絶体絶命
遅れました、すみません
俺達一行は、仕方なく歩き回ることにした。
一ヶ所に留まっても周囲の領地にいるモンスターが襲ってくることは、先の戦闘で分かった。
……またモンスターを全滅させてしまったらしいが、敵の思う壺なのではないかと不安になる。
あの後結局起きてしまった皆が覚醒するまでの間にモンスター達は殲滅出来た。だが今度は異変に気付いたらしい空のモンスターが襲ってきて、皆で迎撃した。
……モンスターのレベルは四十から六十代ってとこだ。まだ雑魚モンスターなので大した苦戦はないが、ボス級モンスターのレベル六十代の群れと戦えるかと言われれば、即逃走と答えるしかないだろう。
幸いこの辺は雑魚モンスターが多い、幻想世界で言えば小競り合いの多い区域だとか。
地球で言えば先進国同士の核戦争がボス級モンスター同士で、こっちは紛争とかデモとかに分類されるんだろう。
レオンウルフの領地とか、足を踏み入れたくない。絶対死ぬ。大人アルティみたいなのが群れでいるとか、想像もしたくない。
そういえばと、三蛇にこうやって群れを全滅させて、生態系は壊れないのかと聞いてみた。
モンスターは突如生み出されるモノでもあるので、大丈夫なのだとか。あっちの世界では気にしてこなかったが、その辺はゲームの仕様なんだろう。
全滅すると群れとして小さな領地に出現する。そこから交配などで数を増やし、領地を広げていくのだとか。
……だが増えないモンスターもいるらしい。
ベヒーモスは多数の種類がいるようだが、幻想世界を統べる四体のモンスターがいると言う。
ベヒーモスには階級があるので多数いるのだが、最上級はアスラベヒーモスと言う、エフィのベヒーと同じ種類だ。そいつは幻想世界には一体しかいないと言う。リヴァアと同じ、リヴァイアサンもその一体。あとはバハムートと、ジズと言う超巨大な鳥がそれだ。
この四体は転生せず、新たに出現もせず、ベヒーモスは数がいるので交配も可能だが、バハムートはもう一体しかいないので無理だし、他二体も一体しかいないので無理。
……そう考えると、グランドクエストとは言え、バハムートを倒したのはちょっと後悔する。
「……で、とりあえずはどこに向かおうか」
黒い塔に向かうのはもちろんなんだが、通常に出てくるモンスターのレベルを考えると、ラスボスは七十代。しかも強力なモンスターが蔓延る幻想世界に、あんな巨大な建造物を建てるくらいの期間、モンスターから守り続けた実力と戦力があると見ていいだろう。
『黒の兵団』とやらに会ってみないと詳しくは言えないが、俺達が束になっても勝てないかもしれない。黒騎士とか言うヤツも強いんだろうし、何人いるかとかで勝敗は分かれる。
……頑張って強くなっているとは思っていたんだが、第二グランドクエストをやるには少し早かったのかもしれない。
「……まあ、道中でなんとかカバーするか」
何にしても、動かなければ始まらないので、俺達は歩き続ける。
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「うおおおおぉぉぉぉぉぉ……!」
俺は雄叫びを上げて、アルファ・ディ・ベルガリエを振るう。
最悪の状況だった。
さすがに『索敵』を使おうが、相手に見つかれば戦闘になるし、そうでなくとも行き着く先はモンスターしかいない。
極力かわしていても、結果としては無意味だったりする。
今が、それだ。
俺達は最も回避しなければならない場面ーーボス級モンスター同士のいざこざに遭遇と言う状況下にあり、円になって互いに背を向けつつ逃げられないか模索していた。
相手はジャングルゴーレムとリーガルヴォルフと言う、木の蔦やらで身体が構成された巨大なゴーレムと、二足歩行の大きな狼だ。
ジャングルゴーレムは植物なので再生するし、リーガルヴォルフは素早さと攻撃力が高い。
さすがの俺達レアモノパーティーでも、苦戦を強いられるのはもちろんだった。
「っ! 戻れ、クリスタ、リヴァア!」
HPがレッドゾーンに突入した二体を、モンスターBOXへと戻す。
巨体なので敵を攻撃を受けやすいのだ。
「このままじゃ全滅よ! フレイに乗って逃走を……!」
「無理だ! 上からも来やがった!」
空を旋回するのは、二つ首の巨大なハゲタカーーツインライトホークだ。こいつもボス級。
「くそっ……!」
三蛇のHPも減ってきている。
「戻れ、ナーフィア、リエラ、シャーリー!」
三蛇は毒で周囲に状態異常をもたらしたのが最後の一撃で、レッドゾーへ突入しかけたのでモンスターBOXに戻す。
「……三蛇の状態異常がある内に、突破するぞ!」
俺はフレイが有利なジャングルゴーレムを攻撃しながら突っ込んでいく。
「ガアアアアアァァァァァァァァ!」
影の刃がジャングルゴーレムを切り裂き、
「ピイイイィィィィ!」
金色の炎が焼き尽くす。
銀の波が俺の足場を作ってくれる。シルヴァだ。
「……」
ジャングルゴーレムを蹴散らしながら突き進んでいく俺達だが、ボス級モンスターの群れ三つが相手なのでキツい。
「アルティ、シルヴァ! フレイに乗って援護しつつ抜けるぞ!」
もう俺含めて全員がオレンジゾーンに足を踏み入れていたが、消耗戦になれば不利と見て逃げることにした。
俺は滑空してくるフレイの背中に飛び乗り、アルティを子供に戻して担ぎ、シルヴァはフレイの上に着地した。
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
影の刃や銀の刃、砲撃や金色の炎で怯ませながら飛翔していく。
そして、空へと逃げられた。
「グゲゲゲゲエエエェェェェ!!」
しかし今度はツインライトホークが襲いかかってくる。
「ピッ、イィ!」
空中戦では相手側が有利で、俺達を背負いながらではフレイもトップスピードで飛べない。次々と襲いくるツインライトホークに、フレイが徐々に傷付いていく。
「フレイ! もういい、戻れ!」
レッドゾーンギリギリになっても飛び続けるフレイをモンスターBOXに戻し、重力に従って落ちていく。
その下には、大地の裂け目があった。
「……」
シルヴァは俺達を乗せて飛ぼうとしてくれるが、
「……いや、いい。このまま裂け目に落ちていって、ここから抜けよう。あいつらに追い付かれるかもしれないからな」
俺は首を振って落ちるがままに身を任せる。
やがて、傍に寄ってきたシルヴァと肩に乗るアルティと一緒に、裂け目の暗闇に呑まれていった。




