身分区別の国
大分遅れました。
「……第二回グランドクエストへのキークエストが見つかった」
「ホントか!?」
俺は白蛇を退治し、無限迷宮の最前線でアルファ・ディ・ベルガリエの調子が悪いことに気付き、アリシャに修理を頼んだ。
「……ん」
アリシャはやっと会えた超レア武器に感動して、さっきから修理もせずに頬擦りしてはぁはぁ言っている。……アリシャ。
「どんなクエストなんだ?」
「……『王国の滅亡』。一つの王国を滅亡させることが依頼内容。何でも、妙な教団が来てから酷くなったって。平民の人から」
……生活が苦しいからってことか。
「わかった。そいつはちゃんと直してくれよ、アリシャ。ちょっとそのクエスト、受けてくる」
「……ん。無事に帰ってきてね」
? アリシャがそんなこと言うなんて初めてだな。
「ああ。それまで、アルファ・ディ・ベルガリエは預けた」
俺はそう言ってアリシャの店を出た。
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「……」
「入国か?」
俺が門前で立ち止まってると、門番の兵士に声をかけられた。
「ああ。許可証はこれでいいか?」
俺はどこの国でも入れる冒険者入出国自由許可証を差し出す。解放されていない国や街を自由に出入り出来るカードだ。
「……冒険者か。いいぞ。ああ、ペットは貴族にちょっかいを出すと殺されかねないから気をつけておけ」
「……ああ」
今日はアルティも一緒だ。……アルティがペット呼ばわりされるのは癪だが、頷いて入ろうとする。
「……大切な仲間をペット呼ばわりして悪い。だが、この国じゃあそう呼ばないと命が危ないんだ」
「っ!」
門番はすれ違い様にボソッと囁いた。……いい門番だったのか。建前ってヤツか。俺も覚えとかないと。
「……」
街が三つに分かれている。門を入ってすぐには、両側に白い壁があって通路のようになっている。
その通路の先にも門があり、さらにその奥にも壁が見える。
国が三つに分けられているのか。
「入国者か。この国には初めて来るのか?」
二番目の門の門番が声をかけてきた。
「ああ。主な法律と、壁で分けられている理由を聞こうか」
「はいよ。冒険者か? なら、三番目の壁は通れないぞ。禁止されてる。あと、ここでは動物やペットを庇うな。貴族王族に逆らうな。身分が低いヤツを庇うな。それと、両側にある区域には入るな。……これくらいか」
「一番奥が貴族王族の住む第一区域。この先が冒険者、平民、農民、奴隷が住む第二区域。この横が立ち入り禁止の第三区域だ」
二人の門番が答えてくれる。
「……もし禁忌を破ったら?」
「第三区域送りになる。第三区域に入る門はないが、投げ入れるそうだ。投げ入れられたヤツは決まって何かに怯えて悲鳴を上げるんだ」
……何かがいるのか。
「魔物を飼ってるとかか?」
「……まあ、ここだけの話、死体置き場、ゴミ置き場、囚人入れ、魔物飼育場など、黒い噂は絶えない。ここの特別な気候で、風は外へと流れるんだ。臭いはわからないから噂し放題」
……とにかく、いい場所じゃないのは確かか。
「……わかった。入ろう」
俺が言うと、門番は門を開けてくれる。
……説明を聞く限り、腐った国なのはわかった。
「……まあ、第三区域に放り込まれるヤツの大概は来たばっかりの冒険者だ。気をつけろ」
「ああ」
気をつけるが、放り込まれるかもな。
「……とりあえず、依頼主を探すか」
俺は第二区域に入って、小さく呟いた。
「……冒険者ギルド? 冒険者が集まる場所か」
しばらく歩くと、冒険者ギルドを見つけた。情報収集には丁度いいな。
「……っと、武器は一応提げとくか」
アヴァロンソードとブレード・オブ・ロッドを腰に提げておく。武器なしは嘗められそうだ。
カランカラン。
「……」
注目を集めたのは、俺が新顔だからか、アルティを連れてるからか。
俺はそれを無視して受付嬢のところに向かう。
「……この国から他の場所に依頼したクエストってあるか?」
「えっ? あ、はい。魔物捕獲依頼がほとんどですが」
受付嬢はそれらの依頼を見せてくれる。……この国を滅ぼす手伝いをしてくれっていう依頼は、さすがに表にはないか。ギルドを通してじゃなく、個人的に出した物か。
……身分の低い、奴隷や農民に話を聞いてみるか。
「ありがとう」
礼を言って、俺は冒険者ギルドを後にする。
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「……おかしいな」
あれから奴隷や農民など、身分の低い者に話を聞いてみたが、特に反逆の意志はないようだった。確かに生活も扱いも厳しいが、逆らうのは分が悪すぎる。相手には騎士や冒険者がいるんだから。
じゃあ、この国を滅ぼす意志があって、騎士達と戦える人なのか? ……そんな都合のいい存在がいるのか?
「……おい、あれ!」
「教徒だ! 隠れろ!」
周りの住民がコソコソと言い合って、去っていく。何だ?
「おやおや。あなたは新顔ですかな? どうやら、私が誰かわからないらしいご様子」
偉そうなおっさんだった。……嫌な予感がする。
「……ああ。生憎と、さっき来たばっかりでな。身分が高そうに見えるが、誰だ?」
神父のような格好をしていて、ニヤニヤしている。
「……ふん。礼儀をわきまえない冒険者風情でしたか。私は身分が二番目に高い教徒の一人です。ーーわかったか!」
……話は聞いてなかったが、王族の次の身分だろう。アリシャの言ってた教団のヤツか。
教徒は蹴りを放ってきたが、その辺のモンスターの方が速いため、余裕でかわす。
「……それは失礼を。門番から話を聞いていなかったため、知りませんでした。それと、蹴りを避けたのは冒険者たる故の条件反射です」
こいつに敬語を使うのは癪だが、仕方がない。ちょっかいを出してこなければ何もしないでおこう。
「……チッ。冒険者風情が。ーーんん?」
教徒はイラついて言い、アルティに目を向ける。
「おやおやおや。これはこれは。ずいぶんとショボいペットをお持ちのようですね」
完全に俺を見下して言う。……この時点で殴りたい衝動に駆られたが、我慢しておく。面倒ごとは避けたい。
「こんな小さなペットでは穀潰しもいいとこでしょう。こんないらないペットは、私が殺してしまいましょ」
と、教徒がアルティに手を伸ばしてくる。
俺は周りに人がいないことを確認し、教徒を殴り飛ばした。
「ぐっ!?」
「……てめえ。次アルティのこと侮辱したら殺すぞ」
ドスの効いた声で言う。しっかり、殴り飛ばした教徒の喉元にアヴァロンソードを突きつけて。
「……っ!? だが、俺を殴ったんだ! お前はもう第三区域行きだよ!」
「……死人がどうやって喋るんだ?」
「っ!」
……まあ、NPCとは言え、人は殺したくない。脅すだけで済むといいんだが。
「……何が望みだ? 金か?」
教徒は怯えて言う。
「……いや。お前はこのことを黙っていれば、殺しはしない」
「ほ、本当か!?」
「ああ。だがーー」
俺はアヴァロンソードを少し前に出し、教徒の首を浅く傷つける。
「ひいっ!」
教徒は怯えて少し後ろに下がる。
「誰かに告げたら、命はないと思えよ」
こくこくこく、と首振り人形のように頷く。
俺はアヴァロンソードを引き、鞘に戻して、ホッとする教徒を無視して去った。
「キュ~……」
アルティが心配そうな声を上げるので、頭を優しく撫でてやる。
「……ちょっと怖い目に遇わせちゃったな」
アルティは女性には触れられても怖がらないが、男だと怖がるヤツがいる。初見のヤツは大体怖がられる。
「キュウ」
アルティは首を左右に振る。気にするな、ということらしい。
「ありがとな」
俺はアルティを抱き抱え、人気のない街を歩いた。




