プロローグ
あの日から、僕の日常は変わり果ててしまった。
僕が信じていた今までの世界は、脆く崩れ去ってしまいもうどこにもない。
受け入れたくはない。しかし、受け入れる他なかった。
僕を愛してくれる人は誰もいなかったんだ。
ずっと、騙していたんだね。
そんな薄っぺらい笑顔で。歯の浮くような、今では悪寒しか感じない言葉で。
こんな……偽物みたいな肌のあたたかさで。
「違いますよ!!」
彼女は強く僕の体を抱きしめた。
「嘘だ」
「嘘なんかじゃありません!!」
彼女が僕の顔を見上げる。瞳には段々と涙が溜まっていき、今にも泣きだしそうな表情をしていた。
「紫音さんにはわかっているはずですよ」
そう。
彼女の言う通りだ。僕は彼女の気持ちを知っている。
「僕は……何のために生きているの?」
ここ最近、ずっとそんなことを考えていた。馬鹿な問いだと思う。それでも彼女は即答してくれた。
「そんなの、決まっています!!」
そこでひとつ息を吸い込み、言葉を吐き出す。
「あなたは愛されるために生まれてきたんです!!」
わかってしまう。皮肉にも、今まで僕を苦しめていたこの『能力』が実証してしまう。
彼女の言葉も、気持ちも、嘘偽りのない真実だ。
「……ち、ちなみに」
さっきまでとは打って変わって彼女は顔を真っ赤にしてぼそりと言った。
僕が彼女を見つめると、彼女は一瞬言葉を詰まらせた。それでも顔をぶんぶんと横に振ってほとんど勢いに任せて、
「私はあなたのことが……………す、好きです」
やっぱり最後は失速気味だった。
そこにいたのは、普通の女の子だった。