悪役も楽じゃない
一ヶ月振りの更新……遅れてすいません
クリスマスの番外編を書きたいのですが、間に合うかどうか……
ハロウィンの番外編はすっかり忘れてました……orz
クリスマス番外編は間に合ったら更新します
「……あ?」
俺がアスラリアスをバカにすると、長は怖い顔で睨んできた。
……それだけアスラリアスを誇りに思ってるなら、俺の思惑に乗ってくれそうだな。
「……だってそうだろ? しょせんは人間が怖くて戦わない臆病者だ」
「……ああ。人間は怖い。何をしてくるかがわからんからな。だが、アスラリアスが臆病者だという発言は撤回してもらう!」
長は拳を握り締めて立ち上がる。
「……だったら反乱ぐらいしてみろよ。それとも何か? アスラリアスの誇りってのは人間に虐げられても黙ってることなのか?」
俺はここぞとばかりにせせら笑う。
「っ! ふざけるな! 余所者に何がわかる!」
長は俺の胸ぐらを掴んで立たせる。
「……わからねえよ。やられっぱなしで黙ってるヤツの気持ちなんか。わかりたくもねえ」
俺は胸ぐらを掴む長の手を振り払う。
「貴様……!」
「俺が長だったらここでじっとしてるなんて選ばねえ。ホントにアスラリアスを誇りに思ってるんなら、ここで黙って殺されるなんて、意地でも選ばねえよ!」
「……貴様に何がわかる! 若い衆はそうやって人間に逆らおうとする。だが、人間に歯向かってアスラリアスが滅亡するのは間近になってくる! 例え生き残ったとしても、数は減り、滅びるのが早くなるだけだ!」
「はっ! だからってここで誰にも知られず死ねってか? 長ってのは残酷だな」
「……忍ぶのも戦いの一つだ」
「違うな。それは逃げっつうんだよ。……アスラリアスって本当は弱いんじゃねえか? 人間より劣った種族だって自覚してんだろ?」
「……人間に劣ったとは言ってない。アスラリアスをバカにするな!」
「……事実を言ったまでだろ? しょせんは戦いを放棄したクソ種族だ」
……ここまでくれば……。
「っ! いい加減にしろ!」
長は怒りを込めて机を殴り、真っ二つに割る。眉間に皺を寄せ、相当お怒りだ。
「……じゃあ、勝負してみるか?」
「あ?」
「俺は人間の中でも強いと自負してる。俺と勝負して負けたら、お前らが束になれば人間なんて屁でもねえくらいに強いってことだが、俺に長が負けるようじゃあアスラリアスってのはクズだってことだ」
「……いいだろう。アスラリアスの誇りに懸けて、貴様に勝つ!」
俺の思惑通り、誇り高きアスラリアスの長は俺との勝負に乗ってくれた。
「後悔するなよ?」
「アスラリアスは至高の種族だ! 人間には負けん!」
「表に出な。ここで勝負する気じゃあねえだろ?」
俺は言って、長の家を出た。
出ると、騒ぎを聞きつけてか、大勢のアスラリアスが集まっていた。……俺を見る目が怖い。俺は完全にアスラリアスの敵ってわけだ。
「……」
モルネは微妙な顔でアルティを俺に渡す。まあ、一緒に暮らしてきた仲間をバカにされていい気にはなれないよな。
俺と長は広い場所に出て、対峙する。周りには距離を置いて他のヤツらが長を見守り、俺を睨んでいる。
「っ……」
子供に石ころを投げられた。……かなりの豪速球で、死ぬんじゃないかと内心焦ったのは顔に出さない。
長とのバトルは戦闘ではなく、ケンカらしい。長のHPが見えず、さっきの石ころでもHPは減っていない。HPが減らない分、思いっきりケンカ出来るのはいいが……。
「……キュウ……」
アルティが心配そうな声を上げる。俺はそんなアルティを撫でて、地面に下ろす。
「……待っててな、アルティ。一対一の勝負なんだ」
俺はそう言ってアルティを退かせる。
「……アスラリアスの強さ、その身に刻むといい!」
「っ!」
長が突っ込んでくる。一っ跳びで俺の眼前に来て、右手を引いている。
「はっ!」
長が右で拳を繰り出すと、ゴウッ! という音がして、俺は間一髪両手でガードする。
「っっっ!」
ガードしたんだが、足が地面を離れ、五メートル程飛んだ。……チッ。ガードした腕が痺れる。結構強いんだな。いい勝負をするのがベストなんだが、厳しいかもしれない。
「……ガードされるとはな。人間でも強いとはいうのは本当だったか」
長は大概の人間なら今の一撃で決まってると言う。
「……アスラリアスってのはこの程度なのか? もっとこいよ」
俺は長を挑発する。
「……まだまだ、こんなものではない!」
再び跳んで俺の眼前まで来るが、今度は地に足を着け、踏み込んだ。
「はぁ!」
右で殴りかかってくる。……甘いな。
「ぐっ!?」
俺は低い姿勢でそれの軌道から避けつつ、左でクロスカウンターを決める。
スポーツであるボクシングをケンカに入れるのはあまり良くないが、仕方がない。相手の身体能力は格上。どんなことでもしないと。
「……伝家の宝刀ってか」
何のボクシング漫画でクロスカウンター使ってたっけな。覚えてない。
「……なめるなぁ!」
吹き飛ばなかった長は、攻勢に転じて連打を繰り出す。
「……お前こそな」
俺は足の指に力を入れ、至近距離での殴り合いを選ぶ。
「「っ!」」
最初に半歩下がったのは、ほぼ同時。
「ぬあぁ!」
「はぁ!」
再び踏み込んで殴ったのは少し長が早い。
「「っ!」」
拳はぶつかり合い、弾ける。
「はっ! ……はぁ!」
俺は構わず右手で殴りかかり、長に受け止められて、右足で蹴り上げる。
「くっ!」
長は呻いて俺の手を離し、一歩後退する。
「っらぁ!」
俺はさらに前に出て、左手で長の顔目掛けて殴る。
「ふん!」
長はそれを右手でガードし、左で俺を殴り飛ばした。
「っ!」
俺は吹き飛び、宙に浮く。受け身を取ろうとした時、長が追撃してきていて、回し蹴りを脇腹にくらう。
「がっ!」
俺はさらに勢いを増して吹っ飛び、区域を区切る壁に激突した。
……いってえな。さすがに、いい勝負にもならずに負けそうだ。
「……どうした? もう終わりか?」
長は俺が立ち上がるのを待っているようだ。
「……バカ言うんじゃねえよ。まだまだ、これからだろうが」
俺は立ち上がって黒いロングコートを脱ぎ、黒いシャツの袖を捲る。
「……いくぞ!」
長は突っ込んできて、跳び蹴りしてくる。今の俺にそれをまともに受けれる体力はないので、軌道から避ける。
「……あっ」
長の跳び蹴りは強力で、壁にめり込んでしまう程だった。長も思わず声を出してしまうくらい、間抜けで隙だらけだった。
「くっ!」
長はすぐにもう一方の足で壁を砕いて抜けようとするが、俺はその隙を逃さず腹にかかと落としをくらわせる。
「がっ!」
そのおかげか長の蹴りが凄まじく内部にまでダメージを与えていたのか、長は足が抜けて地面に叩きつけられる。
「……ふーっ」
俺は周囲の非難の目を受けても気にせず、距離を取って切れた息を整える。
「……どうした? もう終わりか?」
俺は倒れた長に言い返してやる。
「……まだまだだ」
長はダメージがあるようでゆっくり立ち上がり、俺を睨む。
「「っ……はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
俺と長は同時に突っ込み、左と右を打ち付ける。その後、数秒か数分か。必死だったせいでどれくらいの時間かは定かではないが、蹴りも拳も含めての近距離の殴り合いをした。
「「ぐっ!」」
ほぼ同時に腹に拳が入り、半歩後退する。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
長が全身全霊の一撃を、カウンターを恐れず放ってきた。
「……」
それを俺はガードしようと両手を上げて、止めた。
ガードの隙間を少し開け、周りからは見えないように、長だけには理解してもらうようにして、顔面に渾身の一撃をくらう。
「……ぐっ!」
俺はもちろん吹き飛び、背中から数メートル先の地面に落ちる。
「……人間より、強いんだろ? もったいねえ」
俺は全身の痛みを堪えて呟く。
「……ふん」
長は俺の呟きが聞こえたのか、面白くなさそうに鼻を鳴らし、他のヤツらのところへ行った。
……敵役も、楽じゃねえなぁ。
俺は染々と、身体に染みて思うのだった。




