忍者軍団、出撃
……リューヤが幻想世界へ行ってから三日か。
エアリアは幻想世界へと降り立ち、モンスターが集団で縄張りを持っていることを素早く見抜くと、本隊と別働部隊の内本隊を壊滅させ、別働部隊に存在を悟られないように忍者として隠密に徹し、身を隠している。
「……エアリアさん。遠くに黒い塔が見えます。おそらくあれが幻想世界に影響を与えている元凶かと思われます」
木の枝の上に屈むエアリアの下の木の枝に音もなく参上した男の忍者が報告する。
「……そうか」
エアリアは頷く。エアリアが頷いたのを確認した忍者は再び音もなく立ち去った。
「……エアリアはんなぁ。カッコつけとるけど幻想世界に来た時の情けねえ慌てっぷり。アリアはんや他の忍の方が落ち着いてたやん」
エアリアの肩でぐだー、と手足を垂らす茶毛の鼬、鎌鼬のカイが不満そうな声で言った。
「お、おおおお、落ち、落ちっ! 死ぬ、死ぬっ! 落ちるううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
その時、リューヤと同じように幻想世界の空へと入ったエアリア達SASUKEのメンバーの内、最もみっともなく喚いたのが普段は日常生活でも隙を見せないといわれるエアリアだった。
上記はその時の叫びを一部抜粋したモノ。
「ふふっ。可愛かったですよ、エアリア様」
エアリアの彼女兼SASUKEの副マスター、アリアがころころと笑って茶化す。それにエアリアは顔を真っ赤にして黙り込んだ。
「え、エアリア様!」
寡黙で腕の立つエアリアを尊敬して入った十六歳の少年忍者が慌てた様子で盛大に音を立てて木の枝に現れたーーもとい落ちてきた。
「……大丈夫か?」
受け身もとらず顔面から木の枝に突っ込む形で落ちてきた少年忍者に、エアリアは身を引きつつも尋ねた。
「……す、すいません! えっと、報告があります! 影齋先輩と周囲の巡回をしていたところ、黒い不吉な集団を発見しました! 先輩は今も尾行を続けていますが、一人で戦うと危険だということです!」
少年忍者はガバッと顔を上げて謝ると、口早に報告を行った。
「……そうか。すぐに向かおう。案内してくれ」
「はい!」
エアリアが険しい表情で即決したことで少年忍者も表情を引き締めた。
「各自周囲の敵に注意しながら一定の間隔を空けて移動! 必ず二人以上で行動するのを忘れるな!」
エアリアはそう言うと、すぐに木の枝と枝を跳躍して渡っていく。
かなり速度を出していながら、葉一枚すら揺らさない。
集団で移動するため、僅かに葉を散らし枝を揺らしたが、風だと勘違いしてしまう程度のモノだ。
「……」
間もなく尾行を続けているという忍者、影齋という名のプレイヤーの下へ辿り着く。
「……あれです」
影齋という右目に縦一文字の傷が入った忍者は、近くの枝に屈むエアリアに顎で相手を指した。
まさしく黒の集団。
二十人程いるが、黒いローブを着込んでいる。僅かに見える足元の黒。
一人だけ、黒い鎧を纏った別格と思わせる者がいた。
その黒ずくめの姿は、ある人物を彷彿とさせた。
エアリアが最も信頼を置くプレイヤーの一人で、服装とは対照的な白髪が特徴の少年。
それはエアリアの心に怒りを生んだ。
「……名前なし。NPCか。だがそこらのモンスターでは相手にならない程の強さ、か。敵は視認十七。他の気配はないが、別動隊があるかもしれない。影齋にはそちらを任せる。五人程連れて行け。俺達でヤツらを倒す」
「……いいんですか? 話を聞くとかしなくて」
エアリアの隣に佇むアリアが聞いた。
「……いや、いい。どうせ塔と何か関係があるんだろう。黒の塔へ向かえばいずれ正体も分かる」
エアリアは頭を振って言った。
「……では俺はこれで」
四人に声をかけた影齋が言って、素早く空気に溶け込む。
「……いくぞ。俺が先行する。続け!」
「燃えてきたなぁ!」
木の枝から真っ直ぐに黒の集団に突っ込むエアリアの隣を、相棒のカイがいく。
アリア達他のメンバーも遅れながら突っ込んでいく。
「……」
完全に背後を取っていたエアリア達だが、先行する二人が近付くと、首だけで後ろを向いた。
「なっ……!? チッ、突っ込め!」
エアリアは驚いて舌打ちするが、構わず突撃した。
「……生物の感じがせえへん! 死なせても油断せんときいや!」
カイが野生の勘を働かせて忠告し、流れるように黒の集団の間を抜けていき、数瞬遅れて首が落ちる。
だが、首が切り落とされ、粒子となって空に消えていっても、黒の集団は動いている。
その代わりHPはガクンと減ってすでに半分程度だが。
「……あの騎士風は俺がやる。黒ずくめは、ゲーム内で一人で充分だ」
エアリアが闘志をみなぎらせて吐き捨てるように言い、黒騎士に向かって襲いかかった。
相性でいえば、エアリアは不利だった。
エアリアだけでなく、SASUKE全員が、だが、胸当てなら兎も角、黒騎士のような全身甲冑が相手では、かなりキツい。
忍者や暗殺者などの職業は、素早く急所を突くことを得意とする。
……相手が他のそういう職業なら、苦戦を強いられただろう。
だがエアリアは見ている。
「……すまんな」
甲冑を着た相手の四肢を切り落とす所作を。
「……勝負は一瞬で決めるのが忍者だ」
交差は一瞬。
エアリアが突っ込む形で交差し、逆手で持った二本の小刀を手繰った。
四肢とそして首。
音もなく地面に落ちる。
甲冑の節に刃を割り込ませるようにしてなるべく薄い箇所を切る。
それは白髪黒ずくめの少年がやってみせたモノだった。
強者を失った黒の集団は、総崩れとなって全滅した。




