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リッチな俺と魔物の国  作者: よしむ
第四章 まおうからはにげられない
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第三十一話

「ほほへんはい! ははへ! ふぉへはふふほォォオオオ!」

「で、こいつらどうするんだ?」


 猫耳を触手で捕縛しながらナシーフに問う。

 魔王様への反逆とも取れる行動をとったこいつらは、どうなるのだろうか。


「狙われたのはラーナだ、どうするべきだと思う?」

「ここは私の国ではないからな。任せるよ」

「そうか、なら放置する」

「いいのか?」

「良いさ」


 ナシーフがそう言うのなら良いが……。

 この国の法律とかってどうなってるんだろうか。


 俺は猫耳の捕縛を解いてやる。


「ぶへぁ……、なんてもんを口に突っ込むニャ! 最低ニャ!」


 猫耳がうるさい。


「せっかく助けてもらえそうな雰囲気なんだから、ここは黙っとけぴょん」

「うるさいニャ! 大体、アンデッドの弱点をなんで教えておいてくれなかったのニャ!」

「普通知ってるぴょん。一般常識の範囲だぴょん。だから私たちはあの変態触手アンデッドを引き付けておくだけの予定だったぴょん」


 そうか、常識の範囲だったのか。

 しかも変態触手扱いされてる。

 兎耳の言葉に俺も傷つく。


「放っておいて行こうか……」

「何勝手に行こうとしてるニャ! 待つのニャ!」

「いいから黙ってるぴょん。本当に猫人族はバカだぴょん」

「ニャンだとォ! もう堪忍袋の緒がぶったぎられたニャ! 表に出るニャ!!」

「ここはもう外だぴょん。本当にかわいそうな頭だぴょん」


 口論を無視して歩き出した俺たちの前に馬耳が立ちふさがる。


「このまま我々を放っておいて良いのか? また貴様たちを襲うかもしれないのだぞ」

「それならそれで良い。また返り討ちにするだけだ」

「……そうか」

「わかったのならどいてくれるか?」


 馬耳は無言で道をあけた。

 俺たちはそのまま振り返らずにその場を去った。


「なあ、ナシーフ。この国の法律とかってどうなってるんだ?」

「明確な法などない。してはいけないことをすればどうなるか、この国に住んでいる者はわかっているさ。わかっていない者は報いを受ける」


 ナシーフの言に俺は驚いた。

 ラーナにも衝撃的だったらしい。


「よくそれで国がまとまっているものだな」


 ラーナが戸惑いを隠さずに言う。


「おかしいことなのか? 我々はずっとそうしてきたからな」


 それで上手くやってこれたのなら、それでいいのかもしれない。

 単純な思考の俺とは違い、ラーナは色々と思うところがあったようだ。

 ラーナの口数が少し減り、何かを考えているようだった。



―――



 念のため2度目の襲撃を警戒していた俺たちだったが、杞憂に終わった。

 館にたどり着いた俺たちを、ロージーが出迎えた。


「おかえりなさいー」

「ただいま」


 ロージーの笑顔に俺の心が癒される。

 凶悪な襲撃者たちを退け、俺は生きて戻ってこれたんだと実感する。


「あらら、生きて帰ってこれたのね。おかえり」


 アロンザさんも歓迎してくれる。

 俺、ナシーフに目をやり、そのままラーナを見つけて固まるアロンザさん。


「こちらの高貴な出で立ちの人間の御婦人は……?」

「うむ、スヴェトラーナと言う。人間の国の王女だそうだ」

「ラーナで良い、よろしく」

「やっぱり! な、なんてことなの……、野良リッチ、かわいいアルラウネと来て遂に人間の王女を拾ってくるなんて……」


 アロンザさんがわなわなと震えている。震えながらも「アロンザです」としっかり自己紹介している。

 やっぱりってことはアロンザさんはスヴェトラーナのことを知っていたのか。さすがアロンザさんだ、なんでも知っている。


「あ、コルラートさんが話していた人間の王女様ですね! 綺麗な方ですねー。私はロージーと言います。リークさんが名前をつけてくださいました」

「ナシーフの旦那、おかえりなさい。 おっとォ、ほんとにお連れしてきましたねェ」


 奥からガチムチの山羊頭が出てくる。

 何この人超怖い。悪魔だ、悪魔がおる。


「コルラートか、久しいな。何か用があったのか?」

「野良リッチを拾ったと聞いたもんで、ご入用の物があるかと思いましてねェ。みなさんをお待ちしていたんですよ」

「そうか。リーク、何か欲しい物はあるか?」

「魔王様から武器ももらっちゃったし、俺はないよ。ロージーやラーナに聞いてくれ」

「魔王様から武器を頂戴するとは、スゴすばらしいですなァ。あ、あっしはコルラートと申します」

「リークだ、よろしく」


 見た目で怯えられることが傷つくのは、俺が一番よく知っている。

 凄く悪魔チックで恐ろしいコルラートさんだが、根は良い人かもしれない。

 努めて友好的に振舞う。

 でも正直超怖い。


「えへへ~、私はもう色々と頼みましたから大丈夫ですっ」

「特に必要な物は思いつかないな」

「そうですか。ではあっしはこれで失礼します。ロージーさんは例のブツ、楽しみにしていてくだせェ」

「はいっ、楽しみにしてます!」


 なんだかロージーはとても嬉しそうだ。


「何を頼んだんだ?」

「ひみつですっ」


 秘密か、それなら仕方ないな。

 コルラートさんが帰るのを見送り、館に入る。


「アロンザ、夕食はできているか?」

「あんたたちの分は無いわよ、いつ帰ってくるかもわからなかったしね」


 ナシーフが酷くがっかりした顔を見せる。


「それなら俺が作るよ」

「私も手伝おう。これから世話になるからな、できるだけ手伝いたい」


 ラーナが殊勝なことを言う。

 王女様が料理なんてしたことないだろうに。


「リーク、感謝するぞ」


 ナシーフはよっぽどお腹が減っていたんだな。

 俺はラーナと共に台所へ向かった。



―――



 さて何を作ろうか。

 大量のエダズ村産キャベツと豚肉、それに小麦粉……。

 おっ、にんにくもあるな。

 餃子が作れるな。

 思いついたら食べたくなってきた。

 嗚呼餃子食べたい。凄く餃子食べたい。

 いや待て醤油がない。

 何この世界、醤油がないってどういうことなの。


「くそっ……醤油さえあれば…………!!」

「あるぞ」

「醤油さえあれば餃子が食えるのに!」

「だからあるってば」

「醤油なしで餃子か……。塩があれば食えないことはないだろうが……、いやしかし……。」

「話を聞けッ!!」


 ラーナが魔力を発し怒鳴る。


 うおっまぶしっ。


 光耐性×の俺は軽く魂消失(ロスト)しそうになるが、辛うじてこの世に留まる。


「きゅ、きゅうに怒鳴らないでくれよ。あと光はやめて、成仏しちゃう」

「す、すまん。それで醤油だがあるぞ。私の国から持ってきた。食の好みが合わなかったら大変だからな」

「な、なんだと……!?」


 バカな、どう見ても金髪の西洋美人であるラーナがなぜそんな物を。


「なぜ醤油があるんだ……?」

「なぜと聞かれても困る。あるからあるのだが」


 そうか、そういうことか。

 運命は醤油をラーナという天使に託し、俺によこしたか。

 だがこれで餃子が食える。

 それだけじゃない、醤油があればなんだって出来る。


「ありがとうラーナ! 君のおかげで俺の食生活がスゴすばらしいものになりそうだ!」

「そ、そうか。よかったな」

「じゃあさっそくこの野菜どもをみじん切りにしてやってくれ!」

「わ、わかった」


 俺のハイテンションに押されるようにして、ラーナはキャベツを切り始めた。

 俺は小麦粉をこね、皮をつくる。

 指を切ったりしないかチラチラとラーナの様子を伺うが、問題はないようだ。というよりとても手馴れている。


「包丁の扱いが上手いんだな」

「ああ、刃物なら任せろ。それにこの包丁は良く切れるな」

「定期的に俺が研いでるからな」

「良い心がけだ」


 そんなこんなで餃子を作った。

 ラーナは餃子を包むのに最初は苦戦していたが、すぐにコツを掴んだようで綺麗に包めるようになっていた。

 俺が包んだものは水餃子に、ラーナが包んだものは焼き餃子にした。

 焼き餃子なら最悪皮が破れても問題ない。

 餃子を沢山食べたかったので、餃子しか作っていない。

 しかし大量に作った。

 その数200個だ。

 これなら全員満腹になるだろう。


「ご飯できたぞー」


 俺の声にみんなが集まってくる。


「あら、新作?」

「そうだ、餃子と言う。この、ラーナが持ってきた醤油をつけて食べてくれ」

「うむ、戴こう」

「いただきまぁす」


 ラーナが持ってきた醤油の甲斐もあり、餃子は非常に好評だった。

 特にナシーフが気に入ったようで、沢山食べていた。

 アロンザさんとロージーは焼き餃子より水餃子の方が好きらしい。ラーナは焼き餃子の方を多く食べていた。



―――



 次の日。

 俺は木をぶつけ合う音で目を覚ました。

 何事かと思い、窓から外を見るとナシーフとラーナが打ち合っていた。

 ふんどし一丁のナシーフと、タンクトップにタイトなスカートのラーナ。

 暑苦しい筋肉蜥蜴と麗しい金髪美女。

 見事な対比だなと思いながら庭へ出る。


 庭へ出ると、アロンザさんとロージーも二人の打ち合いも観戦していた。


「おはようございます」

「おはよう、あの子凄いわね」

「そうですね。ここへ帰る途中に賊に襲われたんですが、10人くらい相手にして圧勝だったみたいです」


 こうしてアロンザさんと会話している間も、ラーナはナシーフに対して木剣で鋭く切り込んでいる。

 俺の目には全く互角に見える。

 一方ロージーはキラキラした目で観戦している。完全に魅入ってるな。


「そこらの魔物10人じゃ止められないでしょうね。この国に彼女とまともに戦えるのが何人いることやら」

「俺にはナシーフと互角に見えます」

「力と戦闘経験はナシーフが上ね。今もラーナの剣をあえて受けてる。でも、魔力量はラーナの圧勝だわ。今のところはナシーフが勝ってるけど、すぐに抜かれるでしょうね」

「すぐってどれくらいですか?」

「数年、或いは数ヶ月かしらね」

「アロンザさんとラーナだとどっちが強いですか?」


 俺から見るとみんな強そうに見えてしまう。

 ナシーフとアロンザさんも同じくらい強そうに見えているが、領主になった経緯を考えればナシーフの方が強そうに思える。


「んー、条件にもよるでしょうけど、1対1ならラーナが勝つと思うわ」

「まじですか」

「まじよ」


 アロンザさんが謙遜しているのかもしれないが、純粋に戦闘スタイルの問題もあるのだろう。


 ナシーフがラーナの木剣をするりとかわし、木の棒を突きつける。

 どうやら勝負がついたようだ。


「よくその若さでここまで練り上げたものだ」

「他にすることもなかったし、必要にせまられたからな。でもナシーフには届かなかった」

「俺などすぐに超えるだろう」


 ひたすら鍛錬に身を捧げてきた二人には何か通じるものがあったのだろう。

 二人とも良い顔で話をしている。


「もう一戦頼めるか?」

「もちろんだ」


 ナシーフの返事を聞き、ラーナが木剣を振るう。


「さてリーク、貴方も少しは鍛えないとね。魔王様から戴いた大鎌も扱えるようにならないといけないでしょう」


 アロンザさんが笑顔で言う。

 笑顔だけどなんか怖い。

 だがこの申し出はありがたい。

 たった4人の獣人に苦戦した俺は、明らかにこのメンバーの中で飛びぬけて弱い。足りない力量は頭一つ分や二つ分ではすまないだろう。

 また虫のような事件が起こるかもしれないし、ラーナが狙われることもあるかもしれない。

 少しでも強くなるに越したことは無い。


「お願いします。でも俺が魔王様から戴いたのは大鎌だけじゃないですよ」

「へぇ、楽しみね」


 俺とアロンザさんはナシーフたちから少し離れたところに移動した。

 俺は大鎌を構える。


「武器は木製のものにしなくていいんですか?」

「木製の鎌なんてないしね。その独特の形の得物をどう振るうか、考えながら戦うのよ」


 言いながらアロンザさんが構える。

 相変わらずアロンザさんは短剣一本だ。

 短剣一本でこの大鎌をいなすことなどそうそうできないはず。

 俺は大きく足を踏み出し、アロンザさんに切りかかる。

 

 触手くんはまだ使わない、アロンザさんがまだ知らないはずの触手くんは不意打ちに使う。

 訓練なのに不意打ちってどうなんだろうな、とは思うが俺はやる男だ。


 ぬるりと俺の攻撃を回避したアロンザさんはそのまま俺の背後に回る。

 そのまま俺の首を捕えようとするアロンザさんに、俺は背中から触手くんを生やし応戦する。

 数は6本。

 

 制御が甘くならず出せる最高の本数。

 アロンザさんとの1対1だから、猫耳のときのようなことにはならないだろう。


「リーク……、アンデッドがその触手は見た目が最悪よ……」


 後ろに退き、げんなりした様子でアロンザさんが言う。

 くっ、俺と魔王様のセンスはアロンザさんにも理解されないのか。


 理解されぬ慟哭をのせ、俺は触手くんを繰り出す。

 アロンザさんは低い姿勢で触手を潜り抜け、そのまま俺に迫る。

 咄嗟に大鎌を構えるが、既にアロンザさんは懐にいた。

 喉元に短剣を突きつけられる。


「おしまい。0点ね」

「はい……もうしわけありません……」


 俺は申し訳ない気持ちで一杯になったが、アロンザさんは何度も付き合って助言をくれた。

 途中から俺とアロンザさんが訓練しているのに気づいたロージーも混ざった。

 コルラートさんから手に入れたというハンマーを笑顔で振り回すロージーがちょっと怖い。

 とても重そうなのに、ロージーは勢いよくぶん回している。


「そろそろ終わりにしましょうか」


 気づけばお昼近くになっていた。

 ナシーフとラーナも訓練を切り上げたようで、こちらに近寄ってきた。


「やはり汗をかくのはいいものだ」

「まったくだ」


 ナシーフとラーナが暑苦しいことを言う。

 ナシーフの筋肉が汗でテカテカしている。勘弁してください。

 一方、ラーナも汗を大量にかいている。大量の汗でタンクトップが体に張り付き、体のラインを強調している。

 昨日は甲冑を着ていたためわからなかったが、ラーナの胸は大きい。アロンザさん程ではないが。

 二つの丘を見て、俺のハートからは湧き上がるものがあるのだが、体は全く反応してくれない。


「なんかリークさんの視線がやらしいです」


 ロージーに気づかれた。

 なぜだ。俺には眼球などないのに、なぜ俺の視線が読めたのだ。


「えっ? ああっ」


 ロージーの言葉に自分の状態に気づいたラーナが声を上げる。


「す、すまない、まわりに人間がいなかったから油断していた」


 顔を赤らめながら言うラーナに、俺のハートのボルテージは上がる。悔しい、でも体は反応しない。


「アンデッドにもエロスはあるのね……。気をつけないといけないわね、ロージーもラーナも」


 遠い目でアロンザさんが言う。

 

 ナシーフだって男のはずなのに、なぜ俺だけがエロいことになっているのだ。

 ま、まさか……。

 俺の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。

 ナシーフと付き合いの長いアロンザさんが、あえてナシーフのエロについて言及しないということは……。

 もしかしてナシーフは男色家なのか!?

 いや、俺はそういったことには寛大な性質だ。

 例えナシーフが男色家だとしても、今まで通りに振舞おう。

 想いの矛先が俺に向かない限りだが。いくら女性に対して反応できない体だとしても、男性に行くことは俺の魂が拒絶している。

 固く決心する俺をよそに、ナシーフは井戸から水を汲み上げて、水浴びをはじめていた。


「違うわ、そういうことじゃないのよリーク……」


 アロンザさんが同情するような視線をこちらに向ける。

 声に出していないのに俺の考えが読まれたのか!?


「視線がやらしーかやらしくないかの違いですよ~」


 そうだったのか!!

 ロージーの言葉に衝撃を受ける俺。

 でもなんで二人とも俺の思考を読んでるんだ。


「さっ、この変態エロリッチは放っておいて行きましょ」

「そうですね~」

「そうだな」


 去っていく3人の後姿を、俺はただ見送ることしかできなかった。


「リーク、お前もどうだ。気持ちいいぞ」


 そんな俺に対して、ナシーフだけが優しかった。ぐすん。

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