。魚をとりに行ったようだ。
ナシーフが料理をするのに裸でないといけないような変態ではなかったことに安堵した。
「それでは邪魔な蜥蜴が川に還ったみたいなのでアロンザせんせいの魔術・魔力講座をはじめまーす」
若干やさぐれた声のアロンザ。
「はーい」
「貴方は素直でいいわね。じゃあ簡単に説明するわよ。魔術とは魔力を変換して何がしかの現象を引き起こす術よ。魔力はこの世界に存在する全ての物質・生物に宿る力よ」
「なんかざっくりしてませんか?」
「正直なところ、魔力なんてものを本当の意味で理解している者なんてこの世界にいないのよ、感じて操れるならそれで魔術は使えるから」
「なるほど」
「リッチは身体を魔力で動かし、五感を魔術で代用しているらしいわ。だから元々魔術に対する適正は高い」
「ふむふむ」
「なので貴方はすぐにでも魔力を操作し、魔術を使うことができるようになるはずよ。座学は以上!」
「えっ、はやっ!」
「理論なんていくらやったって魔力は操れないのよ! “痛み”を知らない人に“強さ”を語ってもわからないようにね!」
アロンザせんせいは良いことを言ったつもりらしい。
「そうですね」
適当に答えた俺にアロンザせんせいが右手から何かを発射する。昨晩、臨戦態勢だった二人から感じられた力と同質のものであるようだった。
何かはゆるゆる~と飛んできて、俺のおでこにぺちっと当たった。
「今のが魔力であり魔術よ。魔力をそのまま飛ばしただけだけどね。額に当たる前に魔力を感じることはできた?」
俺は黙って頷く。
「あら、これは今日中に片が付きそうね」
アロンザせんせいは嬉しそうに口元を歪めた。