デスゲームへの覚悟
「……ふぅ。腹減ったな」
宿に着いて、一息ついてから呟く。
「でしたら、お夕食にしましょうか?」
「おわっ?」
びっくりした。NPCって喋るんだな。クオリティ高っ。
「はい。お願いします」
「お夕食は部屋で召し上がりますか?」
「はい。出来上がったら、部屋に持ってきて下さい」
「はい、かしこまりました」
女将は小さくお辞儀をして調理場へと向かっていった。
「なあ。ここの料理って美味いのか?」
部屋に向かう途中、二人に聞いてみる。
「美味しいよ。プレイヤーだと料理系スキルで味が変わるけど、宿は評判で味が変わるから」
へぇ。変わったシステムだな。ってことは、……どうなるんだ?
「……私達、真っ先にここに来たでしょ?」
「ああ、そうだな」
「ここの評判は、リセットされた状態から、どれくらい上がったと思う?」
「ん~。俺達が来たから、少しくらいは上がったんじゃないか?」
「客が、私達だけならそうよ」
ん?
「お兄ちゃん、今日のことで有名になっちゃったから、ここに泊まる人が多くなっちゃったの」
「じゃあ、ここの評判うなぎ登りじゃん」
ってことは――?
「美味いメシ食い放題!?」
「……言い方はあれだけど、そういうことよ」
ここ美味いんじゃん。ラッキー。目立っといて良かったんだな、これだけは。
「そりゃ、楽しみだな」
俺は笑って言った。
その後、メシを食って腹が膨れ、ちょい眠くなったので寝ることにした。
――が。
「なあ。今さらだけどさ、何でベットが一つなんだ?」
三人で一つっておかしいだろ。まあ、それに似合う大きさなんだが。
「知らないわ。けど、そういう風に見られたってことじゃない?」
……はぁ。
「じゃあ、俺は――」
「「床で寝るから二人はベット使ってって言ったら許さないから」」
「……」
すみません。そう言おうと思いました。
「三人で密着して寝ろと?」
「うん。お兄ちゃんは、嫌?」
出たよ。リィナの上目遣い。これに俺は勝てない。
「わかったよ。三人一緒に寝よう」
俺が負けました。
「じゃあ、お兄ちゃんが真ん中ね」
「……端でいいんだが?」
「駄目よ。これは世の中の理」
これはさすがに世の中の理じゃねえだろ。
「まあ、小さい頃はそうやって寝てたしな」
懐かしい。
「お兄ちゃん、早く」
「はいよ」
リィナに催促され、既にベットの上にいる二人の間に寝転ぶ。
「電気、消すわよ」
姉ちゃんが言うと、電気が消えた。そういや、リモコンとかスイッチはいらないんだったな。念じれば消えるらしい。
「ん……。お兄ちゃんと寝るの、久し振り」
ギュッとリィナが抱き着いてくる。……俺の二の腕に柔らかな感触が伝わってくるんだが。
「そうね。五、六年振りぐらいかしら」
姉ちゃんも抱き着いてくる。……俺は首も動かせない状況なんだが。どっちかを向けば鼻先が当たりそうだ。
「お兄ちゃんは凄いね」
「ん?」
「私、凄く怖いよ? お兄ちゃんやお姉ちゃんとか『戦乙女』の皆とかが死んじゃうかもしれないんだよ?」
リィナは泣きそうな声でそう言った。
「……」
「私もよ、リューヤ。いつ死ぬかわからない世界に閉じ込められて、凄く怖い」
姉ちゃんも、冷静な姉ちゃんにすれば珍しく、声が震えていた。
「……怖いなら、安全な街に住めばいいさ」
「違うのよ。私達は、ソロで攻略に挑むリューヤが死ぬのが怖いの」
姉ちゃんも泣きそうだった。
「……死ぬと決まったわけじゃない」
「でも、進んで死に急ぐことはないよぉ」
リィナはもう涙目らしい。
「……ここで暮らしてても、死ぬのを待つだけだしな。早く脱出しないと」
「何で? お兄ちゃんがやる必要はないでしょ?」
「リィナ。現実にある俺達の体は、何も食べず、点滴で何年生きられると思う?」
「……わかんない」
だろうな。まあ、俺も知らんけど。
「俺も知らない。だけど、急いだ方がいいってのはわかるよな?」
「……うん」
「だから、俺は攻略に挑む。巻き込まれた人を、一人でも多く帰すために」
特にリィナと姉ちゃん、リィナのクラスメイトとか。
「……お兄ちゃん」
「リィナも姉ちゃんも、無事に帰してあげたい。俺は二人が攻略に向かうって言っても止めないさ。俺が、絶対死なせないからな」
……ちょっとカッコつけすぎか?
「もう、お兄ちゃんったら……。でも、お兄ちゃんも死んじゃやだよ?」
「わかってるって。俺一人が犠牲になって皆を助けようなんて思っちゃいない。皆揃って帰ろうって話だ」
プレイヤーキルを行うようなヤツでも。怖くて街から一歩も出ないようなヤツでも。
「やっぱり、お兄ちゃんは格好いいなぁ。私、そんなこと考えられないよ」
俺は腕をリィナの下から後ろに回して抱き寄せる。
「お兄ちゃん?」
「落ち着いたなら、もう寝ろ。俺がいてやるから安心してな」
「うん。ありがと、お兄ちゃん」
リィナは目を閉じて、寝に入った。
「リューヤ、本当にソロでやるの? ギルドを組んでやればいいのに」
「姉ちゃん、俺は強くなって攻略したいんだよ。他人を、俺の我が儘に付き合わせちゃいけないだろ」
「……。私は、リューヤを応援するわ。リィナと話してるのを聞いて、私も格好いいって思っちゃったし」
格好いいと思うかどうかは関係ないと思うんだが。
「そっか。ありがと、姉ちゃん。でも、今日は弱音をはいてもいいよ」
姉ちゃんは強がるとこがあるから。
俺は腕を姉ちゃんの下から後ろに回して、優しく頭を撫でてやる。
「うっ、うぅ……」
姉ちゃんは、耐えきれないように、しばらくすすり泣いていた。
「……すー」
姉ちゃんが泣き止んで、すぐ寝てしまった。
「……」
本当は怖いさ、俺だって。死ぬのが目に見える世界に閉じ込められて。死ぬのは怖いし、ソロでやって一人で死ぬのも嫌だ。けど、男なんだから、女子の前でカッコつけてもいいよな。
俺は、目から涙が出るのを感じたが、目を閉じた。




