アンドゥー教
遅くなりました、すみません。
※この作品に出てくるアンドゥー教と自分の他作品、英雄、やります(仮)に出てくるアンドゥー教は細部が異なります。身分区別の教団の名前に丁度よかったので。
「……」
俺は冒険者ギルドで困っていた。
依頼主が見つからないのだ。
奴隷や農民、冒険者や商人も当たってみたが、誰も反逆の意志はないようだった。
……奴隷が反逆の意志を持ってないなら、それより下の身分がいるのか?
「……う~ん。奴隷より下の身分ってあるのか?」
受付嬢に話を聞いてみることにした。
「一応あるにはありますよ。ですが、亜人や魔物です。この国にはいませんね。立ち入り禁止の第三区域ならともかく」
……ふむ。第三区域にも行ってみるしかないか。だが、立ち入り禁止だしな。どうしよう。
「人でない者は人でなし。アンドゥー教の教えです」
アンドゥー教? ヒンドゥー教なら知ってるんだが。
「アンドゥー教は最近この国に来た宗教で、身分区別が基本理念です。元々この国は壁で階級を分けられていたのですが、亜人がいないのは、亜人の身分が人と同等から人ならざる者に変わったからですね。……ここだけの話、教徒のせいで奴隷や農民の方々が苦悩を強いられているんです」
最後は声を潜めて言う。
……なるほど。身分が低くなったのは亜人達だから、亜人からの依頼か。アンドゥー教が来て変わったんだしな。
「身分区別はどうなってる?」
「上から、王族、教徒、貴族、商人、騎士、冒険者、農民、奴隷、亜人種、魔物です」
……自分達は二番目に納まるってか。周到だな。
「政治は王族貴族中心か?」
「はい。前は平民でも能力のある方は入れたんですけどね」
と言っても、差別はありましたが。
そう受付嬢は付け足した。
「おい、新人!」
柄の悪い男が怒鳴っていた。何かあったんだろうか? 新人が無礼な振る舞いをしてるとか。
「……第三区域に何があるのかはわかるか?」
俺はどうせ蚊帳の外だろうと、受付嬢に話かける。
「えっ? いや、あの……」
受付嬢は困っていた。
そりゃそうか。知らないんだろうし、第一答えづらい。
「……誰なんだろうな」
亜人達がいれば、聞けるんだが。どこかでこっそり暮らしてないかな?
「あのー……」
「おいてめえこら! 無視してんじゃねえよ!」
「話かけられていますよ」
「ん?」
誰に? そう疑問に思った俺は後ろを振り返る。
「このっ!」
知らないヤツが殴りかかってきていた。
「うおっと」
俺はそれをギリギリで避け、腕を掴んで引き倒した。
「悪い。襲われたら反射で撃退しちまった」
「てめえ!」
倒れた男が怒って睨んでくる。
「大体、俺は何もしてないぞ? 何で襲ってくる?」
確か、この声は新人にいちゃもんをつけていたと思うんだが。
「……俺らのアイドルと仲良さそうにしてたから、ちょっと締めようと思ったんだよ」
アイドルってのは、おそらく俺と話していた受付嬢のことだろう。
「……要するに、嫉妬か。嫉妬するくらいなら自分から行動しろよ」
俺は呆れてそいつを見る。
「……ああ」
そいつは大人しく頷く。ちょっと頭に血が上っただけのようだ。
バン!
俺とそいつが少し和解している時だった。勢いよく扉が開けられ、物騒な集団と神父服のようなものを着た一団が入ってくる。
「……」
俺が殴った教徒がいたので、俺が目的だろう。……ってか、チクったのか、あいつ。意外と度胸がある。
「あ、あいつだ! ペットを庇い、教徒である私を殴り脅した、凶悪犯だ!」
その、俺が殴った教徒が俺を指差して言う。
「……凶悪犯、か」
どっちかというと、お前らの方が質悪いけどな。
「貴様! 我ら教団を侮辱したと見なし、第三区域送りとする!」
「……」
丁度いい、か。依頼主が第三区域にいるかもしれないしな。
「おい、こいつを壁際まで連行しろ」
教徒の一人が命令し、騎士が俺の両腕を掴んでギルドの外へ連行する。
「んん? これはこれは。ずいぶん、可愛らしいペットを飼っていますな?」
一番偉そうに命令していた教徒がアルティを見て言う。
「……」
「まあ、これは要らないな。おい、この汚らわしいペットを殺せ」
「っ!」
教徒がゴミを見る目でアルティを見て言う。
「てめえは……!」
俺は両腕を押さえる騎士を振りほどき、アヴァロンソードを教徒の喉元に突きつける。
「てめえら教徒は、何回俺を怒らせたら気が済むんだ?」
俺は教徒共を睨んで言う。その間に騎士二人が俺に剣を突きつけた。
「……は、ははっ! 冗談キツいな、貴様。その行為はペットを庇い、教徒に逆らったことになるぞ!」
教徒は顔を真っ青にして言う。
「……アルティはペットじゃねえ、仲間だ。おい、アルティ侮辱したら殺すって言ったよな?」
「ひいっ!」
俺は奥にいる殴った教徒を睨んで言う。
「貴様、正気か? 教徒に騎士、冒険者を使える教団に楯突くとは!」
「ああ。もちろん正気だ。それに、俺は別にてめえらがアルティに手を出さなきゃ抵抗する気はねえよ」
「……。わ、わかった。貴様らには第三区域に送るまで、手は出さない。これでいいか?」
「ああ」
厄介なことをしてしまったが、これで第三区域に行ける。……別に、自分で行っても同じか。
俺は大人しくギルドを出て、壁際まで行く。
「……」
俺の両腕を掴むのが騎士からマッチョ二人に変わる。
「「ふんっ!」」
俺の両腕をガシッと掴み、そのままぶん投げた。
……ああ。
俺は壁の上まで投げられ、思う。
こんなところだけ原始的なのな。魔法とかじゃなく。
「キュウッ!」
アルティが空を飛んで嬉しそうな声を上げる。
「……アルティ。このまま落ちるけどな」
無事壁を越えたはいいが、着地をどうしようか。
「アルティ、シャドウウィップ」
影の鞭を伸ばし、壁の上に引っかける。
「……ふぅ」
地面ギリギリで止まり、一息ついた。
「キュウ~」
アルティが一ヶ所を睨んで唸っていた。
「どうした……って、おいおい」
着地して早々、モンスターがいた。




