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リッチな俺と魔物の国  作者: よしむ
第二章 ぞんびーぱにっく
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第十四話

 蚊取り線香。俺の役に立たない何かの記憶に刻まれた便利道具。これに火を着けると、芳しい香りと共に周囲の蚊を撃滅できるという素晴らしい道具。

 アロンザさんは俺にこの蚊取り線香役をやらせようと言うのだ。魔力を意図的に垂れ流し、周囲の虫を殲滅――はできなくとも動けなくする。動けない虫をプチプチと潰しつつ巣の中を進み、最奥部までクーリニングしようと言うのだ。

 俺大活躍じゃないですか!やったー!

 ただし、虫たちがある程度魔に対して抵抗力がある場合、垂れ流す魔力を多くしなければならない。最悪、いくら俺の魔力を浴びせても効果がない可能性もある。その場合は威力偵察という形になるだろう。


 屋根の上に登り、ある程度村の地理を把握していた俺が先導し、村中央を目指す。村中央には広場があり、わかりやすく穴が開いていた。

 穴は人一人が通るには十分な大きさだ。だが、穴は縦穴で、深さは20メートルはありそうだ。地下に広大な空間があるように思われる。


「アロンザさんって空を飛べたりします?」

「しません」


 むぅ、困ったな。こんな所にたまたまロープがあったりすればいいのだろうが。


「こんなこともあろうかと思ってな、ロープを持ってきてある」


 さすがに旅なれた人は違う。ナシーフが持ってきていたロープを使い穴へ降りることにする。順番は俺、ナシーフ、アロンザさんだ。

 俺が最初に行き降下地点を魔力漏らしで安全にする。穴の上からでも援護ができるアロンザさんが最後だ。

 常闇のローブ(今考えた俺の魔力で作ったローブの名前)を消し、魔力を意図的に放出する。先ほどから魔法の矢を何発も撃っているので、俺の身体は魔力が一杯というわけではない。よって、意識的に漏らす必要があるのだ。感覚としてはう○こを出そうと力んでいるような感覚。

 久々に裸になった俺はロープを手に取る。緊張するが手に汗を握れない。俺は汗をかかないからだ。汗をかかないとロープがつるつる滑りそうだけど大丈夫かな、大丈夫だよねきっと。

 言い聞かせるようにして、俺はロープを握り深い闇の中へと降りていく。


 穴は途中で小さくなったりするようなことはなく、今のところ大きさが一定だ。こんなところで身動きが取れなくなったらどうしよう。動けないって最高の拷問になりうるんじゃないか。

 もう飛び降りちゃおうかな、そうすればこの狭いところで詰まって動けないってことはないだろうし。などと考えていたら足が地面に着いた。

 下まで降りてみると、予想以上に広大な空間があった。天井までは3メートルはあろうか。四方は壁が見えない……大量の虫がいるせいで。ゾンビの中にいた虫より随分と大きい。45リットルのゴミ袋には入らないだろう。虫が苦手な人からしたら、まさしく悪夢と呼べる光景だ。そして、俺から5メートルほどの位置では虫が地面に落ちて脚をピクピクと震わせている。

 虫たちが近づいてこないところを見ると、俺の魔力に害があることをわかっているのだろうか。

 とりあえず下手に動かず、周囲を警戒しつつナシーフを待つ。ナシーフとアロンザさんが虫を苦手としていないことを切に願う。


 軽い身のこなしでナシーフが降りてくる。


「随分大量にいるようだな」

「ナシーフはこの暗さでも見えてるのか?」

「いや……見えない。だが気配はわかるさ」


 そう言いながら得物を構える。ナシーフの武器に刻まれた文様が暗闇の中で妖しく、紅く光り――焔を纏う。


「お前の魔力で動けなくなるなら、一匹一匹は大したことはないのだろう。問題は数だな」


 そう、今の段階では数だけが問題に見えるが――最奥から大きい魔力が感じられる。コイツは明らかに俺の魔力に抵抗するだろう。


「奥にボスがいる。コイツは俺の魔力漏らしを耐えるぞ」

「魔力漏らしか。そのままの酷い呼び方だな」


 ナシーフが面白そうに漏らす。ん、そういえば……。


「そういえば俺の名前の由来って何なんだ?」


 聞こうと思っていて忘れていたことを思い出した。


「今それを聞くのか。フッ……ならば生き残ったら教えてやる」


 気取り気味に言うと、アロンザさんが降りてきた。


「うー、ロープががさがさして鱗がいたいわ」


 緊張感のないアロンザさんの声が俺を安心させる。こうして、俺たちの穴ぐらでの長い戦いははじまった――。

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