敵の存在
遅れました
諸々の都合です
次回はもうちょっと早い予定
幻想的で淡い色彩の風景に包まれる中、俺は情報提供をしてくれた盗賊のリーダーに剣砲・バハムートの切っ先を突き立て、トドメを刺してやる。
……拷問は苦手だな。尋問だけで済んで良かった。
俺は内心でホッとしていた。
だが、情報は得られた。
まず、こいつらをこっちに呼んだ組織があること。
そいつを『黒の兵団』と呼んでいること。
そして、主にモンスター狩りを命じていること。
あとはこいつらの他にも幻想世界の各地でモンスター狩りをしているヤツらがいること。
『黒の兵団』には“黒騎士”と呼ばれる十人の強者がいて、見たことはないらしいが、ボスが君臨しているらしい。
『黒の兵団』は黒い塔にいると言うこと。
……これだけ分かればいいか。
「……俺達は『黒の兵団』を倒す。だが、今日は休もう。交替で見張りをしながら休んで、襲撃に備える。そしたら、塔のある方に向かおう」
俺はとりあえず、野宿することにする。
「はい。そろそろ、時間ですから」
ナーフィアは頷いて、空を見上げる。俺も釣られて上を見た。
「っ!?」
淡い色彩で綺麗な空が、血のような真紅に変わっていく。
空が真紅に染められた次は、黒へと変わっていく。
……一瞬で夜になった?
「……これが幻想世界です。昼または朝と言う明るさから夜へと変わる。朝、昼、夜と時には夕と分かれるあっちと違って、午後と午前で明暗が分かれます。太陽もないですから」
ナーフィアが説明してくれる。……そういや、こうして探してみると月もない。だが星はある。小さな光が夜空に浮かんでいる。
「あれは星ではなく、モンスターですよ」
ナーフィアが俺の心を読んだように言ってくる。……マジか。遠目に見て綺麗なのにな。もしかして、近付いたら超巨大とかあるんだろうか。止めて欲しい。
「……しかし、オオハイエナの領地とは、また運のいい場所に落ちましたね。それともフレイが選んだんでしょうか」
ナーフィアは感慨深げに呟く。……あの数、あのレベルでも運がいい方なのか。だったら他の領地にはどんな化け物が……。
「オオハイエナは弱い部類のモンスターですからね。例えば、ドラゴン系モンスターの領地。空にも地上にもたくさんドラゴンがいます。……そうなれば私達もただでは済まないかと」
……確かに。
ダークドラゴンのようなヤツが無数いるとか、考えたくない。あえなく退散、ってのが目に浮かぶようだ。
場合によっては殺られる可能性もある。
「……それと、あまり動きたくはありませんね。領地に入れば領地内のモンスターが一斉に襲いかかってきますし、かと言って見回りがいないと侵攻してくるから厄介なんですが」
……それはまずいが、かと言って見回りをすればオオハイエナがいないことがバレる。まあそれはいいとして、どこまでが領地なのか分からないのが難点だ。間違って敵領地に入ったりしたら、襲われてしまう。
「……ここは数人が寝て他が起きて警戒する方がいいでしょう。襲ってきたら起こしつつ対応出来るように」
「……ん。まず私達が起きてるから、寝てていい」
ナーフィアの言葉に頷き、シャーリーが頷いて言った。
「……ま、クリスタの大きさで気付かれてるとは思うから、起こされるの覚悟で寝てね」
リエラがサラッと言った。……そっか。クリスタの大きさじゃあ、バレるもんな。
「まあとりあえずは寝るか」
俺は言って、その辺にごろん、と寝転ぶ。
……幻想世界か。
結構危険で落ち着けない場所だな。
「……キュウ」
アルティが俺の上に乗って目を閉じる。
シルヴァが俺の近くで丸くなった。
クリスタが俺の頭側に足を折って目を閉じる。
フレイが俺の足側で翼を畳み、立ったまま目を閉じる。
リヴァアが俺達を囲むように渦を巻いていく。
三蛇はその周囲に向かう。
……まあ、一緒に寝た方がいいか
ーーそしてその翌日。
光に目を焼かれ、俺は眩しさに目を細めつつも起き上がる。
「……おい」
俺は周囲を確認して呆れた声を上げる。
全員もれなく、寝ていたのだ。
警戒しているハズの三蛇もリヴァアの円の中に入って身を寄せ合うようにして寝ている。
「……」
しかも、周囲には三種類のモンスター達が。
方角とかは全く分からないが、灰色の狼ーーグレーウルフ、植物で出来た獅子ーープラントレオン、鎌が四つある蟷螂ーージェノスマンティス。
それらが三すくみ状態なのか、それとも仲間達の正体に気付いて警戒中なのか、唸ってはいても襲ってこない。
……せっかく気持ち良さそうに寝てるんだし、俺一人でやるか。
すやすや眠るアルティ達を見てそう思い、アルティを下ろして立ち上がる。
「……じゃあ、ちょっと本気でやるか。ーー『ウエポン・チェンジ』」
俺は『ウエポン・チェンジ』を使って虚空から、三メートル程の赤黒い砲身だけの大砲ーーアルファ・ディ・ベルガリエを呼び出す。
「……俺の仲間に手を出したヤツから倒してやる。かかってきな」
俺がアルファ・ディ・ベルガリエの取っ手を掴んでニッと笑うと、三体は警戒から撃退に切り替わったのか、一斉に飛びかかってきた。
「……【一式・断絶砲】」
俺は久し振りに戻ってきたアルファ・ディ・ベルガリエの調子を見るために、固有スキルを発動させる。
じゃこん、と砲口からさらに細い砲口が出現し、砲口が狭まる。
そこに光が集束し、放たれたと同時。
俺はアルファ・ディ・ベルガリエを一閃した。
光が扇状に広がったかと思うと、飛びかかってきたモンスターが両断される。
【一式・断絶砲】は、砲撃を集束させ高密度エネルギーを放ち、レーザーとして敵を焼き切るアビリティだ。
……全体攻撃にもなりかなり威力が高いんだが、プラントレオンは切られても再生するんだよなぁ。発火させる剣なら兎も角これじゃあ倒せない。
まあ足止めにはなるし、他二種類には効くから、とりあえず後回しにしよう。
俺はそう思ってアルファ・ディ・ベルガリエでモンスターを両断しまくっていく。
二刀流の超長い剣を持っていると考えればいい。
モンスター達は地面に落ちる頃には消えているし、プラントレオンだけはドサッと落ちるのでちょっと起こしかねないのが面倒だが、起きたら起きたで怒って倒してくれるだろう。……ちゃんと見張りして欲しかった。ここじゃあ寝かせたくても寝かせられない。
「……頃合いか。【二式・変幻砲】」
プラントレオン以外はあと数匹、と言うところまできたので、そろそろ変えることにする。
出ていた細い砲口が再び収納され、元に戻る。
「……くらえ」
通常と変わらないが、弾は変わった。
通常と同じ砲撃が放たれ、プラントレオンの身体の大半を消し飛ばす。
プラントレオンの身体は植物なのでくっついたり生えて元通りになったりと面倒なので、大半を消し飛ばそうが再生していく。
だが俺はアルファ・ディ・ベルガリエを、砲口をそいつに向けたまま引いた。
すると、弾が戻ってきて、プラントレオンの残った身体を消し飛ばした。……左は成功したが、右は少し残ってしまったので、軽く横に振って完全に消し飛ばす。
アルファ・ディ・ベルガリエを動かさないでいると、弾はフヨフヨと浮いて留まっていた。
【二式・変幻砲】は、放った弾を自由自在に操れるアビリティだ。もちろんいくつでもいいが、多いと自爆したりどれをどっちで操っているかがこんがらがってくるので、俺はやらない。
「……さて。起きない内に、終わらせようか」
俺は未だに誰も起きてないことを確認してから、アルファ・ディ・ベルガリエを振るった。




