長の決意
一ヶ月振り……
すみません、遅れました
「……皆を集めろ」
長は野次馬だった人達に命じた。
程なくして野次馬と残り少数、計三十人程が集まっていた。
「……先程の戦いを見ていた者もいると思うが、そこの冒険者と戦い、気付かされた」
長は他の人達を周りに集め、中心に立って語り出す。
「……我々はアスラリアス。誇り高き種族であることを! ……俺は忘れていた。人間に支配され、弱気になっていたのかもしれん。忍び耐えることが種族を滅亡させないための道だと……。だが、我々は人間より気高く、強いアスラリアスだ! 少数とはいえ、人間に劣るなど有り得ん! だから俺は明日の夜、襲撃を試みようと思う」
長の力の入った演説に、周囲が沸き立った。
「俺もやるぞ!」
「長、やってやりましょう!」
次々と手を挙げ、完全に襲撃ムードになるアスラリアス。
そこに、巨大な影が射した。
「「「っ!?」」」
一斉にそれを見上げると、巨大な象のようなモンスターだった。バオームというらしい。
「……空気読めよ。……アルティ、【グロウアップ】」
俺は大の字に寝転がったまま、アルティを大人に変化させる。
「……アルティ。俺が頑張って作った今の雰囲気、ぶち壊そうとしてるんだが、あいつ、喰っていいぞ」
「ウォン」
アルティは頷いて、落下してくるバオームに突っ込んだ。
「ガアアアアァァァァァァァ!」
バオームはでかいがあまり強くないモンスターだ。アルティなら一撃でいける。
アルティは跳躍し、身体を捻りながら牙を突き立て、バオームを貫いた。【シャドウファング】のアビリティだ。
「ガウ」
唖然とするアスラリアス達を余所にアルティはバオームを食べ尽くし、俺の方へ歩いてきた。
「いい子だ」
俺はアルティの頭を撫でて、子供の姿に戻す。
「キュウッ!」
嬉しそうに飛びついてくるアルティを撫でてやる。
……長が俺を怪訝な顔で見ている。何か悪いことしたかな、俺。
「……何故助けた? あれくらいの敵、我らだけでも倒せた」
「だろうな。けどまあ、誰も殺られてないんだからいいだろ? 俺はモルネに、この国を滅ぼすように依頼を受けて来たんだ。敵の敵は味方。味方は多い方がいいだろ?」
俺は長に睨まれるが、笑って言った。
「……そうか。モルネが」
長はモルネに向く。
「……すまなかったな、モルネ。だが、もう迷わない。アスラリアスは明日の夜、襲撃を行う。誇りを取り戻しにな」
長はモルネの頭を撫でて言う。
「皆、聞いてくれ。今夜、敵戦力を知るための選抜隊を向かわせる。戦闘行為は禁止だ。気付かれないことを第一とせよ。脚力に自信がある者は集まれ」
長が言うと、脚力に自信のあるヤツが集まり、他は興奮冷めやらぬ様子で散っていった。
「……」
俺はいい考えが思いつき、一人その場を去る。
「どこへ行く。お前は最早敵ではない。同志だ。泊まっていくといい」
長が俺を呼び止める。
「……いや。俺にはやることがあるからな。明日の夜の襲撃を成功させるための伏線をな」
俺は言って、そのまま立ち去った。
「……そうか。何にせよ、手伝ってくれるなら有り難い」
長は俺を無理に引き止めようとはせず、今夜のメンバー選びに戻る。
俺はそれを見て、NPCとはいえ、この種族は自由を勝ち取ってもいいと、少なくとも俺はそれを手伝おうと思った。
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様子見の時間になった。俺はこそこそ隠れて行って戻るまでの時間を過ごし、特に騒ぎもなく帰ってきたことにホッとしつつも、俺は予定通りに行動を開始する。
アスラリアスの集落がある反対側に、誰にも気付かれないように回る。
「……さて」
ここからだ。俺は早くなった鼓動を抑えるように胸に手を当てる。
「……アルティ。【グロウアップ】」
俺は小声でアルティを大人へと進化させる。
「アルティ。この壁の上に登れるか?」
俺はアルティに跨がりながら聞くと、アルティはこくんと頷いた。大人アルティは頼もしくていいな。
「……じゃあ、やってくれ」
俺は言ってアルティの背にしがみつく。
アルティは軽やかに壁から距離を取ると、一気駆け、壁を垂直に駆け上がった。途中でジャンプして、壁の上に着地する。
……さすがだな。まあ、しがみついといて正解だった。振り落とされるところだったもんな。
「……」
俺はアルティを戻し、壁の上に立って下を見渡す。すでに明かりはほとんどなく、外に出てるヤツもいない。一日の疲れを取るためだろう。奴隷はこき使われるからな。
「……フレイ」
俺はモンスターBOXから金色に輝く炎のフェニックスを呼び出す。
フレイの放つ光が否応なしに辺りを照らし、暗かった街が一部昼のように明るくなる。
「咆哮だ、フレイ」
俺が言うと、フレイは少し仰け反って息を大きく吸い、
「ピイイイィィィィ!」
夜空に響き渡る大きさで咆哮した。
その咆哮と光に、寝ていた人達が起きて何事かとこちらを見上げる。
俺は人が結構集まったのを見計らって、口を開く。
「……俺さ、今日この国に来て、今日処刑されたんだぜ? だから嫌気が差してさ。……俺を売った教徒共々この国、滅ぼすことにしたから。明日の夜、覚悟しとけよ? 死にたくなかったら家に籠ってな。まあ、教徒は逃がさねえけどな。ーーフレイ」
俺は言う中で怯えていく人達の顔を見ながら、フレイに指示する。火を吹け、と。
金色に輝く炎をフレイが口から吹いて撒き散らし、家に当たらないギリギリから空高くまでを覆う。
「……俺は本気だからな」
そう言って、フレイの背に乗り下へと下りていく。
これで注意は引けた。アスラリアスの襲撃は完全な不意打ちになるハズ。
さらに俺が最初に参上して兵を集めれば完璧だ。
俺にはアルティもフレイもいる。ここで出せるのはクリスタ以外だな。動けないだろうし。




