表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リッチな俺と魔物の国  作者: よしむ
第三章 ぶるーろーず
26/40

第二十五話

「名前は考えたか?」


 俺の顔を見るなり薬師は言う。


「そんなにすぐに考えつくかよ」

「それは困るな。さっさと考えておけと言ったのに」


 このオークのおっさんは何が言いたいのか。ニヤニヤ笑いやがって。


「で、何の用なんだよ。俺にはもう用なんてない」

「リッチってのはみんなこんなに鈍いのか? ホラ」


 薬師のおっさんが何かを投げる。

 何かの液体が入った瓶のようだ。


「なんだコレは?」

「アルラウネの本体の根にかけてこい。数十年かかるもんが数時間になる」

「あ?」


 薬師が何を言っているのかわからなかった。


「だからそれを使えばアルラウネの女をな、生き返す……ってのは少し違うな。回復させる? うーむ、蘇らせるも違うか。何にせよそれをぶっかければ戻って来るんだよ!」

「なん……だと……?」

「薬ってのは凄いだろ? だけどその薬はなかなか高いんだ。領主に請求させてもらうぜ」

「おっさんありがとう。お礼は戻ってきたら必ず」

「ああ、領主の方には俺から伝えておく。戻ってきたらそのアルラウネのねーちゃんを俺に紹介してくれな」


 薬師のおっさんの話を最後まで聞かず、俺は家を飛び出した。

 ルンヴァルトの森、あの少女と出会ったあの場所へ向かう。



―――



 森の中にあって、開けた場所。

 あの場所には変わらず大きな蒼い薔薇が咲き誇っていた。はじめてここに来たときと同じ、月明かりの中、俺は薔薇に近づいた。

 その薔薇からは彼女の魔力を感じる。


「たしか本体の根にかけるんだったな」


 確かめるように呟き、俺は薔薇の下を探る。地面にしっかりと根を張っているようだ。

 瓶の蓋を取り、根や地面に液体をかける。液体なのにも関わらず膨大な魔力を感じる。実はこの薬って凄いものなのか。高価なものだったらスマン!ナシーフ!

 液体が土や根に浸透していく。魔力の動きでわかる。

 薔薇の葉が呼吸をしている。

 吸い上げられていく魔力は薔薇の中心に集まり、形を成していく。新たな存在がその場に発現しつつある。

 彼女だ。俺にはわかる。

 少しずつ形を成していく彼女を、俺はじっと待った。

 数十年かかる過程を数時間に濃縮した光景は幻想的で美しかった。



「あれ? リークさん? 私が産まれるまでずっと待ってたんですか? あ、あれ? なんで私記憶?」


 彼女が形を成し、しばらくして彼女は目を開けた。

 目を開け、俺を見た彼女は混乱しているようだ。


「オークの薬師が君に効く薬をくれたんだ。だから君があの枝を俺に渡してから1日しか経ってないよ」

「そ、そんなのあるんですか。知らなかった……」


 失われるはずだった記憶があるのはなぜかなのか。そんなことはどうでもいい、きっとあの薬のおかげなんだろう。


「約束より早くなったが、一緒に来てくれるか?」

「も、もちろんです!」


 戸惑いながらも微笑む彼女。


「あ、そういえば私の名前は考えてくれました?」


 そして痛い質問をぶつけてくる。まだ決めてない。


「ごめん、まだだ……」


 薬師に薬を渡されてからは夢中だった。名前のことなどすっかり忘れていた。あれだけ薬師に言われていたのに。


「フフっ。まったく、仕方のない人ですね」

「面目ない……」

「ま、薬に免じて許してあげましょう。それより重大な問題があります」

「なんだ?」

「私の本体のこの薔薇も一緒でないと、私はこの森を出られません」


 大問題じゃないかこれは。


「そ、それはなんとかなるよ、多分」


 そう呟いたが自信はない。とりあえずあの薬師に相談しよう。ここまで関わったのだから最後まで面倒みてもらおう。


 再開を喜ぶ暇もなく、俺は薬師のところに戻った。

 熱も下がり元気になったゴブノ介君の父親や、ゴブノ介君、それに薬師たちの協力を得た俺は、なんとか彼女の本体である蒼い薔薇を運び出すことに成功した。

 具体的にはゴブノ介家の荷車を借り、みんなで引っ張ってきたのだ。

 そんなことをしていた為、ナシーフたちの元へ返れたのは更に一週間後のことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ