幻想世界の食物連鎖
「……あー」
俺はあまりの気持ち良さに、疲れが声になってしまった。
「……キュー」
アルティも気持ちが良いようで、のんびりと羽を伸ばしていた。
ジズの祠を離れてリヴァイアサンの祠を探していた俺達は、海辺へと向かった。
幻想世界の広大すぎる大地に苦労したが、何とか近場の海辺を見つけ、そこから空中戦を繰り広げながら海沿いに飛んでいると、見つけた。
手足のない竜が祀られている、リヴァイアサンの祠だ。
おそらく、見つける難易度は一番低いのがここなんだろう。
見晴らしも良く遠くからでも見えたりする。
ジズの祠があった底が見えない谷とは大違いだ。
白い砂浜、寄せては返す波、沖に浮かぶ無人島、そして凶悪そうなモンスター。
だが凶悪そうなモンスターがいようと祠の周辺にいれば襲われることはないので、こうしてのんびりしている。
せっかくなのでサングラスとビーチパラソル、白いベンチを用意してバカンス気分だ。
白いベンチに寝転び、海辺を眺めてのんびりしている。
シルヴァはビーチパラソルの下にある日陰で丸くなっているが、フレイはサングラスをかけて俺達と同じようにしている。
「……いやぁ、気持ち良いなぁ。ずっとここでのんびりしてたいくらいだ」
俺は思わず呟く。暑いので黒いシャツに黒いズボンだ。
日陰に入っていると心地よく眠気を誘ってくる。
「キュウッ!」
俺がそんなことを言うと、アルティが小さな手でぺちっと叩いてきた。……やる気出せってか。
「……分かってる。そんなことはしないって」
俺はアルティの頭を撫でて宥めてやる。
「……」
そうやって和んでいると、シルヴァは急に起きて顔を上げて海の方を見る。
「……どうかしたのか?」
アルティもさっきまで頭を撫でられて気持ち良さそうにしていたのに、海を睨み付けるように見ている。
フレイもだ。
「……?」
俺は何が何だか分からなくて同じように海を見てみるが、やっぱり分からない。
どうも警戒しているようなのでモンスターかと思ったが、『索敵』のスキルレベルが最大だとはいえ、沖までは海に近付かないと入らないので、周囲のモンスターを見渡す。
だが、特に警戒するようなモンスターはいない。雑魚ばかりだし、レベルも無限迷宮で戦うのとそう変わらない。むしろ低いくらいだ。
「「「……」」」
よく分からないので、視線を追って海を眺めてみる。
「っ!?」
ここから見た大きさだと少し誤差があるかもしれないが、結構遠そうなのでかなり大きいであろう無人島のすぐ近く、巨大な魚が水面から飛び出した。
見た目はピラニアとかの肉食のように鋭い牙がズラリと並んでいて、およそになるが、体長七メートルはあるだろう。縦の長さは五メートル程だろうか。
銀の肌にギョロリとした大きな目を持つ巨大魚モンスターの名前は、ヴェロピラニア。
そいつが何故水面から飛び出してきたのかは、すぐに分かった。
海の上を飛ぶ、海鳥モンスター、ビッグシーバードを狙ったのだ。
当然一回では満足出来ない体格差なので、二度目があった。
しかし、三度目はなかった。
「っ……!?」
二度目、飛び出してきたヴェロピラニアを、海から這い出てきて捉えたモノがいた。
捉えたモノは触手。
白く遠目からでも分かるぬめり気が陽光に照らされて光り、いくつもの吸盤があり先にいくに従って細くなっていき、その数は十本。
「……イカルゴ、クラーケン……!」
俺はその名を呟く。俺が二番目に倒したエリアボスだ。だがヴェロピラニアを捉え悠々と水面から這い出てくる全貌は、俺の知るそれよりも遥かに大きかった。
獲物を捉え満足気に触手でがんじがらめにすると、海底で食べるのか、静かに海の中へ戻っていった。
しかし、そこで動くモノがあった。
木々が生い茂る、捕食の様があった近くの無人島だ。
「っ……!!?」
無人島は浮上してくると、その正体を現した。
「亀……!?」
俺は驚いてそいつに一番近い生物の名を呟く。
無人島全体が、いや、フジツボや海藻に覆われている部分を含めれば無人島など先端部分でしかなかったのだが、そこが甲羅に当たる。
亀だと分かったのは、甲羅の先端、頭の部分に目とそして口に当たるのだろう切れ目から垂れた白い触手を見て、だ。
……白い触手が見えたのはまあ、イカルゴクラーケンが食われたことを言いたいんだが。
イカルゴクラーケンの大きさは十五メートル程だから、それを丸呑み出来るとなると、全長は百メートル以下六十メートル以上ということになると思う。
「「「……」」」
俺達は全員、呆然とそれを眺めていた。
そんな俺達のことは露知らず、超巨大な亀、島亀というモンスターはむしゃむしゃとイカルゴクラーケンを食べていた。
「「「っ……!!!!???」」」
次に起きたことに、俺達は目を疑い、目玉が飛び出したかと思い、顎が外れたかと思った。
頭から尻尾まで見えていたうちのクリスタと同等の世界四大亀の一体が、丸呑みで食われたのだ。
海面から島亀を囲うように牙が並ぶ口が出てくると、一気に顔、首と飛び出してきて、そのまま丸呑みにした。
……俺達は言葉にならない驚きを持ってそいつを見る。
……り、リヴァイアサン!?
俺は内心で自分の仲間、リヴァアを所々異なる箇所があるものの、ほぼ同じのその姿を見て見当がついた。
『……来ちゃった』
途轍もないスケールの大きさを誇る幻想世界を治める一体が、茶目っぽく呟いた。




