人間の王
私の父は王だ。
人間だけで構成された国の王。
全ての人間が自分のために存在していると考える傲慢な王。
だが、そんな私の父は決断力のある強い王だと思われている。
女性の魔物には美しい者が多いと聞けば魔物たちに戦争を仕掛ける。
他の人間はこんな王を、勇気のある武人と褒め称える。
戦場で劣勢になれば、怖くなりすぐに退却を命じる。
他の人間はこんな王を、引き際が良いと褒め称える。
失敗した部下がいれば、怒りに任せ処断する。
他の人間はこんな王を、遵法精神があると褒め称える。
もちろんこのような王を訴追しようという動きは何度となくあった。
私もそういったことに何度も巻き込まれた。
だからこそ剣の腕を磨いたのだ。
私は父のようにはならない。
そう決め座学にも打ち込んだ。
そんな私を疎ましく思ったのか、父は私に魔物の国への人質になるよう命じてきた。
最初に聞いたときは、とうとう頭がおかしくなったのかと思った。
曰く、「神官たちによると魔物の国で不死者の王が誕生したらしい。魔王は何も言ってはこないが、これは全ての生きとし生けるものの危機だ。人質の名目で魔物の国に潜入してはくれまいか」だったか。
神官たちや大臣たちも口を揃え、「ラーナ様は剣の腕がたちますし、機転も利きます。魔物の国にあっても、きっと情報を集められるでしょう」などと抜かしていた。
結局、私が行かざるを得なくなったわけだが、今思えばこれは幸運だったと思う。
今まで話でしか聞いていなかった魔物と実際に話をする機会が得られたわけだから。
そして、魔物の国で出会った魔王。
彼女は強大な力を秘め、不遜な態度をとっていた。
しかし、すぐにその態度が作ったものだとわかった。
不遜な態度をはぎとってしまえば、彼女は寂しがり屋の少女だったのだ。
私の知る人間たちより、よほど人間らしかった。
ナシーフ、アロンザ、ロージー、それにリーク。
魔物の国にあって、彼らとの生活はとても心休まるものだった。
誰一人として人間がいないこの場所で、私は人間らしく生きていられたのだ。
それに私を襲った獣人たち。
愉快な連中だったが、人間に深い怨みを抱いていた。
それが私は悲しかった。
できれば仲良くなりたかった。
もちろん魔物の国では理解できない、受け入れがたいことも沢山あった。
例えば、魔物の国には法が存在しないということだ。
法がなくて、どうして社会が成り立っているのか、私にはわからない。
どうしたって社会を乱す輩は生まれるのだ。
ならばそういった輩を縛る法は必要だろう。
そういった部分は歩み寄りが必要かもしれない。
人間にも魔物を怨んでいる者は大勢いる。
お互いの歩み寄りが必要なのだ。
お互いがお互いに歩み寄れる日がくれば、きっと。
だが、そういった自由意志を奪われてしまっては歩み寄ることすらできない。
だからあの少年を私は認められない。
リークを造りだした理由も気に食わない。
世界の敵として仕立てて、それで世界を一つにするなどと。
そんなことを許しておけるはずがない。
私は、あの少年の性根を叩き直す必要がある。