魔物の王
寂しかった。
みんな怯えた目でわたしを見る。
「キミがいればきっと世界は平和になると思うんダ。だってそうだろ? 圧倒的な力を持った存在がいて、そいつに喧嘩を仕掛けるバカなんていないじゃなイカ!」
黒い髪、黒い瞳の少年が言っていた。
そうだったんだ。
みんながケンカしないで済むなら、わたしは寂しいのを我慢しよう。
そう思っていた。
人間と魔物が戦争になるたびにわたしは力を見せ、人間たちから戦意を奪った。
その度に少年は現れ、「これでもうきっと戦争にはならないネ!」などと言っていた。
だけれど、少し時間がたつと人間たちはまた戦争を仕掛けてきた。
そんなことを何度も何度も繰り返した。
同じことの繰り返しに、わたしは外の世界に興味が持てなくなった。
政務は部下に任せ、わたしは怠惰をむさぼった。
そして長く生きるうち、偉そうにしていた方が良いことに気がついた。
わたしがわたしらしく振舞うと、わたしの力量を測れない可哀想な魔物が王の座を奪おうとしてくることが何度かあった。
王は王らしく振舞わなければならない。
さもなければ、身内同士で争う破目になる。
そう学んだわたしは、自分を偽った。
尊大な態度をとるようになって、ときどきわたしの力をわかりやすい形で見せ付けると、魔物たちの反乱は起きなくなった。
そうして尊大な魔王でいることに慣れてきた頃、王女が人質とかいう理由でやってきた。
明らかに怪しい理由でやってきた王女はわたしに聞いてきた。
「不死者の王が誕生したと神官が騒いでいる。心当たりはないか? もしかしたら人間と魔物が皆殺しにされるかもしれない」
わたしは王女――ラーナの言葉を聞いて笑ってしまった。
だって彼女の問いかけがあまりにストレートだったから。
敵であるはずの魔王に対して、駆け引きなど一切しようとしなかったから。
思い当たることはあった。
たしか野良リッチが現れたという話だ。
わたしは野良リッチの話をラーナにし、その野良リッチを呼びつけることにした。
もし彼女の話が本当なら、たくさんの命が散ることになるかもしれない。
やってきた野良リッチは、わたしに怯えることなく気楽に話しかけてきた。
力量がわからない可哀想な方か――最初はそう思っていたが、どうやら違ったらしい。
その野良リッチ――リークと話をして、わたしははじめて友達ができたと思った。
だからリークが苦しむ姿を見るのはとても辛かった。
わたしの勘違いのせいで苦しむ破目になったリークは、それでもわたしを気遣い敬ってくれた。
そんなリークが生まれた理由を知って、あの少年を許せるわけがない。
わたしだけならまだ許せた。
わたしが我慢すればいいだけだから。
でも、リークのことは許せなかった。
だから余は、あやつを消し去る。