侵略
満月が雲のない晴れた夜空を照らしている。
よって視界は良好。
星の見える夜空は俺を感慨深くさせるのには十分だった。
そして今夜、闇夜の晩に、虐げられてきた者達の復讐劇が始める。
国落としを行うのだ。
「……」
俺は一人、アスラリアスの集落がある反対側、昨日襲撃予告をした場所に来ていた。
「キュウッ」
一人といっても、やる気満々のアルティが一緒だ。
今回の作戦はこうだ。
俺が最初に襲撃。兎に角派手に暴れる。
次に長率いるアスラリアス集団が襲撃。手薄な街を襲撃していく。
腐れ貴族や教徒には危害を加えて突き進み、中央へと攻め込む。
アンドゥー教を潰す。めでたしめでたし。
大まかな筋書きはこう。
だが、いくつか条件がある。
壁は全て壊すこと。
壁はこの国の象徴みたいなもんだが、それは身分差別の象徴でもある。あえて壁を壊すことで、身分の壁をぶっ壊そうというわけだ。
それから、教徒や反抗する冒険者や騎士や腐れ貴族以外には危害を加えない。
俺は一人で全兵力を引き付けること。
まあ、それは問題ないだろう。
間もなく、作戦開始だ。
ーーというか、俺が始めなきゃ始めらないんだった。
……いっちょド派手にやるか。
俺は意を決してド派手にやることを決める。
大人アルティ、フレイ、リヴァア、シルヴァ、ナーフィア、リエラ、シャーリーのテイムモンスター軍団と一緒に登場すれば、派手さに加え、混乱させることも可能だとは思うが。
……さすがにクリスタを出すと面倒だ。逆に動けなくなる。その点フレイ、リヴァア、シルヴァの三体は飛べるので問題ないし、大人アルティとナーフィア、リエラ、シャーリーの三蛇は小回りが利く。
よしっ。それでいこう。
暴れ方が決まったので、次は登場だ。……昨日と一緒でいいか。
「……リューヤ。やっぱり私がついていく」
……いつの間にかモルネが来ていて、言った。
「……ダメだ。アスラリアスは俺と関わりがないようにしないと。どうしてもって言うなら、後で拾うから」
俺が言うと、不満そうにしながらも去っていった。……分かってくれたようだ。
「……さて、やるか。ーーフレイ」
俺はモンスターBOXから金色の炎を身に纏う不死鳥、ゴールデンフェニックスのフレイを出した。
その背に乗り、一気に上昇して壁の上に現れる。まあまあな兵力が集まっていることに安心し、壁の縁に立つ。
「来たぞ!」
「くっ! 予告通りだったか!」
「まさかバカ正直に来るとは」
「陽動かと思って兵力を裂いたのが仇となったか!」
各々武器を構えて兵士、冒険者、少数の騎士達が口々に叫んだ。……バレかけてたのか。まあ、あれだけ派手に予告すれば警戒されるだろうな。
「……投降するなら見逃してやるぜ?」
俺は言うが、
「テイマーが勝てると思ってるのか!」
「見かけ倒しのモンスターなど怖くはない!」
俺の忠告を聞くヤツはいなかった。……見かけ倒し、ねぇ。
「……見かけ倒しかどうか、その身で確かめてみろよ。ーーシルヴァ、リヴァア、ナーフィア、リエラ、シャーリー。アルティ、【グロウアップ】」
俺は手持ちのほとんどを出現させる。
すでに俺よりでかく立って二メートルは越えたシルバーブレードバハムート、シルヴァ。
俺を丸飲み出来る程のでかさで、交差した水のリングを鬣のようにして、宙に浮いている手足のない長い海竜リヴァイアサン、リヴァア。
上半身が人間の女性、下半身が紅い蛇で両手に真紅の双剣を携えた蛇神・ナーガ、ナーフィア。
頭に王冠のようなトサカがある巨大な大蛇である蛇神・バジリスク、リエラ。
八つの頭に八つの尾がある蛇である蛇神・ヤマトノオロチ、シャーリー。
俺の肩にいたアルティが壁の縁に下り、光に包まれて大人の姿へと姿を変える。
「なっ!?」
「……驚いてる暇なんて与えないぜ。お前ら、壁を破壊しろ。ああ、危ないから避難した方がいいんじゃねえの?」
俺は告げて仲間に指示し、軽く忠告した。俺の真下にいたヤツは全員、散り散りになって逃げていく。
そして次の瞬間、破砕音が夜に静寂を破壊した。
「っと」
俺は崩れる壁に落ちそうになったが、壁の破片を跳躍して移動するアルティに拾われた。
「……折角私がリューヤさんを独り占めにするチャンスだったのに」
「狡いわよ、アルティ」
「……私がキャッチするハズだった」
……アルティが俺を拾ったことに、三蛇は不満のようだ。下心があるかもしれないので、ナイスアルティだ。
「ま、今は共闘しようぜ。攻撃してくるヤツだけ撃退するんだぞ。住民には手を出すな」
俺は苦笑して宥め、指示を追加する。
「……久し振りに俺もやりたいから、あんまり取るなよ?」
「それは約束出来ませんね」
ナーフィアが言って、俺に恐怖からか襲いかかってきた兵士を尻尾で叩き飛ばす。
「……おいおい」
今の結構な勢いだったが、ちゃんと手加減してるんだろうな?
俺は勢いよく地面を滑る兵士を見て不安になる。
「今のでも手加減してるので、これ以上は無理です」
ナーフィアにやられた兵士はピクリとも動かない。……多分気絶したんだろう。きっと、そう。
「まあ、気絶ぐらいならいいけどな」
妥協して、侵略を開始する。
ーー忘れてはならない。侵略側の正義と侵略される側の正義は一致しない。侵略者は侵略者でしかない。勘違いしてはいけない。




