第二十六話
「本当にありがとうございました」
「お礼を言うのはこちらの方です。貴方がたのおかげで私は助かったのですから」
「ま、乗りかかった船だしな。薬の代金も受け取ってるし、俺は礼を言われることはしてねえ。アフターサービスも商売のうちだ」
荷車でアルラウネの本体である蒼い大きな薔薇をナシーフの館に運び込んだ。
ゴブノ介君の父親と薬師の協力によりなんとかなった。ゴブリンやオークは見た目と違って親切な人が多いようだ。少なくとも俺が出会ってきた人たちはとても気分の良い人たちだ。
「それじゃあ、またなんかあったらいつでも声をかけてくれ」
そう言って薬師とゴブノ介君の父親は村に帰っていった。
「いい人たちでしたね」
「ああ。俺は生まれたばかりだが、良い人にしか会ったことがないよ」
本当に心からそう思う。
ナシーフやアロンザさんと会うのも久しぶりだ。俺はこの二人のおかげで生活に基盤ができた。恩人とも言うべき二人。
その恩人二人にこの少女のことをどう説明しようか。
そんなことを考えながら館の扉を開けようとすると――
扉が勢いよく開いた。
扉が俺の頭に勢いよくぶつかる。
痛い。結構痛い。この世界に生まれてから3番目くらいに痛い。
開いた扉からアロンザさんが出てくる。
「おかえりなさいリーク! 薬師からかわいい女の子をクスリで手篭めにしたと聞いたわ!」
やたらとテンションの高いアロンザさんがアルラウネの少女を補足すると、「あなたね!」と嬉しそうに言って館の中へ連れて行った。
俺は扉の影で悶絶していたのだが、アロンザさんの目には一切入っていなかったようだ。
あ、扉が閉まった。
えー……。
ドアノブを捻り、一人執務室に向かう。
ナシーフが外で訓練していないのなら、恐らく執務室にいるのだろう。
執務室のドアをノックする。
「リークか? 入っていいぞ」
ナシーフの声が聞こえる。ナシーフは俺の帰還をきっと喜んでくれるだろう。そんな期待を胸に秘めながらドアを開ける。
「ただいま戻りました」
「よく戻った。ゴブリンの父親を助け、アルラウネの少女も救ったそうだな」
よかった。アロンザさんが変なことを口にしていたから、てっきり薬師が悪意のある情報伝達を試みたのかと思った。
ナシーフも若干勘違いしているように見えるがおいおい説明すればいいだろう。
「アルラウネの少女に救われたのは俺のほうですけどね。それとアルラウネの少女に使った薬のお金なんですが……」
薬師から話はいっているはずだ。アルラウネの少女に使ったあの薬。感じられた魔力の量から高価なものである可能性が高い。
「問題ない。その分は体で払ってもらうさ」
ナシーフがにっと笑う。
またナシーフに恩ができてしまった。頑張って恩を返さないとな。
そう俺は心に決めた――その時
「いけないわっ! 犯罪の臭いがプンプンするわっ!」
執務室のドアを勢いよく開け入ってきたアロンザさん。
「いたいけな少女に体で払わせるなんて! 見損なったわナシーフ! リークはアンデッドだから性根が腐っていてもしょうがないけど……ナシーフまで!」
アロンザさんの手を引っ張り、「違うんですってば」と何かを訴えているアルラウネの少女。
「すまないリーク。仕事続きで、普段使ってない頭が茹だってしまったみたいでな」
「ああ、なるほど」
結局、アロンザさんの誤解を解くのにその日は使われた。