決戦
暗雲立ち込める空の下、俺と仲間達、反乱の首謀者であるアスラリアス約四十名はアンドゥー教教祖が開けた幻想世界とこっちを繋ぐゲートとやらを睨み、教祖と対峙していた。
「くっ! 何だあのモンスターは!」
ゲートが開かれたせいか、暴風吹き荒れる中、風に目を細めながら長が叫ぶ。
……確かに、何だろうかと思う。
見るからに鶏にしか見えない巨大な鳥。鶏が巨大化しただけのように見える。
名前は、コカトリス。
確か幻獣の一種だった気がする。バジリスクと同様に見られると言うらしいが、どうも全く違う。
……よく見るとただの巨大な鶏じゃない。尾が蛇の尾なのだ。
「コカトリスよ。私みたいに石化能力はないから雑魚だけど、幻想世界のモンスターはこっちのモンスターより強いのよ。何より、この数が厄介だわ」
リエラが呻く。……ゲートから出現したコカトリスの数は、約五十。
「……。長、鶏達は任せていいか?」
俺はどう戦うのが最善か、考える。
「問題ない。リューヤはどうする気だ?」
長が力強く頷いて、俺に聞く。
「……俺はあの鶏野郎を殺る。俺は飛べるからな」
教祖を睨み付け、アヴァロンブレードとブレード・オブ・ロッドを構える。
「……そうか。お前がそう言うなら信じよう。死ぬなよ、リューヤ。祝勝会は焼き鳥パーティーだからな」
長は笑って言い、俺に右拳を突き出してくる。
「……ああ」
そんな長に俺も笑い、左拳を長の右拳に打ち付ける。
「……『竜紋』」
俺は静かに呟く。俺の全身に黒い筋が走り、紋章で出来た薄い羽が出来る。
「……じゃ、行ってくる」
俺は言って、羽を一度羽ばたかせて、勢いよく飛ぶ。
「へぇ。飛べる人間って珍しいな。でもこのアンドゥー教教祖様には勝てないな!」
教祖は言って杖を掲げる。魔方陣を描き、そこから光の爪を放ってくる。……これ、精々中級レベルだよな。【ホーリークロー】レベルだろうか。
「この程度……!」
俺は滑空しつつアヴァロンブレードで光の爪を斬り砕き、教祖へと迫る。
「えっ? ちょっ、待って!」
教祖は魔法を防がれて驚き、手を突き出して制止の声を上げる。
「……なぁんて、神威権限!」
教祖はニヤリと笑い、杖を高く掲げる。……何の茶番だよ。
教祖の上空から雷が落ち、教祖に直撃して帯電する。だが、それを痛がっている様子はない。俺は不用意に近付くべきじゃないと止まる。
「来た来た来た! 神装・アンドゥー!」
教祖は見た目相応に笑う。雷が収まるとそこには、白銀の鎧を纏い、片手に白銀の槍を持った姿で教祖がいた。
……これが切り札? 呆気ないな。
「今までの俺だと思うな!」
教祖はそう言って俺に杖の先端を向ける。
ゴロゴロッ。
俺は上で嫌な音がして、反射的に後ろに下がる。
ピシャッ!
俺の目の前を、落雷が通った。
……落雷を意図して出来るのか。だが、上の音を気を付けていれば特に当たることはない、か。
「いい勘してるね。でも、避けちゃっていいの? 下、見てごらん?」
ニヤニヤ笑いを浮かべた教祖に言われて、俺はまさかと思い下を見る。
「っ!」
リヴァアがいて、雷をくらっていた。リヴァア程になればそこまでのダメージではないが、さすがに連続的に、何発もくらうとヤバい。
属性相性は、最悪だ。
……待てよ? 避雷針代わりになるモノならあるぞ?
俺は焦り、怒りを教祖に向けようとするが、ふと思いついた。
「シルヴァ!」
シルヴァは銀を操る。避雷針ぐらい作れるだろう、と思うんだが。あれがただの雷じゃなかった場合、厄介だ。
「甘い甘い! ただの雷じゃないの。銀ぐらい貫くの。はははっ! 人間ごときがこの俺に逆らうからだ! あの蛇、殺してやるよ」
教祖が高笑いして杖を高く掲げる。暗雲全体に、雷がゴロゴロ言った。
「……ああ? 俺を嘗めんな! 【超巨大化】!」
俺は怒気の含んだ声で言って教祖を睨み、右手のブレード・オブ・ロッドの刃を巨大化させる。その長さ、約十メートル。
「は?」
「【ガイアブレード・オーバードライブ】!!」
刃が土色へと変化し、それを縦横無尽に高速で振るう。土色の斬撃の嵐が、刃となって残った。
「……くらいな」
土色の斬撃で出来た半球が、空へと飛んでいく。そして暗雲の中に入ると、無数の斬撃を撒き散らして爆発した。
「なっ!?」
教祖が驚愕に目を見開く。暗雲は、ゲートを残して消し飛んだ。……ゲートは破壊出来ないか。あわよくばって思ってたんだが。
魔杖剣の専用アビリティ、そして奥義でもある。オーバードライブ系は、縦横無尽に振るった軌跡通りに斬撃を残し、放つ。放った先で斬撃を撒き散らして爆発すると言う、範囲攻撃だ。
一応雷に強い地属性にしたんだが、吹き飛ばすなら風でも良かったかもしれないな。
「……くそっ! ただの人間ごときが! アンドゥーの槍!」
教祖は忌々しげに吐き捨て、槍を俺に投げてきた。……俺を標的にしてくれたようだな。
「……だが、俺を嘗めんなっつってんだろ! 【一刀両断】!」
雷を纏って飛んでくるが、俺はアヴァロンブレードを構える。大上段から思いっきり、振り下ろした。
「ぐっ!」
バチバチと電流が流れてくる。さすがに斬れはしないか!
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺はHPが半分に減った所で、槍を弾いた。……一応、その名の通り対照を一刀両断するアビリティなんだが。これを会得するのに結構頑張ったってのに。
俺の思いとは裏腹に、教祖は憤怒の表情で俺を睨んでいた。
「殺す! 殺す! 殺してやる! コカトリス!」
ゲートからさらに、止めどなくコカトリスが召喚されていく。……面倒なことを。
俺は奥義を使った後はしばらく杖としてしか使えないブレード・オブ・ロッドと、ついでにアヴァロンブレードを変える。
聖竜剣・ホーリードラゴンと闇竜剣・ダークドラゴンだ。
……さて。そろそろ終わりにするか。
またいつ仲間に手を出すとも限らないあいつは、早めに倒した方がいいだろう。だが、コカトリスがウザいな。先に狩るか。
俺は冷たくそう思い、『竜紋』の羽を羽ばたかせて滑空した。




