第十八話
ナシーフたちが休んでいる間は特に何事もなかった。虫たちの死骸が動き出し、襲い掛かってくるのではないだろうかと少しだけ危惧していたのだが。
それにしても虫たちの死骸が大量に散乱し、死臭の満ちた地下でよく眠れるものだ。
そんなことを考えながら俺は右腕を復元させる。魔力でできた身体だから魔力で修復できるらしい。素晴らしい身体だな。どこまで破損したら修復できなくなるのか知りたいが、試したら修復できないのでやめておく。
腕一本復元するのに数時間を要した。出来上がってすぐにアロンザさんがモゾモゾと起きてくる。
「うう……肌が擦れていたい。……あらら、もう腕つくっちゃったの。便利だわあ、次からはリークに前衛を任せよう」
「だったらかっちょいい武器が必要です!」
「それはナシーフに頼んでね」
猫のように伸びをしながらアロンザさんは流す。ナシーフも目を覚ましたようだ。
「よくこんなところで熟睡できるもんだな」
苦笑しながら俺が漏らすと、「我々は生理的に虫が好きだからな」と返された。爬虫類だからか。
軽い食事(虫ではなくもってきた食料)を済ませ、地上に出ると既に太陽が爛々と輝いていた。アンデッドなのに太陽がありがたい。
長時間地下にいたせいで時間の感覚がおかしなことになっているが、どうやら今は午後を回っているらしい。広場の周囲にゾンビはいない。
「ボスがやられてゾンビが全滅してるとかゆーご都合展開希望」
アロンザさんが気だるそうに言う。俺もぜひその展開を望みたい。俺やアロンザさんは特に負傷したわけでもないが、ナシーフは火傷が酷い。あまり戦闘に参加させたくはないのだが。
「ありゃあ……」
「むう……」
ゾンビを探し始めて、すぐに異常事態に気づいた。ゾンビが大砲か何かで吹き飛ばされたようにして倒されている。それも一体や二体ではない。
「更に斜め上を行く展開のようね……、これはマイマイさんの仕業か……」
「そうだな」
「マイマイさん?」
聞き覚えのない名前だ。かわいい名前だが、マイマイってカタツムリだよな。
「私の知る限り最強の生物よ。マイマイさんが来たのならもう大丈夫でしょう。村人を集めて安全になったことを伝えましょう」
釈然としないがそういうことらしい。それらしい魔力は感じなかったのだが。
ナシーフには広場で待機してもらい、俺とアロンザさんで一人一人村人たちに声をかけていった。俺が魔力を感知し、アロンザさんが声をかける。俺一人で行くと村人が怖がってしまう可能性が高い。
広場に住民を集め、地下の虫を滅ぼしたこと、ゾンビを掃討したことを伝えた。まだゾンビが残っている可能性もあるので、念のため警戒はするよう伝える。
危機は去ったがこの村はこれからが大変だろう。広場に集まった住民たちは、子供か老人ばかりであった。虫の討伐に若者たちが向かい、死んでしまったのだ。働き手のいなくなったこの村をどうするか考えねばならない。
俺とアロンザさんは一旦館に戻ることになった。別の問題が発生することも考えられるため、長期間屋敷を留守にするのは危険だ。そもそも留守にしているのが問題のような気もするが。
ナシーフは村に残り、今後の対応を練ることになる。本国からの援軍に対しても状況を説明せねばならない。
こうして虫たちとの戦いは幕を閉じた。
だがやることは山積みだ。まずはアロンザさんに至高の卵料理を振舞わなければならない。