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リッチな俺と魔物の国  作者: よしむ
第三章 ぶるーろーず
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第二十三話

 見つからない。やはりこの森にはユッタ草はないのだろうか。ナシーフが提示した一週間という期限が、明日に迫っていた。


「見つかりませんね」


 俺の焦りがアルラウネの少女に伝わったのか、彼女が声をかけてくる。


「そうだな。明日までに見つからないようなら、俺は一旦報告しに戻らなければならない」

「その場合、ユッタ草の探索は……?」

「打ち切りだろうな。たった一人の領民のために、そこまで労力は裂けないだろう」


 ナシーフがどう言うかはわからないが、恐らくユッタ草探索は諦めることになるだろう。なにせ一週間かけて掴んだ手がかりは、この森のユッタ草は絶滅したらしいという彼女の言葉だけだ。

 俺の言葉を聞いた少女の瞳に、悲しみの色が宿る。


「それはつまり、ゴブリンのお父さんを見捨てると?」

「そういうことになる」


 俺だってそんなことは望んでいないが、領民は沢山いる。一人の領民のためにこれだけ長期間部下を行動させてるだけでも、ナシーフは相当無理をしている。ただでさえ慢性的は人手不足だと言うのに。


「ゴブリンのお父さんは熱を出して倒れたんですよね?」

「そうだけど……それがどうかしたか?」

「必ず効くという保障はありませんが、確実に手に入る薬草があります」

「本当か? それならその薬草をまず採取しておこう」

「生えている場所はわかっていますので、期限一杯までユッタ草を探しましょう」

「ああ、そうだな。それとさ、もしよかったら……」

「はい?」

「この森を出て、俺と来ないか? 今、俺はこの国の領主様のところで世話になっているんだけど、きっと歓迎してくれる」


 ナシーフやアロンザさんならきっと歓迎してくれるだろう。アロンザさんはきっと俺を色々とからかうだろうけど。

 この森でずっと一人きりで暮らすより、みんなと暮らした方がきっと楽しいはずだ。名前が必要ないなんて、こんなに悲しいことはない。


「あ、ありがとう……ございます」


 彼女は泣いていた。この涙はきっと嬉しくて泣いているのだろう。後はユッタ草さえ見つかれば一件落着だ。もし見つからなくても、彼女の言う薬草があればゴブリンのお父さんも治るかもしれない。

 本当に彼女と出会えてよかった。彼女がいなかったら、俺はこの森で何もできなかったかもしれないのだから。



―――



 そして期限の日は来た。

 結局ユッタ草は見つからなかった。彼女が言う通り、この森のユッタ草は全て枯れてしまったのだろう。


「時間切れだな。昨日言ってた、効果があるかもしれない薬草まで案内してくれるか?」

「案内する必要はありません」

「ん? どういうことだ?」

「私はマンドラゴラの一種です。マンドラゴラは強力な魔法薬の材料になります。効用は――リークさんも知っているはずです」


 たしか催淫、麻酔、鎮痛、それに……解熱。


「そ、それはつまり、君の身体の一部を使って薬を作れば良いってことか?」


 嫌な予感がする。彼女の魔力が、彼女の体の中心に集まっていっている。


「それで済めば私は襲われたりしなくて済みますよ」


 彼女は泣いているように笑っている。


「受け取ってください」


 彼女の手の中に魔力が集中し、そこに若木の枝が現れる。

 彼女の魔力は全てその若木に注がれてしまっている。


「こ、こんなの受け取れるわけないだろ!」

「大丈夫です。私の本体は、あの大きな蒼い薔薇です。また、時間がたてば私は生まれますから……。私は死ぬわけじゃないから平気です」

「じゃあなんでそんな顔してんだよ!」


 彼女と出会ってから見た顔で、一番哀しそうな顔をしている。


「たぶん……リークさんと過ごした一週間を忘れてしまうから……」


 その言葉に胸が痛む。


「……何か俺にできることはあるか?」

「私が私という存在を取り戻すまで、数十年か、もしかしたら百年近くかかってしまうかもしれません。もし、百年経っても私のことを覚えてたら……また会いに来てください。そしてその時、たっぷり時間をかけて考えた名前を下さい」

「そんなことでいいのか?」

「はい」


 たった百年か。不老の俺にはそんな時間あっという間だ。

 彼女の存在が、少しずつぼやけていく。魔力が枯渇し、この世界に存在を維持できなくなってきている。


「絶対会いに来るからな。お前が忘れてても、無理やりこの森から連れ出すからな」

「ハイ、待ってます――」


 その言葉を最後に、彼女の存在は消えた。

 彼女は最後、泣いていたのだろうか。それとも笑っていたのだろうか。

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