勇者
僕の最も古い記憶。
それはあの少年との記憶。
黒い髪、黒い瞳をした少年。
彼の名前は知らない。
「やっぱり勇者は弱者が努力して、成長して生まれるのがいいよネ!」
たしかそんなことを言っていた。
彼の言葉を聞いて、僕ははじめて自我を得た。
彼の言葉を聞いて、僕は言葉を学んだ。
そして彼は僕にたくさんの試練を与えた。
僕は一つ試練を超えるたびに賢くなり、強くなった。
そして僕は気づいた。
僕に与えられる試練に、多くの命が巻き添えになっていることに。
なぜ今まで気づけなかったのか。
そのことに気づいてから、僕は人々を、魔物たちを、動物たちを守るために必死に努力した。
彼の目的がわからないまま、僕は強くなっていった。
僕に自我を与えてくれた彼には感謝している。
だが、多くの命を無為に摘み取るような行為は許されない。
だから誰かが彼を止めなくてはいけない。
その誰かはきっと僕だ。
全ての試練を終え、僕にようやくその資格が手に入ったのか。
彼のやろうとしていたことは理解できる。
だが許されてはいけない。
彼に感謝しているからこそ、止めるのは僕の役目なんだ。