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リッチな俺と魔物の国  作者: よしむ
第三章 ぶるーろーず
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第十九話

 ゾンビ騒動から一週間たった。俺たちが館に戻った後、本国からの援軍が村の周囲を捜索したがゾンビは発見されなかったそうだ。

 ナシーフも館に戻り、以前のような生活に戻りつつある。違う点と言えば、ナシーフもアロンザさんも仕事をしているという点だろうか。さすがにやることが多く、俺だけに任せておくわけにもいかないらしい。いや普段から仕事しようよ。


 そして俺は今、台所に立っている。アロンザさんとの約束を果たすために。

 至高の卵料理――卵料理は東西を問わず様々な調理法がある。その中でも今回俺が作ろうとしているのは、江戸時代より伝わる伝統の卵料理“たまごふわふわ”である。

 “たまごふわふわ”を作る上で最大の問題は、俺が知る限りこの世界には醤油や昆布・かつおだしが無いことだ。だが、そこは卵。多分洋風な味付けでも大丈夫だろう。卵は万能だからな。

 この一週間、練習を重ねることで納得のいく出来になったため、遂にアロンザさんに振舞うことを決めたのだ。丁度ナシーフも帰ってきたためタイミングも良い。

 まずコンソメスープを作る。簡単に言うが、“たまごふわふわ”本体より大変だった。俺の記憶では“スープの素”というマジックアイテムにより生成するものであったはずだが、この世界には存在していないらしい。俺の記憶はとても文明が進んだ世界の記憶なのかもしれない。ともあれ試行錯誤の末、まあ飲める味にはなった。

 次に、スープを“ワンカップ”ほど鍋に投入する。だがここでも問題が発生する。“ワンカップ”がどれくらいかわからない。なのでこれまた試行錯誤を繰り返した。とにかくスープを鍋で煮立たせ、卵を溶いたものを投入、蓋をして蒸らすという手順だ。

 これだけでは食卓が寂しいので、じゃがいもを揚げた物をつける。“フライドポテイト”だ。この世界では、じゃがいもを揚げる際、四つ切か半分に切って揚げるのが一般的らしいが、俺の記憶では細長く切ったものが多かったように思う。なので、今回は細切りにしてみた。


 作った料理を食卓に並べ、ナシーフとアロンザさんを呼ぶ。


「え、えたいの知れないもんがおる……」


 “たまごふわふわ”を見たアロンザさんは戸惑いを隠せない。ナシーフも眉間に皺を寄せている。

 食卓に着き、恐る恐るアロンザさんは口に運ぶ。ナシーフは淡々と口に運ぶ。


「なんちゅうもんを……なんちゅうもんを食わせてくれたんや……」


 一口食べたアロンザさんは、変な演技を交えつつ呟く。ナシーフは淡々と口に運んでいる。


「こんな料理どこで覚えたの? 金の卵をついに見つけたわ。誰にも渡さないよ。これさえあれば大金持ちだよ!」


 なんかちょっとアロンザさんのテンションが怖い。このまま崖の下の海にダイブしそうな勢いだ。変わらずナシーフは淡々と口に運んでいる。


「いやーなんか俺の頭の中に変な記憶があって」

「あれ? 貴方何も思い出せないとかって言ってなかったっけ?」

「なんか時々、ふっと記憶が蘇ることがあって。どうやらこの世界の記憶じゃないっぽいんですけどね」

「ふーん、変わったこともあるのねぇ」


 結構衝撃的なことを言ったつもりだが、アロンザさんは軽く流した。ナシーフは“たまごふわふわ”を食べ終わり、“フライドポテイト”を食べ始めている。


「え、それだけなんですか!? 別世界の記憶とかアレじゃないですか! 重要っぽいじゃないですか!」

「違うわリーク。重要なのは、この料理が美味しいってことよ。しかも今までにないインパクトを持っている。これなら領地がなくなっても商売ができる。もう職を失うことを恐れなくても大丈夫だわ!」

「うまかったぞ」


 美味しかったのなら、それはよかった。珍しく俺の記憶が役に立ったようだ。

 でも別世界とかはそれでいいのか。あっさりしすぎじゃないだろうか。この知識を使って、世界を平和にしたりなんかするのが俺の使命とかじゃないのか。


「リーク。また新しい料理を思い出したら、すぐに作りなさい」

「うむ、人生を一大事と考えるなら、それを支える三食の食事もまた一大事だ」


 俺の異世界の記憶は、世界平和のためじゃなくアロンザさんとナシーフの美食への追求のために使われるらしい。下手に進んだ技術を伝えて、それが元で世界が混乱するよりよっぽどいいのかもしれないが。

 そうと決まれば降りて来い!美味しい料理の記憶よ!!


「このじゃがいももサクサクしてておいしいわね」

「うむ、止まらぬ」


 “フライドポテイト”も美味しいのだが、何か足らない気がする。なんかこう、何かつけたりしていたような気がするのだが、これだけで食べていたような気もする。うーん、もやもやする。


「ふぅ、お腹一杯だわ」

「うむ、満足だ」


 思考に溺れていた俺は、二人の満足そうな言葉で現実に引き戻された。あれ、俺の分の“フライドポテイト”がない。酷い。あんまりだ。


 そんな日常の一幕を、館に響くノックが終わらせた。

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