乙女と魔法と戦士達①
遅くなりました、すみません
もう一話続きます
「「「……」」」
誰もが無言で、剥き出しの岩がゴツゴツと配置された灰色の岩山を歩いていた。
『戦乙女』と『ナイツ・オブ・マジック』の合同部隊は、誰もが口を開かぬまま、荒れ果てた岩山を探索していた。
富士山よりは細く頂上も尖っているが、標高は四十ぐらいと見ていいだろう。丸くゴツゴツした岩がそこかしこに転がっていて、モンスターの影はない。
誰もが無言なのは、モンスターだらけのこの世界でこうもモンスターの影も形も見かけない状況では一瞬の油断が命取りになる故の集中、ということもあるが、一番は連戦に次ぐ連戦による疲れだろう。
雑魚モンスターでもレベル四十以上で出現するこの世界では、レベルに個々で差があるとはいえそれと同等レベルのプレイヤーもいる。厳しい戦いになるのは当然の結果だった。
いかにトップギルド連合といえど、個々のプレイヤーの強さはピンからキリまである。
故に、疲労が滲んで喋る気力もないのだ。
弱者は不要、と断言する『軍』なら兎も角、今まで戦い生き残ってきた仲間や新入りだが自分達に憧れてくれている仲間を見捨てる訳がなく、両ギルドは助け合いのせいで苦戦を強いられているのだ。そのおかげで死者は零に抑えられているが、自分が弱いと自覚しているプレイヤーにはキツい状況である。
――――エリアボス出現。
「「「……っ!?」」」
どこかどんよりとした空気を発しながら歩いていたプレイヤー達は、突然の警告にバッと顔を上げる。少し焦りが大きく人数が一人多いことに、誰も気付いていない。人数をきちんと聞いていたとしても、二つのギルドメンバーの合計を詳細に覚えている者など稀だろう。
ビシッ、と眼前に聳える標高四十メートル程の細く尖った山が真っ二つ裂けたかと思うと、中から岩の巨人が顔を出した。
細く尖った山の頂上から中腹辺りが真っ二つに裂けて肘から手先までとなり、頭、肩、腰、膝からしたが灰色の岩で出来ている。それ以外は黒く細長い岩で出来ていて、関節もちゃんとある。
「……オオオオォォォォォ……!」
山の巨人――グレイジャイアント・ゴーレムが灰色の岩の塊のような顔から口を開き目のように二つある窪みを赤く光らせると、低く唸るように吼えた。
「「「っ!」」」
いきなり現れたエリアボスにプレイヤー達は険しい表情で各々武器を構えるが、更に驚くべきことが起こった。
周囲に転がっているゴツゴツとした岩が形を変え、モンスターとなったのだ。
茶色い岩が、岩を繋げて出来たような身体の人型モンスター、ロックゴーレムになったのだ。
グレイジャイアント・ゴーレムは全長二十メートル程で、ロックゴーレムは全長二メートル程度だ。
「くっ! 隊列を整えるんだ! 騎士職を前衛に、周囲を囲むように配置!」
『ナイツ・オブ・マジック』のギルドマスター、ジュンヤがいきなり複数の敵が出現したことに呻きながらも指示を出す。
ジュンヤの指示を聞いた騎士職のプレイヤー達は盾を構えて守るように前に出る。
魔法職は円形に並ぶ騎士職の後ろに集まり、襲い来るロックゴーレムに向かって地属性に効果のある森属性を含む、木系魔法を中心に放つ。
「……誰かでかいのを抑えるのヤツが必要だな。俺が行く!」
「私も行くわ」
騎士鎧を纏っているため自らも前衛に立ってロックゴーレムと対峙していたジュンヤが言って、目の前にいるロックゴーレムを盾で押し退けて奥からゆっくり歩いてくるグレイジャイアント・ゴーレムへと駆け出す。
それに続いて魔女風のとんがり帽子とローブを纏い両手に一丁ずつ魔銃を装備した『ナイツ・オブ・マジック』副マスターにしてジュンヤの妻であるメナティアが飛び出した。二丁の魔銃から空気弾と高圧水弾を放ちロックゴーレムの間接を狙って動きを封じる援護も忘れない。
「私も行こう!」
『戦乙女』の前衛主力、左目に眼帯をした黒髪ポニーテールで和服に武者鎧を纏った美少女――千代が、二人の作ったロックゴーレムの包囲網から飛び出した。
「私も行きます!」
三人が通過した包囲網に便乗して、さらに一人、フィオナが駆け抜ける。
「俺が前で受ける! 二人はその隙に攻撃を、メナティアは援護を頼む!」
ジュンヤがいち早くグレイジャイアント・ゴーレムの前に辿り着くと、尖った山の頂上から中腹までが真っ二つになった腕を突くように振るってきた。それを左手を添えるようにして両手で構えた盾と踏ん張りで何とか受け止めたジュンヤが叫ぶ。
「任せて」
すでにジュンヤとの信頼関係は他とは比べ物にならないメナティアは、敵と距離がある位置で二丁の魔銃を構え、連続で腕をジュンヤへと叩き付けようと、振り被っている腕の肩、肘などを狙って撃っている。
「了解した!」
千代はジュンヤの指示を聞いて腰に差した日本刀の柄に手をかけ、左からグレイジャイアント・ゴーレムへと駆けていく。
「分かりました!」
フィオナもジュンヤの指示に従い、千代とは逆の右から駆けていく。
しかし、四人とはいえ主力トッププレイヤーが四人も抜けた残るメンバーは、苦戦を強いられていた。騎士職が何とかロックゴーレムを抑えて、回復は間に合っているのだが、後衛職のMPが減っていたのであまり強い魔法を使えず、援護しないでいると騎士職が押されてしまう可能性があるので厳しい戦いとなっていた。
「――ったく! 祠なんてどこにもねえじゃねえかよ!」
悪態をつくような声が空から降ってきて、ロックゴーレムが五体固まっている地点に金色の炎が落ちてくる。
地属性に効果の薄い火系統でありながら、ロックゴーレムを焼き尽くし、金色の炎が治まる頃には一人の少年が佇んでいた。
黒いロングコートに黒一色の上下の服を着込み、黒く長いマフラーを巻き首元に黒いイタチのような小さい獣がいる、白髪の少年。
現最強のプレイヤー、リューヤである。




